まともな人、まともな人はどこ?

第一話の時点では少し笑えるテイストのものなのかな? と思って読み始めたらどんどん嫌な気持ちになっていく(褒め言葉)良質かつ多重的なホラーです。

人間が何に怖いと感じるかというのはパターンがあると思うのですが、複数のパターンを効果的に混ぜることで読者にいろいろな嫌な気持ちを想起させていく(褒め言葉)手腕はさすがの一言。民俗学的観点の使い方も秀逸で、物語に一気に深みというか、ただ事ではない感が生まれてきます。

他の作品もそうなのですが作者の方は「そこまで読んだ時点での読み手の状態」をかなり正確に把握しているように感じられます。「テイストを変える、あるいは新情報を出す」というのを絶妙なタイミングで意図的にやっているように見えます。というのは、出てくる登場人物が尽く素直に好きになれない特徴を持ち、それが隠すことなく描写され、通常であれば嫌な気持ちで胸焼けがする(褒め言葉)状態になりかねないところを、「ほらほらまだ新しい味があるよ」と唆されてつい読み進めてしまうのです。まあその新しい味もなかなかに嫌な気持ちになる味なのですけれど(褒め言葉)(好きな味です)。

この登場人物が好きだとか、助かってほしいとかの感情はあまり出てこない一方で、この世の中のどこか薄暗いところでひっそりと行われているヤバい物事をひっそりと覗き見ているような、そういった暗い興奮を引き出される一作でした。

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