銀行最後の日とそれから最悪の出来事・・・(その2)

 部屋に入ると、前に顔の知っている社員が3名、後ろに2名いた。


 一番偉そうな人から、コンプライアンス部の坂田という名刺を出して、


「今日は、わざわざお越しいただきありがとうございます。現在、不備不正の融資について調査しており、ご協力いただきたい。」


 と、柔らかな感じではなしてきたが、もう一言、


「会話の内容は、後ろの2名の弁護士の立会いの下録音させていただくのを了解いただきたい。」


 私は、まさかの展開で少し動転していたので、


「了解しました」


 と、いったが、今から思えば、そんな話は高橋次長からの連絡があったときに聞いておらず、帰る、とでもいえばよかったかもしれない。


 しかし、それが言えなかったことから、調査は進むこととなった。


「まず、A社の〇年〇月の融資について覚えていらっしゃいますか?」


 と、坂田氏が話し始めたが、私は、


「A社については、覚えていますが、個別の融資については具体的には覚えていません。」


 と答えると、坂田氏は、


「では、B社については、どうですか?〇年〇月にあなたの稟議起案が残っていますが、覚えてらっしゃいませんか?」


 私は、

「やはり、個別融資については、具体的には覚えていないですね。あの当時は、若手が辞める人が多く、人材不足のため、私が起案していましたからね。」


 坂田氏は、


「ただ、あなたの部下からも調査したところ、あなたの指示があって行った。との回答も得ていますが、その点についてはいかがでしょうか?」


 私は、昔から、部下には課長として、必ず責任はとるという口癖であったことから、どういう回答したらいいか本当に悩んでいた。特に、だまされてきたことから、何の準備もなく、高橋次長に対する憤りも感じつつ、


「いや、個別の指示については本当に覚えていません。」


 そう答えるしかなかった。


「ただ、言えることは、私が印鑑を押しているのも事実ですから、私も責任はあると感じております。しかし、個別具体的には、覚えていないとしか言えません。」


 坂田氏は、


「わかりました・・・」


 ところが、そこで初めて、後ろにいた弁護士が、


「あなた、そうおっしゃいますが、周りはあなたが指示したといっているんですよ。覚えていないなんて嘘でしょう。はっきり言ったらいいじゃないですか?」


 と、詰問し、誘導してくるのであった。私は、なぜ私がこんな目に合わなければならないか、本当に憤りと、焦りと、悲しさを感じて最後に言った。


「あなた方は、私が退職した理由はご存じのはずだ。部下の自殺の件もありやめた私が、もう忘れたいと思ってきたのは普通の感覚ではないですか?私は、わすれるようなんとか、頑張ってきたんですよ・・・」


 そこにいた5人は、何も言えなく黙りこくってしまった…(その3に続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る