【実力偽装】
「……シト様。このアナメイアの短い人生の中で……シト様のように素晴らしいご主人様は、初めてでした。シト様は私に文字を教え、食事を共にすることをお許しになり、綺麗な衣服までも与えてくださった――」
感謝の言葉を述べるメイドの少女を前にして、
10歳の頃に奴隷商を単身で壊滅させた後、引き取っていた
「どうかこれからも貴方様のお側に置いてくださいませ」
「却下だ」
――奴隷商の襲撃は、
強大な社会悪を破滅させることによる力の誇示と、その結果として得られる、見目麗しい
ただし、確実な成果が得られるとはいえ、その多寡の程はやはり運次第ではある。
シトは改めて左腕のドライブリンカーを起動し、
(……保有スキルは〈資産運用A+〉〈神代言語B-〉〈護身術D〉〈隠されし身分S〉……! やはり、どう育成しても内政型のスキルツリー。SSR級の
危険な前線で戦い続けなければならない『単純暴力A+』のレギュレーションで
「……お前には経済学の素養がある。俺が11歳の頃に起業したレトルトカレー工場の運営を任せたい」
「まさか、このアナメイアにそのような大役を」
「お前にしかできないことだ。頼むぞ」
「ああ、ありがとうございます。ご信頼に応えます、シト様……!」
故に、このようにして厄介払いをする。
シトの設立したレトルトカレー工場は膨大な特許権と市場独占によって、彼自身が何もせずとも莫大な富を生み出し続けている。
異世界においても、資金が多いに越したことはない。無論、強力に貧困をアピールした上で活躍を誇示することでIP獲得倍率を飛躍的に高める、貧乏型と呼ばれるデッキ構築もある――だが今回の攻略においては、経済的な要因で進行の手を緩めるわけにはいかない。
「フン……戦闘型の
実のところ、〈資産運用B〉〈神代言語A〉〈護身術S-〉程度のスキルであれば、
彼の第二スロットは【
それでも彼が獲得IP総量で
――――――――――――――――――――――――――――――
中学生にして髪を染め、どちらかというと派手な出で立ちの少女ではあるが、根の真面目さはこのような観戦の席でも表れるものなのだろう。
「……
「断った!?」
それまで拗ねたようにディスプレイから目を逸らしていたレイは、サキの言葉に大きく反応した。
「う、うん……レトルトカレー工場に就職させるんだって。……レトルトカレーって。どうやったら異世界でそんなの作れるのか、アタシ全然想像できないんだけど」
「――ふ、ふふふ。そうかそうか! まあね。シトはストイックな
「えっと……奴隷? は沢山連れてたほうがいいの?」
「そりゃもう。仲間は多いに越したことはないだろ? 自分で持っていないスキルを代わりに使わせることもできるし、戦闘型の
何やら余裕を取り戻したらしく、少女は饒舌に語った。
知識を披露できること自体が嬉しいタイプなのだろう、とサキは認識している。
「たとえば、自分の周りの人物が獲得した経験点の一部を吸収する【
「へえ……頭いいな。色んなスタイルがあるのはなんとなく分かってたけど、アタシの想像以上に色々考える人がいるんだね」
「
「じゃあ、
青のディスプレイへと視線を戻すと、
「最弱型」
「……最弱……?」
「ふふ。きみも対戦データの見方を覚えるといいよ。対戦相手それぞれの
「――【
「その通り」
【
ドライブリンカーによるIP獲得判定は、評価の落差こそが最も大きな判定ファクターであると考えられている――たとえ成果が同じであっても、相手がこちらを侮っていれば侮っているほど、得られるIP量には歴然とした差が生まれるのだ。
「つまり、シトにとってスタートダッシュはそれほど大きなハンデにならないのさ。中盤以降を安定して追い上げる型なわけだからね。ルドウが二倍じゃ足りないって言ってた理由もわかったかな?」
「そっか……普通は一度か二度くらいしか使えない、『弱いやつが実はすごく強いやつだった』みたいな必殺技を、
「ふふ。そういうこと。きみ、センスあるね。さすが
「は!? か、彼女、とか……じゃないし!」
レイの追求から逃れるようにディスプレイを見る。
また新たな冒険者がシトに因縁をつけ、一撃で全ての歯を粉砕された。獲得IPを見ると、確かに大幅な倍率がかかっていることを確認できる。こうして行く先々で絡まれることすら、計算ずくの動きに違いない。
……これが、
「あれ……? じゃあ、タツヤのオープンスロットは……【
「あー」
手元の情報画面を覗き込んだレイは、曖昧な表情で言葉を濁した。
「えっ何!? まさかこれ、変なスキルとかじゃないよね!?」
――――――――――――――――――――――――――――――
「さて。シト・ハインデル君と言ったかな? ああ、間違っていたら申し訳ない……人の名前を覚えるのは苦手なんだ。特に、取るに足らぬEランク冒険者の名前はね」
国家公認勇者ムンデルク。爽やかな態度に下劣な本性を隠し、かつ表向き強者としての地位も高い、
【
「フッ……俺はまったく気にはしないが……貴様の暴言など何も意に介することはないが。これがどういう風の吹き回しなのか、せいぜい聞いてやろうではないか」
「ははははは。見て分からないのかな? ――決闘だよ!」
衆目が集まり、さらにはムンデルクのパーティの面々が二人を取り囲んでいる。
絶対不利の状況で挑まれる、一対一の決闘。理想的なシチュエーションだ。
「これまで何度か『忠告』をしてきたつもりだったが……君のようなEランクごときが僕らに先んじて夢想怪樹ネンディクオレトを討ったなどと吹聴すること自体、僕らの顔に盛大に泥を塗っていると分からなかったかな? 僕は選ばれた勇者だ……君のような冒険者風情とは、存在の格が違うんだよ!」
「フン、そうか。そうやって吠えているがいい」
ドライブリンカーを即座に起動する。〈聖剣術A〉。〈光聖魔法B〉。〈炎熱魔法C〉。〈奇襲B+〉。〈高速機動B〉。〈聖遺物獲得C〉。
ムンデルクの語る存在の格の程などは、ステータス情報で即座に把握することが可能だ。何一つシトに及ぶスキルは保有していないし、これほど性格の捻じ曲がった男を
「はっきりと言っておこう。俺は確かに最弱の冒険者だし面子などどうでもいいが、降りかかる火の粉は払わなければならないな! それでも構わんのならば、俺に挑んでみせろ、勇者!」
この試合においては、【
決闘が行われる街の規模と、敵の知名度。アピールする群衆の数。全ての要素を総合して、最大の効果を挙げるシチュエーションを、シトは計算している。
「もう取り消せないよ……! 見せてやろう! 聖剣エルモスギャアーッ!?」
国家公認勇者ムンデルクは、シトの放った炎熱に焼けて上昇気流に吹き飛び、民家の屋根を叩き割った。
「フハハハハハハハハ! 面倒だから、適当に負けてやるつもりで! 最弱の魔法で手加減したつもりだったが! やれやれ……どうやら、またやりすぎてしまったようだなァ!」
勇者を一撃撃破した上での抜け目のない最弱アピール! 1,532,340IPを獲得!
旅の先々で全力の優越性を発揮する、絶対盤石のパターンである。
……だが。颯爽と立ち去るシトの後ろ姿にかかる声があった。
「なるほど。確かに凄え奴だよ、お前はな……!」
「フン。何を言う……。俺はただのしがないEランク冒険者なんだが? いくら偶然勇者に勝ってしまったといえ、あまり買い被られるのも困る――!?」
「いいや。俺は知っているぜ! お前の強さをよ~!」
まさしく
だがシトが驚愕したのは、声に振り返り、その姿を見た後のことである。
「き、貴様……何だ、その状況は……」
「へ、へへ……! 驚いただろ! だがシト……お前は強え……! 俺が逆立ちしても勝てねえくらい、めちゃくちゃに強い奴だ。だったら……普段どおりじゃあ、勝てねえよな……!」
明確な異常は、夥しい汗を流し、動悸を押し殺しながら語るタツヤ自身ではない。
彼の背後に立ち並ぶ、総勢四十名にも達そうという美少女の軍勢にある!
「……俺は、お前も俺のパーティに入れるつもりでいる。拒否権はねーぞ、シト!」
「バカな……
常に最前線での戦闘を繰り返す速攻型のアーキタイプは……通常、戦闘技能を持たぬ
それは望む数の対象を同時攻略し、その全員を確保し続けることができる。人間関係を自動調整し、通常発生する不和や不幸を完全に抑制する。決して欠員を起こさない。
「……まさか、【
――――――――――――――――――――――――――――――
オープンスロット:【
シークレットスロット:【????】
保有スキル:〈高速抜剣SS+〉〈神代剣術A〉〈鬼の拳S〉〈光聖魔法A〉〈暗黒魔法S+〉〈炎熱魔法S〉〈氷雪魔法B〉〈風雷魔法A-〉〈神算鬼謀C+〉〈隠密機動S〉〈通商支配A〉〈完全言語S-〉〈再生細胞B〉〈奇襲回避A-〉〈完全鑑定B-〉他24種
オープンスロット:【
シークレットスロット:【????】
保有スキル:〈我流格闘SSSS-〉〈竜血SS〉〈韋駄天SSS+〉〈防御貫通S+〉〈完全言語SS〉〈完全鑑定A〉〈氷雪魔法A++〉〈風雷魔法SS〉〈時空間制御A-〉〈王家の加護S+〉〈不死SS-〉他11種
――――――――――――――――――――――――――――――
「どういうことなのーッ!?」
もちろん、異世界の出来事とは分かっている……分かっているのだが。
「うるせーぞ
「ハァ!? センス最悪だよ! なんでタツヤがあんなの使うわけ!? しかもあれ、女性の権利とかはどうなってんの!?
「あの……いや、つまりだな……ちょっと落ち着けるか、
「バカじゃないのーッ!」
ルドウの胸ぐらを引っ掴んでガクガクと揺らすサキを背景に、
それはまさしく、
「……この中盤のうちに……相手の
何故なら、彼が
この広大な異世界にあって、タツヤが無名のEランク冒険者であるはずのシトへ接触を果たせた理由も既に明白である。
そのためのスキルも、既に見えていたオープンスロットにあった。
「【
自身の欲する、都合のいいイベントの発生条件を自由自在に把握する
直接に情報を収集するそのスキルであれば、【
四十名もの、強力な
「逃げ切りが、成る……最初からこの盤面を想像していたのか……
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