いじめシェアハウスの異端児
ちびまるフォイ
感じ方はひとそれぞれ
「ついに! ついに! ここに来たんだ!!」
いじめシェアハウス。
ここでの共同生活を通していじめを体験できる。
学生時代にいじめと無縁だったのもあり、
現代で行われているいじめがどんなものかを体験したくてたまらない。
友達からは
「あんたってマゾ気質?」と言われ
両親からは
「なにか悩みでもあるの?」と逆に心配された。
あくまでお化け屋敷感覚で楽しみにしていると訴えても、
結局、同意されるまでにはいたらなかった。
「こんにちは! 今日からお世話になる、葉月です!
みなさん、よろしくお願いします!!」
「おうよろしく」
「よろしくね」
「よろしくー」
わざと印象に残るように元気すぎるあいさつで入居スタート。
いじめられるにはまず「目立つ」というのが第一条件のはず。
シェアハウスはいじめが発生しやすいように男女の共同シェアハウス。
変に異性を意識し合うので、こび売ってるとかいじめ導線は万全だ。
部屋にはいたるところに死角が作られたり、
防音設備が意味なく充実していたりといじめ対策も万全。
「はぁ、楽しみだなぁ~~♪」
これから始まる私の苦難の日々に思いをはせて、
いまだ体験したこともない未知の世界への期待感に胸が膨らむ。
それから数日。
シェアハウスでの共同生活はなんら滞りなく進んでいた。
「どうして!? ぜんっぜん、いじめられないんだけど!?」
そもそもいじめってどうすれば発生するのか。
なにが原因で私がいじめられるのか。
そんなのわかりっこない。
せっかくいじめられに来たのに、まるで意味がない。
「やっぱり嫌われるのがいいのかな?」
そこでシェアハウスの個人個人と時間を作っては悪口を話した。
「○○って、なんか汚いところあるよね」
「△△のあーいうところ、私ニガテ」
「××さ、あれあざとくない?」
などなど。
私の根も葉もない悪口の当人がいじめられるというよりも、
悪口を言いふらしている私を気付かせるために、あえて知らせるようにした。
そして、間もなくいじめの白羽の矢が立つ。
「あれ? 着替えがない!?」
お風呂から上がると用意していた着替えがなくなっていた。
学校でいう上履き失踪事件。
「わぁどうしよう! すごく困る! でも嬉しい!!
これがいじめなんだ!! 私すごく嫌われてる!!」
その後も、買いたての服が汚されたり、これ見よがしに無視されたりと
シェアハウス内でも私のいじめは誰にでもわかるほどエスカレート。
やっと始まった念願のいじめ生活に私の顔は緩みっぱなしだった。
そして我慢の限界が来たのは私ではなくいじめていた方だった。
「あんた、なんでそんなにニヤニヤしてんのよ!!
その顔見てるとほんっっとムカつくんだよ!!」
同居していた女はまくしたてるように叫んだ。
私が男にこび売ってるとか、目つきがバカにしてるとか。
だいたいは個人の感じ方によるもので、
結局は私が最初にやった悪口拡散によるネガティブな先入観を持って
私のやることなすことイラついてんだろうな。
などと、泣きながら私をなじる同居人を見ながら冷静に分析していた。
「あんた聞いてるの!?」
「聞いてるよ! もっと教えて!! 私をいじめてる理由!!」
「え、ええ!?」
「私、もっともっといけるよ! このくらいは全然大丈夫!
次はどんないじめになるの!? すごく興味がそそられる!
教えて! ねぇ! どんなのを予定してるの!?」
「え……」
同居人は翌日にシェアハウスを出ていった。
いじめられている人間が目をらんらんと輝かせて迫ったことで
私のポジションは「やべぇ奴」として距離を置かれてしまった。
「みんな、今日は話があります。
最近、私へのいじめがめっきり減っています!
どうして!? 前はあんなにいじめてくれたじゃん!」
「それは前の話で……」
「いじめシェアハウスなんだからもっといじめてよ!
私、もっといじめのことが知りたいの!
諦めないでよ! 頑張って私の事いじめ抜いてよ!!」
翌日、私以外の全員がシェアハウスを出た。
補充人員が来るまでの間、シェアハウスは貸し切り状態となり
私はこれまでの自分の行いを反省した。
「うーーん、やっぱりあれはよくなかったかなぁ……」
いじめ側としては「一方的にやられる」前提があるからこそ、いじめ続けることができる。
それを「もっとやって!」と迫ってこられればこれはある意味のカウンター攻撃。
安全圏から石を投げていたはずが、
いつの間にか横に並んでいたような恐怖。……いや、上手くないか。
匿名で書き込んでいたはずなのに名前がバレバレ。……これも違う。
「はじめまして、今日から入居するものです」
「よろしくお願いしますーー」
「マジよろ~」
「わぁ! よろしくお願いします!」
私が上手いたとえを考えているうちに次の入居者がやってきた。
人員もリニューアルされたので、これからいじめもしてくれるだろう。
と、期待していたはずが、私だけ古参なのもあり距離を置かれていた。
私ひとりだけ敬語を使われるようなよそよそしさ。
「えーー……なんか全然いじめられないんだけど……」
いじめはある程度見知った間柄でこそ発生するもので、
距離を置かれている人間には矛先が向かないらしい。残念。
「これから無理に距離を詰めようとしても逆に気味悪がられるし……。
あーーん! もう! どうすればいじめられるのよーー!」
頭を悩ませていると、同居人の気弱そうな男の子の陰口が聞こえた。
「つか、あいつの私服ダサ過ぎね?」
「マジあり得ねぇよな」
「チャーーンス!!」
新参組の中でいじめの芽こと「いじ芽」を見つけた。
この火種をうまいことを大きくしつつ、矛先を私へとシフトさせる。
その方法だけは覚えがある。
「ちょっと! 人の悪口を言うなんて卑怯者よ!!」
作戦名「ザ・委員長」
これしかない。
「悪口なんて……なぁ?」
「ああ、別に言ってねぇよ」
「嘘! 聞こえたんだから! 私、そういうの大嫌い!
文句があるなら顔を合わせて言えばいいじゃない! 卑怯者!」
語彙力のなさも手伝って、卑怯者フレーズが2回出てしまったが効果は上々。
我が物顔でシェアハウスを仕切る人間なんて嫌われるしかない。
「さぁ!! どんどん私を目の敵にして!! カムオン!!」
翌日、全員がシェアハウスを出て入った。
ふたたび私の力によっていじめが撲滅された。
「そんな……今度はどこにミスがあったっていうの……!?
私の委員長作戦は完璧だったはず……。
前みたいに、いじめで喜んでいる姿は見せてなかったのに!」
もう我慢の限界になったので私は主催者へと直談判した。
「ちょっと話がちがうじゃないですか!!」
「いじめシェアハウスで何か問題が?」
「問題大ありですよ!!
いじめられたくて入居したっていうのに
まるでいじめられないんですよ! 何考えてるんですか!?」
「いえ、いじめているじゃないですか」
「あんな少量のいじめなんて、いじめじゃないですよ!!
私が求めているのは、継続的で私にストレス与えてくれる
そんないじめなんです!!」
「だからずっとやってるじゃないですか。
あえて、こちらで入居者を変えたり、
いじめをわざと止めたりしたんですよ」
「はぁ!?」
「だってあなたにとって、いじめられないことが、
なによりもいじめでしょう?」
「このひとでなしーー!」
やっぱりいじめっ子にいい人なんていない。
いじめシェアハウスの異端児 ちびまるフォイ @firestorage
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