不正統計事件の本当の意味(COBOLが原因だった・・・)をスルガ銀行不正融資事件と共に考えてみる・・・

 元々システム設計や制度設計が正しいものではなかったということではないだろうか?


 統計の不正調査で原因が現場の人員の不足等していたことが指摘されていたが、最近になりそれだけではなく『そもそも制度設計が古く対応できていないこと』が本当の原因ということがわかってきた。


 現場とは、言われたことに対し実行するものであり、一度動くと簡単には止まらない。つまりは、最初の設計制度がどんなに間違っていようとも突き進んでいくのだ。


 融資もそうだった・・・


 私がいた東西産業振興銀行のことを翻ってみる。


 銀行の不正融資といえば、スルガ銀行の不動産賃貸融資がすぐ思い浮かぶが、一般的には中小企業に対する制度融資の取り扱いの不正である。


 取り扱っている制度融資は、4月から翌年3月末までの行政の会計年度予算で設計される。


 その制度融資の内容は、たとえば、円高不況のときは『円高対策制度』となるし、リーマンショックのときなどは『国際金融環境悪化制度』である。古くは、貸し剥がしや貸し渋りに対応する『金融環境変化制度』もあった。


 不思議なことに、私が入社してから常に制度融資は設定されていたように感じている。特に景気の悪化時の危機制度はわかるが、景気の回復している時でも制度が残っていたのがおかしく感じていた。


 また、円高の不況のときは『円高不況対策制度』となり、具体的には輸出企業がドルベースで輸出して、円に転換して仕入れを支払う時に、想定より円高だと収入がへり業績が悪化するという設計である。


 ところが、その後すぐ円安が大幅に進んだ時は、今度は『円安対策制度』となった。やっていて不思議であったが、今度は輸入業者で円安が急速に進んだことで仕入れ資金に影響するものだという理由での設計であった。


 やっていて、『円高でも危機』、『円安でも危機』とはおかしいとは思うが、行政がする設計にあわせて我々は、融資を行う実行部隊。それをおかしいとは思いつつ制度にあわせることだけに照準を合わせて、また設計するからにはその制度にも執行するノルマもあり、どんどん融資しなければいけないものであったことを覚えている。


 例えば・・・ 


 適用の為には、危機対応の『経営環境変化対応制度』について言う。

その制度の基本は、業績悪化がたいていの必要条件となる。


 そして、その認定は市や国であり、市や区の認定を受ける為に、売上や利益が減少していることを証明しなければならない。また、その背景にある原因も制度に合致していなければならない。


 よく考えれば、そんなにぴったり合致する企業なんてあるはず無いのに、


 部下が私に、


 「制度に合致しました。今月融資できます」


 「現時点では合致しませんので、来月の試算表を待ちます」


 「3月で制度は一旦終了になるかもしれないので、今月何とか押し込みます」(押し込みますってなんだといつも思っていたが・・・)


こういったことは、日常茶飯事でだんだん危機に対応するのではなく、制度に合致して融資することが目的化してしまう。


 このなかで、合致させようとして不正が起こることは、ありうるのである。


 どうしてか、企業は決算というものを1年に一度行い、業績を確定させる。但し、1年に一回であるから、途中では試算する形で銀行員は確認することが通常だ。


 取引先に対しては、担当者が、


 「現時点では無理ですが、もう少し売上が減少すれば制度の用件に合致しますね。」


 と言えば、取引先の経理担当者も


 「では、試算表でもう少し下げますか?」


 という形をとる。


 では、これは、不正なのだろうか?確かに不正ではあるが、制度に合致したからOKではないだろう。私も部下に、


 「この取引先は本当に危機なの?」


 と聞くと、部下は、


 「危機ではないですね。但し、制度には合致してますから・・・」


 これが大きな問題であったのだろう。


 銀行の職員が、取引先のことをしっかり理解して取引先の企業価値向上に資する融資をするのではなく、制度融資のノルマを達成する為の融資をしていることが・・・


 改めて政府の不正統計事件を考えてみた・・・


 政府の56ある基幹統計のうち22統計で調査方法に等に不備があったことを総務省は認めた。但し、不備の原因が「単純ミス」が最も多いものと説明された。


 問題はそこなのだろうか?


 私も、銀行時代に景気調査なるものをやっていた覚えはある。これは、景況感アンケートで、取引先からのアンケート形式でやっているものであった。当然、取引先からの郵便やFAXで回答があるのが本筋である。


 但し、取引先も忙しいという理由で、遅れたり提出が無い場合が出てくる。すると銀行の担当者は、聞き取りですませる。


 でも、一度聞き取りにするとそこで終わりだ・・・


 なぜなら、取引先も担当者もそれで言いと勘違いして次からは聞き取りでアンケートを銀行の担当者が書き、それで終わらせるようになるからだ。そして、最後には、担当者が取引先の担当が不在なことを理由に、前回と同じというアンケートを自ら作成してしまったのだ。


 これが常態化するともはや調査でもなんでもなくなる・・・。


 同じことが、国の統計でも起こったといえるだろう。


 だが、原因について厚生労働省の特別監査委員会なるものができて、報告を述べていた。前述のとおりあるが、単純ミスであり、職員の自覚や責任感の欠如が原因だと・・・省全体として統計の正確性への認識が甘かったとの指摘であった。


 では、現場が自覚や責任感を持っていれば、できたのだろうか?


 私は、銀行時代は調査したこともあるし、銀行辞めてからは政府の統計調査を受けたこともあるのでわかるが、原因はオペレーションミスのような単純なものではないと感じた。


 まず、統計調査を企業に相当の負担で協力させており負担感はある。また、現場の職員についても、取引先との調査の過程で、協力しない企業や個人担当レベルも含めて負担感は大きいものであると推測はできる。


 ようは、統計調査そのものが、やりづらく現場任せになった複雑且つ煩雑なものであるから、そこをやりやすく時間もかからないものにする必要があるのだろうということだ。


 翻って、銀行時代を思い出すと、制度融資等もたくさんあったが、国や地公体や銀行独自も含めて、複雑で、まるでなぞなぞやクイズを解くかのような作業をしなければならなかったのを覚えている。


 統計については、もう少し詳しく見ると、統計の計算に使われるプログラムが古い言語のCOBOLというものであり、修正や復元ができないばかりか、正しく理解できる人が非常に少ないというものであるそうだ。


 統計の目的は景気の判断や影響を分析することでありその為の調査はもう少しわかりやすく、調査しやすいように制度設計するのが、トップのやることであり、それができていないのを反省する前に、現場のオペレーションミスにするならば、多分また同じことが起こるであろう。


 再度言うと、元々設計や制度が正しいものではなかったということではないだろうか?


 銀行も、国もITやAI等駆使し、もう少しわかりやすい制度を設計するべきであろう。本筋をわすれてしまうと現場は混乱し、方向を見誤るものだ・・


 最後に、スルガ銀行の不正融資はさらに最悪なものといわざるをえない。融資とは返済できるから貸すということが原則だ。そこを崩すと、銀行ではなくなる。不正というよりも、銀行に対する背任行為といえるのではないだろうか?それゆえに、再生するのは相当大変なものになるのであろう。


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