vs剣タツヤ
【超絶成長】
「……圧倒的ッ!
超世界ディスプレイは、異なる世界における二人の
元はこの現実と異世界の間で時間概念が異なることを利用した観測技術であるが、今は
長大な一つの人生を、まるでスポーツを観戦するかのように編集し、時には俯瞰し、時には詳細に眺める――そのような芸当までが可能になったからこそ、
「チビ野郎が……モタモタしやがって。二倍程度じゃあすぐに抜かれるぞ」
巨大なディスプレイを眺める観客席の一つに、その少年の姿がある。
サメの如き印象を与える鋭利な歯と、薄汚れたダークグリーンのジャケット。
「え……!? でも20,129って……分かんないけど、結構すごいポイント……なんじゃないの?
隣席に座る少女が疑義を呈する。
故にこの転生序盤の応酬について、右も左も分からないでいる。
「フン。ド素人が」
「……じゃあそこは、ぼくが説明しよっか」
ルドウとは逆隣の席より届く、涼やかな声があった。
中学生離れして端麗な容姿と、首の高さで二つ結びにした黒髪。
「天才美少女中学生
「ケッ……テメーは二回戦負けだろうが」
「一回戦負けのきみに言われるのは心外だな。しかも、ぼくの相手はシトだぜ? きみだって彼の実力は認めてるだろ」
「ごめんね。ルドウも同じ学校なんだけど、口が悪くってさ」
「……なんでもいいけどよォ~」
ルドウは不機嫌なまま、ディスプレイへと視線を戻す。
タツヤの
「テメーらが駄弁ってる間に、そろそろ試合が動く頃合いだぜ」
「わっ、今倒したのドラゴンじゃない!? めちゃくちゃ大きかったけど……向こうのタツヤ、まだ12歳くらいだよね……!?」
「当然さ。【
「そっか……凄いんだな、タツヤ……ってか、やばいね転生……」
誰よりも早く最強となり、誰よりも早く巨悪を叩く。
対戦データに表示された四種の使用
「――しかも
――――――――――――――――――――――――――――――
「親父……! これまで育ててくれたことには、圧倒的に感謝してるッ!!」
全力の土下座であった。
東方ウィンアルツェ領、ファイゲルツ公が長子、タツヤ・フェム・ファイゲルツ。
それが
「い、いや……まあ、いくら転生って話が本当でも、仮にもわしの息子だし……意味もなく捨てたりしたら世間体悪いし……そういうアレで、今まで育ててきただけだし。恩に思わなくても、まあ」
「それでも、アンタは俺の親父だ……!」
父の手を取って、タツヤは叫んだ。
「俺は、これまで転生してきた全部の異世界のみんな! 本物の家族だと思ってるッ! アンタもその一人だ……! だから、今日こそ……俺が独り立ちできるようになった、今こそ! この俺に、恩を返させてくれよッ!!」
「うう、暑苦しい……! わしの息子暑苦しいよォ……!」
「もう敷地の中にまで持ってきてるぜ! 正真正銘、エイン王国の三百年の敵! 神竜の一柱……赤溶竜グラなんとか!! 俺がきっちり脳天殴り砕いて、ブッ殺してやったからよッ!!」
「ええ~ッ」
ファイゲルツ公は面食らい、自宅の窓の外を見て、そして現実から逃避するべく視線を戻した。もう一度見て、目を逸らした。
……ずっと、あれが庭にいたというのか。
世界の原初より存在する
「何もかも……俺をここまで育ててくれた、アンタの功績だぜ! 王国からジャンジャンお礼をもらって、家を立て直してくれよな……!」
「いや、本当困る。普通に困るよこれ」
「俺は、旅に出る」
決意に満ちた、そして反論をまったく許さぬ眼差しであった。
ファイゲルツ公はどのように対応すべきかを迷った。
「冒険者になって……この世界をめちゃくちゃにしやがった聖神ルマを、俺のこの手でブッ殺してやる……!」
「君の冒険者観、異様にスケール大きくない!?」
「だからここでお別れだ。……親父」
生まれて二本足で立ったその頃より科学的な筋力トレーニングに勤しみ、凄まじいまでの意欲で知識と文字を学習し、そしてついにはただ一人で神竜の一柱すらも撃破した男の、それは巣立ちであった。
タツヤは、この世界の父と熱き抱擁を交わした。
「ずっと忘れない!」
(タツヤ……初めて、私のことを親父と……)
「神をブン殴りに、行ってくるぜ!」
生まれてから去る時まで、まるで炎の如き勢いの息子であった。
この世界とは別のどこかから現れた者なのだという。
確かに、一つの世界で留まるような器ではなかったのであろう。
その旅立ちを見送ったファイゲルツ公は、今一度自宅の庭を見た。
世界の始まりより存在する
「いや。困るわこれ……」
――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、冒険者ギルドだ。
「え……そりゃ、アタシなら治安の良いギルドにするけど……」
「はい不正解~」
「ルドウくんは茶々を入れないでくれるかい。今、IPの説明をしてるんだから」
「えーと、つまり……? さっきから思ってたけどIPってさ。何の略なの?」
サキは長い金髪を不安げに弄りながら、レイの顔色を伺う。
「――イニシアチブポイント。それは異世界における人生そのものの成功指標と言ってもいい。IPを多く獲得すればそれだけ一般スキルも成長していくし、判定に持ち込んだ時もこのポイントの多いほうが勝ちだからね。だからぼくたち
「イニシアチブ……ええっと、なんだっけ。主導権とか、そういう意味?」
「その通り。現地住民に対して、どれだけの優越性を示すことができているか……! 無難な人生を送ることなく、より鮮烈な成功を納めた者こそが、
「……要は」
ルドウは鮫のように嗤って、レイの言葉を継いだ。
「逆らってくるクソ野郎をどれだけブッ殺したかのポイントだ。悪党どもを見つけ次第ブチ殺せば、社会的地位だってどんどん上がってくんだからよォ~」
「む。それはきみのプレイスタイルだろ。偉い王族や神霊と交流して認められることでもIPは獲得できるさ」
「えーっと……それって正反対に聞こえるけど。つまり?」
「……あァ? 力を見せつけるってことだ。簡単だろ? 絡んでくるクソには一人残らず力の差を思い知らせて、善良で力を持ってるお偉いさんは全員味方につける。異世界のザコ連中にどれだけ凄えと思わせられたかどうかが、IPなんだよ」
「じゃあいきなり最強のドラゴン倒しちゃったとか、タツヤ絶対すごいじゃん!」
「そう簡単な話でもねえんだよ。話聞いてたのか?」
ルドウは、超世界ディスプレイのIP表示を眺める。
IPは43,289。確かに圧倒的な戦果ではあるが、彼が速攻型の
さらにこの準決勝の世界脅威レギュレーションは『単純暴力A+』。その最終目標である聖神ルマはまさしく創造神そのものであり、地区大会のレベルでいえば最強クラスの戦闘能力を持っていると見ていいだろう。
これ以上の膨大さで、かつ継続的に、IPを稼ぎ続けなければ勝てない相手だ。
「ドラゴンを狩ったことを見せつける相手がいないと始まらねえ。それも、こっちをナメてかかる連中……無意味に絡んでくるクソ野郎。そういう連中に対する落差があればあるほどいい。俺らが治安の悪いギルドの方を選ぶのは、そういう理由だ」
――――――――――――――――――――――――――――――
「よし……! こっちのギルドにするか!」
一方。
冒険者登録を行うべく彼が選んだギルドは、窓ガラスが割れ、血飛沫が染み、看板などは半分焼け落ちている、彼の美的感覚が『面白そう』だと判断した店構えのものであった。
「タツヤ・フェム・ファイゲルツ! 冒険者志望だッ! 手始めにえっと……なんだったっけか……赤溶竜グラ……グラムボンの鱗を持ってきたからよ~ッ! さっそくこいつで俺の冒険者ランクを決めてくれよ!」
「おいおいおい、なんだこのガキは!」
立ち上がった男は、タツヤの二倍近くの体躯を誇る巨漢。
剣呑な髭面に、自らの身の丈以上の大剣を提げる、このギルドの治安状況を反映したかの如き存在であった。
「お前みたいなEランクにも満たねえ駆け出しの小僧がイキがれるような、お優しい世界じゃあねえんだよ。尻尾巻いてとっとと帰ったらどうだァ? この俺――Bランク冒険者、
言動の途中でタツヤの拳がめり込んでいた!
鼻骨完全粉砕し、酒場の卓を立て続けに四つ叩き割りながら、Bランク冒険者は壁に激突。そのまま動かなくなる。
「ヘッ……! 思わずブン殴っちまったが、こっちのほうが話が早えーだろ……!」
無論、手加減はしている。
だがタツヤは、
「なんだこのガキ!」
「とんでもないヤローだ!」
「ふざけやがって! 囲んでやっちまえ!」
「俺たちも暴力権利行使だ!」
「いいぜ……! 上等だ! 一人ひとりなんてまどろっこしいことはしねえ! 分かりやすいほうがいい!」
タツヤは上着を脱いだ! 竜をも砕く拳を構え、卓上で仁王立ちに宣言した!
「全員だッ!! 全員まとめてかかってきやがれェェ――ッ!」
「「「「ウオオオオオオオ――ッ!!」」」」
――――――――――――――――――――――――――――――
「す、すごい勢いでタツヤくんのIPが溜まっていってる……あの場の冒険者全員に圧倒的パワーを思い知らせているんだ!」
「いいの!? あの、アタシ詳しくないんだけど……人、殴りまくってるけど!? 絶対やばいよねこれ!? 本当にいいのかな!? こんなんで本当に人生成功してるって言っちゃっていいのかな!?」
「ああ。確かに
珍しい事態である。
サキの困惑に、腕組みしたままのルドウが同意した。
「……だが、その型破りなところが、あの野郎の強さなのかもしれねえな……」
「そういうことじゃなくってーッ!」
それはサキの想像を絶する戦いであった。
幼い頃からの男友達はずっと前から、その壮絶な世界の渦中で戦っていた。
加えて言えば、サキの父親はそんな彼を毎日のようにトラックで轢き殺している。
「そ、そうだ……
サキは、もう一つのディスプレイへと視線を移す。
青のランプが灯るディスプレイは、タツヤの人生とは別視点。同じ時間軸におけるシトの人生を映し出しているはずだった。
奇しくも彼の人生の進度も同様。冒険者ギルドへの登録の段階である――。
――――――――――――――――――――――――――――――
「待ちな。ヘッヘッヘ。テメーみたいなガキが真祖妖精の羽を換金しようだなんて生意気なんだよなァ……! 今ここでそいつを置いてくなら、身包み剥ぐのだけは勘弁してやるぜ?」
「ヒヒヒーッ! さすがはBクラス冒険者の兄貴ですぜ! 新人に対して寛大でいらっしゃプゲェーッ!?」
「ギャババーッ!?」
「フン……ザコ共が……」
二人組の冒険者は即座に顔面を殴り飛ばされ、床板を割って沈んだ。
風圧に乱れた銀髪を神経質に整えつつ、酒場の面々を睨めつける。
「ちょうどいい。……見れば、ここに随分と頭数がいるようだ」
シトは酒場の中央へと進み、そして高らかに宣言した。
「全員まとめて――この俺にかかってくるがいい!」
第一スロットの
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