仲間
俺たちはほんの数秒前には死んでいたのかもしれない。
目の前に突如として現れたドラゴンは炎をまき散らし、あたり一帯を焼け野原へと変えていた。
「なあ、ドラゴンってスライムよりもエンカウント率高かったりするのか?」
「そんな訳ないでしょ!むしろ、こんな街の近くで普通は会えないわよ」
ドラゴンが俺たちの方を向き大きな咆哮を響かせる。
それはまるで、俺たちに次は無いとでも言っているかのようにも聞こえた。
「ふ、二人ともどうする?試しに戦って……」
「ももさん、冗談を言っている場合ではないわ」
「戦わないとなると、逃げるってことだよな」
「当り前よ。少しは考えなさい愚図」
こんな危機的状況でも辛辣だな。
しかし、危機的状況であるとはいえ俺はそこまで悲観的にはなっていない。
そもそも、俺の今使っている魔法少女の力ならばどうにかなるのではないかと思ってしまう。
まあ、他の二人がどうなのかはわからないし、ここは安全にいこう。
「殿は俺が務める。二人とも逃げるぞ」
「あんたなんかに、私の背中を預けるとでも思う?背中なんて見せたらドラゴンより先にあなたに襲われそうね」
さっきの事まだ引きずってんのかよ。
てか、俺悪くねーし。
そもそも今は協力すべき状況だろ。
「レオ君、殿は私の役目だよ!むしろレオ君は先に行って味方を呼んできて」
「いや、でも俺の――」
俺の方がきっと強い。
夏目さんの事もよく知らないで俺はそう言いかけてしまった。
でも、彼女の震える足を見て、その覚悟を悟って何も言えなかった。
「ぐずぐずしてる暇は無いわよ、第二撃来るわ」
ドラゴンの口から、火炎弾が放たれる。
先ほどの一撃は手加減していたのか、あるいは当てるつもりはなかったのかもしれない。
二撃目は先ほどよりも大きいのが見て分かる。
「私が盾になるよ!」
そういって、夏目さんは火炎弾に向かって立ち向かっていく。
無茶だ。
あの一撃は俺でも耐えられる自信はない。
それでも彼女は立ち向かっていった。
それだというのに、俺は足がすくんで動かなかった。
直後、すさまじい爆音とともに彼女は火炎弾に飲み込まれていく。
衝撃の余波によって、俺と尊慈さんは吹き飛ばされていた。
「待ってくれ、時間跳躍。時間跳躍してないのか?」
「してないわ。……いえ、する必要なんてないわ」
「え?」
「あなたはやっぱり愚図ね。もっと仲間の事を知った方がいいわ」
段々と、火炎弾の衝撃によって巻き起こった砂煙が晴れていく。
煙の中には一人の少女が、先ほどと変わらぬ姿勢で立っていた。
彼女は健在だ。
「あっつーーーい」
更に言えば、まるでダメージを受けていないかのように平然としている。
彼女の無事を確認して、俺は安心よりも先に驚嘆してしまった。
驚く俺の顔を見て、尊慈さんはにやりと笑う。
「私たちハクサンチドリってね、ハクサンチドリという花の花言葉になぞらえて”存在が間違い”とか私たちを良く知りもせずに”問題児の掃きだめ”とか言われてるの」
「めっちゃ悪口じゃん」
「ええ。それに夏目さんなんて”精霊から嫌われた子”なんて言われてるわ。天然の魔法少女で精霊と契約してるはずなのに笑えるわよね」
「いや、笑えねえよ」
でも、なんで。
なんで、あんなにも強いんだ。
そう言いかけた俺の唇を尊慈さんは指でふさぐ。
「強くないわ。彼女は決して強くない。能力は無いし、武器は素手。ステータスもたった一つを除いて最低ランクのFよ」
「なっ!?」
「だけど、耐久力だけはSの評価。滅茶苦茶硬いこと以外は殆ど人間の女の子と大差ない。だから、”精霊から嫌われた子”なんて不名誉な称号で呼ばれているわ」
「でも、その耐久力ってすごくないか?」
「ええ、凄いわ。でも、一人じゃ何もできない」
その言葉に俺は何も言えなかった。
気づいてしまったのだ。
俺も一緒だと。
俺は一人で何でもできてしまうと、そう思っていた。
でも、きっと違う。
コピーという能力の時点できっと、一人じゃ何もできないんだ。
だから、俺はきっとここに来ることになったのだろう。
「ハクサンチドリはね、そんな一人じゃ何もできない人の集まりよ。だから、周囲から蔑まれる。でも――」
尊慈さんは言葉を止めた。
もしかしたら、彼女はどこかで分かっていたのかもしれない。
仲間たちが助けに来てくれることを。
「ごめんねー、あの後で3人の指令地点近くでドラゴンが観測されたって聞いて急いで追いかけたんだけど、遅くなっちゃったねー」
「最初から儂を連れてけばよかったのじゃ」
「ふっ、ピンチのようだな。我が直々に手を貸してやろうではないか」
ほんと騒がしい奴らだ。
でもその騒がしさが何だか安心できてしまう。
さっきまで、頼りない奴らだと思っちゃってたのにな。
そして尊慈さんが先ほど言いかけたであろう言葉を口にする。
「私たちは、一人じゃ何もできない。でも、全員揃えばきっと何か一つくらいは成し遂げられるわ」
♢♦♢
人数が倍になったとはいえ、相手は強力だ。
倒すことが出来るかはわからない。
「コピー能力のお手並み拝見と行こうかの。皆よ、手早く自分の特徴を言っていくぞ。儂の能力は治癒じゃ」
「私はー、電気だよ。銃で戦うんだー。でも使うと皆ビリビリになっちゃうのー」
「私はパスよ」
おいおい、パスってありかよ。
まあ、お前の能力はすでに知っているからいいんだけれども。
「うえぇっ!?パスってありなのか?」
ほら、驚いちゃってる子いるよ。
言葉遣いはあれだけど、中身は年相応に可愛らしそうだ。
「じゃ、じゃあ我もパスだ」
いや、おめーはダメだ。
てか、変に影響されちゃうから尊慈さん自重しろ。
「私は何にもないよ!でも健康には自信があるよっ!」
能力が元気で明るいってそういうことだったんですね。
てか、夏目さんには悪いけど多分夏目さんをコピーすることはないと思う。
「どうしたんじゃ、クー坊。能力を言うのがそんなに恥ずかしいか?」
「うるさいっ。別に我は恥ずかしくなんか……」
「みんな、ゴメン。火炎弾そっちにいっちゃう!」
ドラゴンはどうやら、やってきた援軍にようやく気が付いたようで、今度は狙いを夏目さんから俺たちへと移したようだ。
しまった。
防御に自信がある夏目さんとは違って、ここにいる俺たちがあんなものくらったらひとたまりもない。
ドラゴンが息を吸い込み、吐き出そうとする瞬間。
夏目さんの声に反応して動き出す影が一つ。
冠だ。
彼は俺たちから離れていくように走っていく。
「悪龍よ、我を”見よ”」
走りながらそう叫んだ。
すると、先ほどまで此方を向いていたはずのドラゴンが急に冠の方を向く。
いや、もしかしたら向かされたといった方が正しいのかもしれない。
そのままドラゴンは、彼に向かって火炎弾を吐きかける。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
可愛らしく悲鳴をあげつつも、間一髪のところで攻撃をよけたようだ。
でも、今のは一体……?
「驚いたかの?今のがクー坊の能力じゃよ。奴は呼び掛けた者全ての視線を釘付けにする。ターゲットを無理やり変える立派な能力じゃ」
「さてー、レオ君だったらこの状況どうする?」
え?
ここで俺に振るのかよ。
チームなんだから新参者の俺が口を挟まなくてもしっかりした連携できるんじゃ……。
「一番攻撃力のある魔法少女に変身して、二人で同時に攻撃するとかですかね?」
「じゃあ、私の能力だー。どこ触ってもいいよー」
じゃあ、その豊満なお胸を……。
なんて行ける度胸俺にはなかった。
とりあえず手を握ることで解決。
「攻撃するのは良いとして、ドラゴンの外皮は硬いわよ?どうするつもり?」
「大丈夫、考えてある」
作戦会議をしている間、夏目さんと冠がうまく敵を引き付けてくれていたようだ。
ドラゴンの攻撃の隙を縫って、俺は冠を触りに行く。
今回の作戦はシンプルだ。
前衛二人が攻撃を引き付ける。
ドラゴンが火炎弾を吐くために息を吸うタイミングで今度は俺が敵の視線を奪う。
そして、衣装を変更し俺と天春さんの攻撃でドラゴンの外皮ではなく口内に電撃を当てて仕留める。
「タイミングがちょっとシビアだけど大丈夫……なはず」
「はぁ……、無責任ね。でも、一回だけなら気合でやり直させてあげるわ」
「それ聞いて安心した」
中々、ドラゴンは火炎弾を吐こうとしない。
その間、ドラゴンと夏目&冠ペアは死闘を繰り広げる。
上手く敵を引き付け、敵がこちらに向かってこないように引き留められている。
そして、待っていた瞬間は突然やってきた。
ドラゴンがしびれを切らしたのか、息を大きく吸い込んだ。
「今だ」
誰が言ったのかは分からない。
でも、その合図とともに俺は冠の能力を行使する。
ドラゴンが、前衛の二人から急にこちらの方向を向く。
すぐさま俺は衣装を変え今度は天春さんと同じ衣装に。
二人で銃を構え、
「いくよー、いっせーのーせっ」
そして、息を合わせて引き金を引く。
銃口からはビームの様に電撃がほとばしる。
それと同時に、撃っている俺にも電流が流れしびれるのがわかる。
皆ビリビリになっちゃうってこういうことか。
よく見ると、後衛にいた尊慈さんとくるみちゃんは感電してピクピクしている。
二人とも大丈夫なのだろうか?
まあ、ドラゴンを倒せれば問題ないか。
そう思っていた。
だが、少しだけタイミングが遅かったようだ。
俺たちの電撃は火炎弾と相殺されてかき消されていた。
「しまった、時間跳躍は?」
もう1度チャンスがある。
そう思っていた。
けれど、肝心の少女は感電して意識を失っていたようだ。
恐らくは、俺も同じ攻撃をしたことによって普段よりもダメージが大きくなったからだろう。
そして、俺は時間跳躍の能力を上書きしてしまったため巻き戻せない。
更に不味いことに、遠くにいるはずの冠も感電し意識を失っている。
夏目さんは辛うじて耐えていたようだが、先ほどまでのダメージもあったのかうずくまっている。
俺たちを守る盾も無く、
詰みだ。
ドラゴンは自分の火炎弾を防がれた怒りからか、咆哮をあげなからこちらへと突進してくる。
「まだ、諦めちゃだめだよー。もう一回頑張ろ?」
先ほどの攻撃で、感電したものの動ける人間が他に1人いた。
天春さんだ。
彼女は俺の手を握る。
「でも、あいつはもう口を開けてませんよ!?」
「大丈夫。きっと何とかなるから」
なんの根拠があるというのだろうか。
でも、何もしなければきっとこのまま全滅してしまう。
握られた手に力をこめる。
手を握っているだけだというのに、不思議と力が湧いてくるような気がした。
「あれ?」
その時だった。
俺の銃が光の粒となり、彼女の銃へと吸い込まれていく。
「これも、レオ君の力?」
「いや、分からないです。こんなの初めてで……」
「不思議だねー。でも、これってきっと神様が二人で一緒に撃てって言ってるのかな?」
「かも、しれないですね」
そういって、銃を構える彼女の手に自分の手を添える。
二人の間に言葉は不要だった。
引き金を引くと、先程とは比べ物にならないほどの電撃が銃口から放たれる。
その一撃がドラゴンに対し与えたダメージは測り切れない。
ドラゴンはその一撃に怯んだのか、どこかへと逃げるように飛び去って行った。
「皆無事でよかったねー」
そんな声は段々と遠くなっていく。
先程よりも強力な一撃だ。
自分に返ってくるダメージもさらに強く、俺は意識を失ってしまった。
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