コミカルなホビー漫画風の物語、その裏に広がる豊饒な多元宇宙SFの世界

傑作である。
いち読者として(作者に叱られることを覚悟の上で)敢えて大言するならば、この作品が出たことで「異世界転生もの」というジャンルが終わってもいい。
それほどまでに、お約束を総括し、魅力的に活用してみせている。いわば本作は異世界転生ものの集大成であり、ひとつの到達点であり、巨大な間テクスト性の塊である。

――が、そういう意味での『エグゾドライブ』の魅力は、多少web小説界隈に通じた読者なら誰でも解ることであろうから、ここでは本題としない。
私が注目したいのは、「異世界転生もの」としてではなく、サイエンス・フィクションとしての本作が持つ高い完成度である。

そもそも“異世界転生”とは何なのか?
多くの「異世界転生もの」が、この摩訶不思議な現象を単なる舞台装置として扱っている。事故死したら魂が偶然よその世界に転生してしまった。ポンコツ女神の手違いで死んでしまったから詫び転生させてもらった。異世界の魔術的な儀式で救世主として呼ばれた(転生だけでなく転移にもあるパターン)……云々。
テンプレである。別にそれが悪いわけではまったくない。世のフィクションの99%はお約束と類型と模倣と換骨奪胎とアレンジメントと――とにかく先行作品ありきの再生産で成り立っている。名作傑作の類でさえ、そういうものである。
しかし、ひとたび立ち止まって“お約束”の外側からこのジャンルについて考えてみるとき、SFに通暁する読者ならば、きっとひとつの疑問を持つことだろう。
――異世界とは一つだけなのだろうか?
つまり、「転生元」と「転生先」で少なくとも二つの世界がある以上、ほかにもっと多くの、さらなる異世界があると考えてはいけない理由があるだろうか?

もちろん、物語に関わらぬ設定を増やしても大抵ノイズにしかならないのだから、「異世界転生もの」の諸作がそこに触れて来なかったのは英断と言える。
が、こうまで急速にジャンルが成長し、ひとつの爛熟期を迎えつつあるいまこそ、“異世界転生”という現象そのものに照準を合わせ、解体再構築するような作品には大きな意義がある。
本作はそれを、SF的想像力のもとに成し遂げた一個の金字塔である。

人はなぜ異世界へと転生するのか。
なぜ転生者にチート能力が備わるのか。魔法とは何か。
現地人へのマウンティング。トラック轢殺。レベル、スキル、ステータス。
すべてに意味がある。ひとつとして、単なるギャグにもテンプレにも終わっていない。
ホビー漫画めいた少年少女たちの“熱い”ドラマの裏側に、冷徹なSF的論理のレイヤが拡がっている。
世界と世界が生き残りを懸けて相争う、壮大な多元宇宙の進化論が展開されている。
これは異世界の物語ではなく、転生の物語でもない。
これは、“異世界転生”についての物語である。

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