1章 時をかけたかった少女
長い1日の始まり
チクタクチクタクと時計の音がうるさく聞こえる。
カリカリカリとペンの音もひどくうるさい。
ドクドクドクと自分の鼓動ですらノイズに聞こえてしまう。
大丈夫、やれるだけのことはやった。
でも正直、座学はあまり自信がない。
今受けているテストも緊張とプレッシャーで解けている気がしない。
だとしても、私はやらなければならない。
だって、今年が魔法少女になれる最後のチャンスなのだから。
♢♦♢
「なんでそんな事もわからないのかしら」
「知らないもんは知らないんだし、仕方ないだろ」
俺は多くの参考書と共に、叱られていた。
理由は簡単。
魔法少女としての基礎的な教養が俺には足りないからだそうだ。
「こんな愚図が魔法少女になれるなんて最悪よ」
尊慈さん……いや、冥はとにかく俺への当たりが激しい。
特に勉強に関してはそれが顕著に表れる。
俺がハクサンチドリに来てかれこれ1か月ほど過ぎたが、その態度が変わる気配は一切ない。
そして、俺が彼女を冥と呼ぶのにも理由がある。
俺と冥があまりにも仲が悪いのを見かねてリーダーである天春さんが俺たち二人で組んで様々な指令に臨むよう命令したからだ。
題して、仲良し計画。
下の名前で呼ぶのはその計画の一つ……らしい。
果たしてそれに効果があるのか俺は測りかねるが。
「わー、二人でお勉強なんて仲良しだねー」
来たよ、元凶が。
というより、どこをどう見たら仲良く見えるのだろうか。
良くて、奴隷とその雇い主程度だろうに。
「そんな仲良しな二人にプレゼントでーす」
じゃーん、と自分で効果音を付けて彼女は2枚のチケットを取り出した。
ファンシーなキャラクターが描かれた可愛らしいチケットだ。
「大人気テーマパーク”ネズミーランド”のチケット。勿論、仲良しな二人なら行ってくれるよね?」
「……ネズミーっ!?」
可愛らしい笑顔とは裏腹に、とても圧力が強かった。
断ることが出来ないとはこのことを言うのだろう。
チケットを渡して彼女は満足そうにどこかへと去っていく。
「どうする?適当に外出て誤魔化すか?」
「……行くわよ」
「へ?」
思わず耳を疑ってしまった。
あの、暴言女王がまさかデレた……だと?
「このチケット、男女ペアじゃないと使えないらしいわ。付き合いなさい」
デレなのかな?
兎にも角にも俺には選択権は無いようだ。
♢♦♢
魔物の襲来によって世界は一度壊滅の危機に陥ったのだが、魔法少女のおかげで、何とか持ち直している。
area3の開発も大きく進み、何も無い焼け野原にはビル群が立ち並びインフラも復旧し遂には娯楽施設なんかまで出来てしまった。
半強制的にテーマパークまで連れてこられたが、俺の想像以上に大きく、そして人で溢れている。
「なあ、めっちゃ混んでるし帰らないか?」
「あなたは黙って並ぶことも出来ないの?」
そうですか、並ぶんですね。
まだ朝早いというのにも関わらず、既にアトラクションは1時間以上待たなくちゃいけないなんて常軌を逸している。
俺がげんなりしているのとは反対に、隣にいる暴言女王様はテーマパークのキャラクターの耳みたいなのまでつけてノリノリのご様子だ。
「もしかして、俺とのデートが楽しいとか?」
「頭おかしいんじゃないの?私はネズミーランドに来たかっただけよ。来るならあなた以外と来たかったくらいだわ」
冗談で言っただけなのに。
俺のライフポイントをガリガリと削ってきやがる。
「なあ、飲み物買ってきていい?」
直後、俺は思い切り蹴り飛ばされていた。
周りがざわつく。
ざわつくのも無理はないだろう。
俺を蹴り飛ばした彼女はいつの間にか魔法少女化していた。
「そんなに気に障りました?」
「冗談よね?違うっていうならもう一発蹴り飛ばしてあげるわ」
テーマパーク内は仮装している人で溢れている。
ここでは魔法少女化したところで、仮装として片づけられるに決まっている。
ざわつくのには別の理由があった。
俺が立っていた場所が、光線のようなもので焼き払われたからだ。
「反応が若干遅れたけど、何とか3秒以内には入っていたようね」
それが俺と冥の長い長い一日の始まりでもあった。
俺は男だけど、どうやら最強の魔法少女らしいです 白味てこ @tecopin
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