超世界転生エグゾドライブ -激闘!異世界全日本大会編-

珪素

本編

プロローグ

プロローグ

 ――熱気である!


「お待たせいたしました! これが予選Aブロックの雌雄を決する戦いとなります! 純岡すみおかシト選手vsつるぎタツヤ選手! 全日本大会への切符を手にする者は、果たしてどちらか!」

「「「ワアアアアアアーッ!!」」」


 客席を埋める観客。所狭しと設えられた、大画面の超世界ディスプレイ。今より行われようとしているものは……たとえば尋常の中学生同士がそうするような、デパートやゲームセンターで行われる野試合ではない。

 WRA異世界全日本大会関東地区予選トーナメント。その準決勝戦である。


 全日本大会出場者二名のうち一名が決定する――プロの転生者ドライバーの耳目すらも集める戦いは、誰も予想だにしない対戦カードとなっていた。


 かたや緻密なる戦術で連勝を重ねる期待の新星。純岡すみおかシト。

 そして、かたや無名、異世界転生エグゾドライブの素人と思われたダークホース。つるぎタツヤ。

 多くの優勝候補を打ち破り、関東地区最強の切符へと指をかけた二名であった。


 試合を目前に控えた今、つるぎタツヤが呼びかけている相手は、転生レーンにて待機する運転手である。


「おっちゃん! この試合も思いっきり頼むぜ……! 星原精肉店の軽トラだから、俺はいつだって全力で転生ドライブできるんだしよ!!」

「おうおう! 任せときなタツ! 相手が期待の新星だかなんだか知らねえけどな……お前は中学最強の転生者ドライバーだ! ずっと見守ってきたおっちゃんが言うんだから間違いねえ……! 優勝祝いはメンチカツだぞ! ハハハハハハ!」

「ああ、ありがとよ! 期待して待ってる!」


 跳ね気味の黒髪は、被り直した赤い野球帽に隠れた。タツヤの試合前のルーチンはそれだ。転生ドライブの直前には、いつも血が沸き返るような興奮を覚えている。

 同級生と比べれば小柄な体だが、異世界転生エグゾドライブに体格差のハンデなどは存在しない。


 そして、レーンを振り返った先――既に開始位置についている者がいる。

 タツヤとは対照を成す長身と、銀に近い白髪。ともすれば酷薄な印象を与えかねない、勝負師の眼差し。強い照明が逆光を差していた。

 その少年こそ、我らが主人公。純岡すみおかシトという。


「――茶番だ」


 左腕のドライブリンカーへとCチートメモリを装填しつつ、シトは告げた。

 四本をスロットに差し込み、鮮やかに円状のカバーを回し、セット。

 長く使い込まれた星原精肉店の軽トラックに対して……彼の立つ青レーンに待機するトラックは無機質な、WRA認定の白い2tトラックであった。


異世界転生エグゾドライブにトラックの良し悪しなど関係ない。……絆や心などという、甘ったれた代物もな。勝負を分けるものは、デッキ構築と戦略の力。それだけだ」

「ヘッ……! お前の常識じゃあそうなのかもしれねーな」


 シトの言葉を不敵なる笑みで受け流しながら、タツヤも赤レーンへと並び立つ。

 ここにはタツヤの望む全てが存在する。赤と青の二色に塗り分けられた二つのレーン。前方には煌々とヘッドライトを照らすトラック。超世界ディスプレイに表示されるカウントダウン。熱狂する観客の声。そして、純岡すみおかシト。


 彼の望んだ強敵と、全力で戦うことができる。それだけでいい。

 だから妥協できないだけだ。心も、トラックも。


「俺には違うんだよ」

「……。そうか」


 シトも己の転生ドライブスタイルを曲げることなく、ここに立っている。

 いつもの如く、淡々と告げた。


「予告しよう。準決勝の世界脅威レギュレーションは『単純暴力A+』。故に貴様のデッキ構成は【超絶成長ハイパーグロウス】、【絶対探知フラグサーチ】を中心とした効率成長の速攻型。故に、貴様は……この俺には、決して勝てない!」

「どうかな! ――やってみなきゃあわからねえだろ! 人生も異世界転生エグゾドライブも、そこが一番面白えところだろうがッ!!」

「ならば試合で語ってみせろ! ……レディ」

「望むところだ! レディ!!」


 二人の転生者ドライバーは前方のトラックへ向け、同時に助走の姿勢を取った。

 カウントがその時へ近づいていく。2。1。0。


「エントリィィィ――ッ!!!」


 雄叫びと共に駆け出す! エンジン音! 加速! 閃光!

 トラックが二人の少年を轢殺する!


「「ウオオオオオーッ!!」」


 Aブロック準決勝戦の火蓋が今、切って落とされる!


――――――――――――――――――――――――――――――


 この世界と隣接する、異なる現実――

 平行世界の実在証明は、それ以前の文明を一変した。

 無限に広がる異世界の観測。転生。そして干渉。


 莫大なる未知との遭遇に人々は熱狂した――だがしかし、彼らは知る。

 観測された異世界の尽くが、危機に瀕していたことを。

 尋常では到底救いきれぬ数の希少なる世界が、今まさに滅びつつあったのだ。

 誰もが容易に救世主となれる技術の開発は急務であった。


 ――そして時は流れ、西暦20XX年!

 異世界転生の競技人口は全世界で一億人にも達し……

 今、世界救世は娯楽と化した!


 超世界転生エグゾドライブ!

 それは異世界の勝負に文字通りの『人生』を賭ける、熱き少年たちの戦いである!

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