手のひら返し
雨の日にかさをさしてくれない銀行・・・
銀行は、雨の日はかさをささないとよく言われるが、実際はそのとおりだった。理由は・・・・。
まず融資の基本を述べる。会社を定量と定性の両方で分析し、お客様のニーズにあった商品で融資する。そして、計画どおりに回収する。
ところが、これに上司の判断が入るととたんに変わる。
高知支店の勤務時代に、松田次長が赴任して来た。「初めての次長です。なんとか業績上げてひと花咲かせたいです。」と発言どおり、とても積極的な方だった。7月の転勤での発言後、すぐ9月の半期の締めが来る。やはり、銀行は3月、9月は実績を作る時期で何をやるのもまずこの月までにやらねばならない。
私も、数字を伸ばすためセールス先を松田次長に相談していた。高知では珍しく、上場目指していた中古車買取販売会社のピックワン社の在庫の運転資金で、5000万円のセールスをしたいと話すと、
松田次長は「手形貸付だと月々の返済で数字が落ちるとまたセールスしないといけないから、どうせ返済したらまた貸すんだったら、返済しなくていいずっと貸したままの当座貸越の商品でセールスしよう。支店長には俺が話しておくよ」
といわれ、私もいやにアグレッシブな次長だなと思った(前の支店でなんどかはしごをはずされた経験が有り不安も感じたが・・・)。その商品ならすぐ借りてもらえるはずと思い、小田社長に「是非当座貸越5000万円で枠を作ってください。使いやすいからいいと思いますよ。金利も相当優遇します。だから、今月使ってください。」
小田社長も、「わかった。枠を作って利用しよう。」
見事、その月は数字がのびて、支店でも大変評価されていた。
ところが・・・
半年後大事件でした。3月決算で当社の業績が若干下がって、定量審査でも格付が1ランク下がりました。
すると、3月の転勤で交代した杉本支店長に呼び出されました。
『ピックワン社の当座貸越は継続は無理だ。返してもらえ。理由は挌付が下がったからでいい。無担保で、当座貸越は挌付が最上級クラスしかダメだ。俺は、一般先に当座貸越を使うのが嫌いなんだ』
わたしは、「えっ、でもこちらからセールスした手前、返せという理由にはならないのではないでしょうか?格付下がったと言っても、正常先ですぐどうこうなる先ではありません。」
杉本支店長、「どうこうなるのを言っているのではない、わかれよ。最大限譲って手形貸付に変更して、約定弁済してもらえ。」
松田次長が助け舟を出した(助け舟というよりは、自分が当座貸越を提案した手前どうしてもソフトランディングしたかったからだろう)「支店長できれば、手形貸付で約定弁済付ではなく、期限一括ではダメですか?さすがに、半年後に手のひら返しみたいでは、問題になるかもしれません」
支店長、『問題になってもいい。いや、何が問題なんだ。業績も、格付も下がったんだ。ベタ貸から回収図るのは当然だ!(ベタ貸とは返済が無くずっと貸しっぱなしということだ)とにかく交渉してこい。そこらへんをうまくやるのが、次長の仕事だろ。わかれよ!!』
松田次長と私は、小田社長に行った。「社長、申し訳ございません。決算で挌付が下がって、当座貸越の商品が適用できなくなりました。手形貸付に変更してください。また、約定返済もお願いします。」
小田社長は、顔色を変え激怒した。「ふざけるな。お前らからセールスしてきたもんだろ。決算にしても、若干利益は落ちているが、先行投資分だ。それをお前らは、貸剥がしするのか?納得いかない、もう一度検討しろ」
帰りに、2人で話したが、結論は出なかった。松田次長のほうが更につらそうだった。それはそうだ。自分が当座貸越がいいと言ってセールスしたのを支店長が変わるとできなくなるなんて、思わなかったはずだ。
私は、「松田次長、銀行としての言い分はひどくは無いです。無担保で当座貸越はたしかに最上級の格付は必要ですが、おちたら、それを変えてくれというのは正当な言い分のはずですよ」と気休めを言うと、
松田次長は「だけど、やっぱり貸剥がしだよな。なんとかしたいが、支店長がなんというか・・・」見ていられないほどの疲労感が見えた。
支店に変えると、杉本支店長は待っていたとばかり、「どうだった?」
わたしが、「やはり、納得してもらえませんでした。もう一度内部で検討してくれということです。」
すると支店長は、
『わかった。再度譲って手形貸付期限一括を認めてやる。これが最後だ。』
2人とも「わかりました。交渉してきます。」
再度、小田社長に交渉すると、
『もういい、わかった。お前らまじめに話をしたから、今度だけ聞いてやるが、もうこれ以上は借りないから。』
私は、なさけなくなった。これが、銀行のやることか?
因みにピックワン社は5年後店頭公開は果たした。杉本支店長は、他のお客さんにも同じような対応していたため、高知支店の業績はまったく伸びず、3年間で最低の業績が続いた。
なぜこうなるのか?
次長がいいというが、支店長はダメという。一番決裁者の支店長が一番判断が出来ているのか?いろいろ悩む。
現場は、大事なことは目利き能力で、決算の数字だけで判断しないということになっている。だけどそのように判断しようとしても、支店長の好みで判断や対応が変わり、時には手のひらを返すようなこともする。支店長的には忖度ではあったが、組織としては限界であったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます