通り道
およそ、200年前。
それは突如として人類の前に現れた。
人々はそれらをこう呼んだ――魔物と。
何かのゲームで見たことがあるようなスライムやドラゴンの姿をしたものから、ヒト型まで、魔物の姿かたち、行動パターンは多種多様だった。
そんなちぐはぐな彼らにもたった一つだけ共通点があった。
人類と敵対する。
そのたった一つの共通点しか持たない魔物に、人々は殺され世界は蝕まれていった。
もちろん、俺が今いる日本という国も例外ではない。
現在の人口は200年前の約1/10以下になり、人が住める都市は7つのみ。
俺はarea3、通称Yokohamaという都市に最近やってきたばかりだ。
「歩きながらで少し申し訳ないんだけどー、何か質問とかあったら答えちゃうよ」
俺の隣を歩いているふわっとした少女は砂糖のように甘い声を出しながらニコニコとしてる。
彼女の名は、
俺の上司にあたる魔法少女だ。
そして俺は今、彼女に連れられてハクサンチドリというチームの活動拠点へと向かっていた。
「いろいろ分からないこと教えてもらってもいいですか?」
「いいよいいよー。お姉さんが何でも教えてあげる」
「とりあえず、ハクサンチドリってどんな人がいるんですか?」
すると、ふわふわ歩いていた彼女が硬直する。
そして、ありえない速度で目が泳ぎ始めた。
もしかしていきなり地雷を踏んでしまったのか?
「
口ごもってるし、最後疑問形だしで色々怪しい……。
「ところで、天然とか人工って?」
「あ、そっか。レオ君は天然で今までarea3の外で暮らしてたからそこら辺も併せてよくわからないよね?鉛ちゃんからは何も聞いてない?」
鉛ちゃんとは恐らく先ほどの面接官の事だろう。
しかし、俺は彼女の話の間寝ていてまともに話なんか聞いてなかった。
小難しい話って昔からどうにも苦手なんだよな。
ただ、苦笑いする俺を見て天春さんは何かを察してくれたようだ。
「鉛ちゃんの話って、難しいし眠くなっちゃうよねー。わかるよ。私たちもよくやっちゃって、そんなんだから周りから問題児の掃きだめなんて呼ばれ……」
「え?」
「あ、うそうそ!今の話何でもないからねっ」
突然わざとらしくせき込み、念を押すかのように顔が近づいてくる。
近い近い近い。
それに、なんだかいい匂いもするぞ。
思わず顔が紅潮してしまうのが痛いくらいにわかる。
「今の、何も聞いてないよねー?」
少しばかりの照れと彼女の威圧感で俺は首を縦に振る事しかできなかった。
もう一度彼女はわざとらしくせき込むと、先ほどの説明の続きをしてくれた。
「今現在、area3で魔法少女になるには2種類の方法があって一つは私たち人類を魔物から守ってくれる精霊と契約する方法。もう一つは、人工的に作られた疑似精霊と契約する方法。前者は、普通の人の目には映らない精霊を見ることが出来る才能が、後者には魔法少女への適正が必要なんだー」
「適正っていうと?」
「体力とか、判断力。あとは最近だと学科の試験があるみたいだね」
何ですと!?
よかったぜ、俺には精霊を見ることが出来る才能が有って。
「ところで、天然と人工ってなにが違うんですか?」
「シャア専用ザクと量産型ザクみたいな?」
「言い方悪くないっすか!?」
「冗談だよ、冗談~」
そうこうしているうちに、どうやら目的の場所についたようで、彼女に促され協会ビルのある一室に入った。
部屋はひどく殺風景で、その部屋には窓の一つもなかった。
ただ一つ、奇妙な点を挙げるとすればそれは床一面に描かれた大きな魔方陣だろう。
「これはー、転送陣って言って別の場所にワープして移動できるんだよ」
転送陣、話には聞いたことがある。
精霊の力を使って、特定の2点間を移動することが出来るという。
俺と天春さんが乗ると、彼女は何か呪文を詠唱し、それと呼応するかのように魔方陣が輝き始める。
だんだんと光は強くなり、目を開けられないほどになる。
けれども、すぐに光は弱まっていったようだ。
光が収まるにつれ、本能的に自分が先ほどまでとは別の場所にいることが出来る。
ゆっくりと目を開けるとそこは――暗闇だった。
塗りつぶすほどの黒。
動揺しつつも、俺は彼女が隣にいることを気配で感じ取る。
が、感じ取った気配はそれだけではなかった。
正面に一人新たな気配を感じる。
「ようこそ、ハクサンチドリへ。残念だがここが貴様の終着点だ」
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