歓迎
仰々しい言葉と共に、俺の目の前にいた人物がスポットライトによって照らされる。
茶色いショートカットの可愛らしい女の子が仁王立ちで立っていた。
年は恐らく俺よりも少し下に見える。
「よく来たな、新入り。早速で悪いがお前の力を試させてもらうぞ」
「なるほど。こりゃ手荒い歓迎だな」
先輩命令なら仕方ない。
疲れてたし、ちょっとしたストレス発散には丁度いいだろう。
彼女と戦うために俺は魔法少女へと変身する。
ところで、魔法少女と言われてあなたは何を想像するだろうか。
大概の人はかわいいドレスとか、フリフリの衣装を想像したと思う。
実際、その通りだ。
本来、魔法少女なんてものは女の子のためのものであり、決して男がなるものではないのだ。
だからこそ、男の魔法少女の衣装がどうなるかなんてわからない筈。
そして、それは男の魔法少女である俺にも分からない訳で。
つまり何が言いたいのかって?
俺は今、黒いリボンとフリルがあしらわれた白を基調とした大変可愛らしいドレスを身にまとっている。
ここまで言えばきっと分かってくれるはずだろ?
後、先に行っておくが俺は決して女顔ではない。
端から見れば、ただの女装している変態にしか見えないのだろう。
それでも、人類を守るために戦えるのだ。
決して恥ずかしくはない。
うん、恥ずかしくない。
「……めっちゃ可愛くなった」
茶髪の少女がぼそりとつぶやくと、その声につられてクスクスと笑い声が漏れてくる。
あれ、すぐ隣からも聞こえてくるぞ?
俺は少し恨めしそうに天春さんを睨むと、彼女は決して俺を見ないように手で謝罪の意をジェスチャーしてきた。
この人めっちゃ、笑いをこらえてやがる。
「姿形なんてさして問題ないだろ?」
笑われた恥ずかしさを紛らわすかのように、そう言って俺はこの衣装の武器である大剣を握る。
剣の長さは1mより長いくらい。
種類で言うとクレイモアに近い。
しかし、今は室内だ。
そんな大きいものを振り回せば、この部屋が大惨事になることは間違いない。
ただ、かっこよく武器を出した手前、引っ込めずらい。
「まって、まって。お前の(武器)はそんなに大きいのか?」
「そんな大きいか?」
「……すごく大きいよ」
なんだろう、この罪悪感。
きっと他意はないのだろうが、明らかに年下の女の子にこんなセリフを言われるとさすがに色々と感じざるを得ない。
彼女のセリフに何か感じたのは俺だけではなかったようだ。
彼女を後ろから照らしていた照明が大きくそれる。
それと共に鮮やかな赤い何かが飛び散っていく。
照明の人は興奮しすぎじゃないだろうか。
「よし、いったん落ち着こうじゃないか新入り。とりあえず武器を治めよう」
まあ、こっちも武器をしまいにくかったしありがたい。
彼女に促され、武器をしまう。
「クー坊、そいつかなりの逸材じゃぞ」
「へ?」
「筋力S
照明よりもさらに奥から新しい声が聞こえる。
恐らくは俺の能力値を読み取ったのだろう。
魔法少女にはその力を示す指標として5つの能力値があり、その値も魔法少女自身のランクの参考となる。
その能力値は、ランクと同じくS~Fの値が振り分けられる。
一応、この衣装を身に纏う俺は自分で言うのもなんだがかなり強い。
「ところで、新入り?平和的に解決してやらんこともないがどうだ?」
言葉だけは悪の親玉の様なセリフだが、その顔からは滝のように汗がこぼれていた。
さすがに虐めてるみたいでよくないよな……。
「それでいいぜ。さすがに年下の女の子相手と戦うのは気が引けるからな」
……ん?
俺、何か間違ったこと言ったか?
一瞬、空気が凍り付きそして先ほどとは比べ物にならない笑い声が部屋中にこだまする。
目の前の女の子は目に涙を浮かべ頬を膨らませてプルプルと震えている。
「俺は、女じゃ、なーーーーーーいっ」
♦♢♦
「少しドタバタしちゃってごめんねー、じゃあ自己紹介しよっか」
衝撃的なカミングアウトだった。
俺はそのカミングアウトを未だに信じられないでいる。
普通に部屋の明かりがつけられると、そこがどこかアパートのような場所の一室である事がわかる。
「じゃあ私からいくねー。私は天春いちじく。リーダーやってて、能力は電撃系です」
大きなちゃぶ台を俺を含めて6人で囲っている。
どうやら天春さんから順に自己紹介をしてくれるようだ。
「俺は、
まさかのキラキラネームっ!?
先ほどまで俺と相対していた少女、いや少年は不機嫌そうに自己紹介をする。
どうやら、彼は男の子もとい男の娘のようだ。
実際、女の子って言われたら信じてしまうレベル。
「私は、
なんかすごそうな能力の人きた。
和風美人という言葉がとても似合いそうな黒髪の少女。
雰囲気からきっと彼女がクールであることが窺える。
ただ、ある一点を除いて。
「さっき、興奮して鼻血出してましたよね?」
「出してないわ」
「でも、そのティッシュ……」
「気のせいよ」
「でも……」
「 気 の せ い よ 」
言い切られてしまった。
でも、多分さっき興奮してたのはこの人だろう。
一人だけ鼻にティッシュ詰めてるし。
「儂は、
古風な口調にはアンバランスなほどロリっ子なツインテールの女の子が自己紹介をしてくれた。
恐らく、冠よりも更に年下にしか見えないが、実際はどうなのだろうか。
冠の事もあるし、彼女の言葉の真偽が測れない。
ただ、先ほど俺の能力値を言っていたのは彼女で間違いないだろう。
「私は、
今まで自己紹介された中で、一番まともな人に見える。
能力はちょっと何を言ってるかわからないが、きっと理由があるのだろう。
名前の通り桃色の髪にとても笑顔が似合っていた。
「最後は俺か」
ようやく自分の番が回ってきた。
何を話せばいいか少し緊張するな。
言葉を選びながらゆっくりと、俺は言葉を紡いでいく。
「俺の名前は
そう、気持ちだけは負けるつもりはない。
俺は、あの人の分まで背負って生きなくちゃいけないから。
きっと訪れることのない、再開の日まで。
「あと、俺の能力はコピー能力です」
それが、最強であり最弱でもある俺の能力
誰かほかの魔法少女と全く同じ力を使うことが出来る力。
さっきのあの衣装は、あの能力は、あの強さは、全て俺の大切な人の物だった。
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