眺める者

 ハクサンチドリはドラゴンと遭遇しそれを撃退した。

 その様子を眺める男がいた。

 彼は、とあるビルのとある一室から監視用の小型ドローンによって送られてくるその一部始終を眺めていた。


「期待以上の成果じゃないか」


 レオと天春が放った最後の一撃を見て彼は満足そうに笑う。

 その彼の手元には一枚の資料があった。

 そこに書かれているのは甘木レオという少年のプロフィール。


「ようやく、君を取り戻すことが出来そうだ」


 現在魔法少女の男女比はおよそ9:1。

 しかしながら、その1の中に天然の魔法少女である男は一人として存在しない。

 だが、その事実は決して公表されてはいなかった。

 天然の魔法少女と名乗る男の魔法少女は存在している。

 ただし、その全てが本当は嘘であることは彼を含めた一部の人間を除いて知られていない。


 元来、天然の魔法少女はそう多くない。

 そもそも少女と契約することのできる精霊自体が希少な存在であると同時に、精霊を見ることが出来、そして精霊と意思疎通できる人間などほぼ存在しないからだ。

 けれども、それでは魔物という脅威から人類を守ることなど到底できない。

 なにしろ数が足りない。

 そこで人類は生き残るためにある禁忌を犯した。

 

 結果、魔法少女は量産化されることとなる。

 その効率化の途中で男でも魔法少女になれるよう人工精霊は改良されていった。


「へー、これが君の計画にいた子かい?」


 声と共に、何もなかった空間から人型をした何かが浮かび上がる。

 まるでもやがかかっているような存在――精霊だ。


「ああ、ここまでは概ね計画通りだ」


「本物の天然魔法少女しかも男。こんなの知られたら黙ってない奴らがいると思うけど?」


「それも織り込み済みだよ。だからこそ、何人もの人工の男魔法少女に天然だと名乗らせていたのだからね」


「彼の為のカモフラージュか。その為に何人が奴らに殺されたんだい?」


「私にとっては些末な事だ」


「まあ、僕は面白ければ何でもいいんだけどね。でも、そんなんだから君の下から離反する魔法少女が後を絶たないんじゃないのかい?」


「それも計画の内だよ。それに、ワンサイドゲームはつまらないだろう?」


「そうだね。君のそういう所、本当に人間らしくて好きだよ」


「果たして私はまだ人間であると言えるかい?」


「おいおい、人類を守る魔法少女協会のトップがそんなことを言っちゃダメだろ」


「だからこそ計画を為した暁にははあるよ」


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