テレポートマシン

四葉くらめ

テレポートマシン

 テレポートマシンがとうとう完成したという。その存在自体は以前から様々な小説の中で語られてきたが、その夢のような機械が現実のものとなるのはまだまだ先のことだと言われていた。それがある日突然完成したというのだから世界中が騒然とした。

 一体全体どうやって転送をしているのか。こんなものはインチキだ。きっとタネがあるに違いない。いや、この目で見てみたが本当になんでも転送できていた。ニューヨークにいた私が持っていた時計を一瞬でサンフランシスコまで運んでしまったのだ、等々。

 本当だの嘘だのと様々な意見が飛び交ったが、世界中の人々の目がそのテレポートマシンに向いているという点は一致していた。世界中の科学者、技術者がその夢のマシンの技術を教えて欲しいと請い願い、誰もが知っている大企業が常人では及びもつかないような金額を出そうとした。しかし、テレポートマシンの開発者はその全てを撥ね退けて、ただただマシンの公開テストのみを行っていた。

 テスターを募集します。安心してください。テレポートマシンは完璧で安全です。マウスや猿、その他様々な動物で実験を行い成功してきました。もはやテレポートマシンを知らないのは人間だけです。

 このような宣言がされ誰もがやってみたいと思った。そして同時に怖いとも思った。しかし、その怖れという感情を私は馬鹿馬鹿しいと思っている。私達は飛行機が空を飛ぶことは当たり前だと思っているが大昔の人間からすれば鉄のカタマリが飛ぶなんて信じられないだろうし、怖いことだろう。しかし、そんなことでは新技術の恩恵は得られないし、発展もまたしないだろう。

 私がテスターに申し込むと見事に当選した。私の運が良かったのか、それとも新技術への愚か者が多かったのか。ともかく私はテスターになり、テレポートマシンの片割れのあるニューヨークへと向かった。

 どうやらテスターは私一人らしい。私の周りには記者が群がり、気持ちがどうだの、緊張がどうだのと煩かった。これがサンフランシスコでも待ち構えていると思うとマシンに入る前からウンザリする。私は記者達に笑顔を見せながら、開発者に導かれるままにマシンの中へと入った。マシンは円筒形をしていて、両手を広げられるぐらいに広く、天井は跳びはねても届かないぐらいに高い。

『どうもこんにちは。もう少しで準備が整うから少々待っていてくれたまえ』

 天井にあるスピーカーから聞こえたのは開発者の声だった。

『いやはや君には感謝してもしたりない。果たして人間のテスターを募集して手が挙がるか否か心配だったのだが、一人だけでもいてくれて助かったよ』

『さてどうやら準備もできたようだし、キミにだけこのテレポートマシンの真実を話そう』

『まず謝らなければならないんだが、実はこれ、テレポートなんてできないんだ。テレポートなんて信じられないと世界中の科学者は言っていたがね、僕もそれには全面的に同意だね』

『でもそれならこうすればいいじゃないか。こっちと全く同じ物をサンフランシスコで瞬間的に生成し、ニューヨーク側は分解してしまえばいい、とね。まあ勿論それはそれで超科学的な技術なわけだけれど、僕は偶然にもその方法を見つけてね。まずは無機物、次に有機物、そして動物と次々試してみたわけさ』

『そしてついにこの間、ようやく魂のコピーに成功したんだよ! すなわち現時点の人間の身体と精神をコピー、データ化して転送し、向こう側で作るんだ。全く同じ人間をね』

『あとは簡単さ。こっちにいる方を消すだけ。分子レベルまで分解してね。こうすればあら不思議、人間がテレポートしちゃいましたってわけさ』

『いやいや、どう頑張ってもその扉は開かないよ。声も外には聞こえないし。え? 告発するって? それも残念ながらできないかなぁ』

『というのもね、ほら、さっき言っただろう? 準備ができたって。あれ君のコピーデータを取り終わったってことなんだよ。だから向こうで生成される君は何も知らないんだ。本当に残念なことにね』

『さて、じゃあそろそろ始めようか。外で記者が今か今かと待っていることだしね』

『ふふ、慌ててるねぇ。そうそう、それが見たかったんだよ! そのくせ向こうの君はケロッとして「確かに俺は今までニューヨークにいたのに!」とか言っちゃうんだろうから傑作だよね! それじゃあ、さようなら』


   ◇◆◇◆◇◆


「テレポートが無事完了したと言われ外に出てみると、私の前にはさっきとは違う記者の面々がいて、窓の外にはサンフランシスコの風景が広がっていた。何が起きたのか理解できなかったが、事実は私の目の前に広がっていた。テレポートマシンは本物だ! 確かに私は今までニューヨークにいたのに、気付いたらサンフランシスコにいるのだから!」

 私が記者達の差し出すマイクに向けて話していると、どこかで笑い声が聞こえた気がした。


   〈了〉

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テレポートマシン 四葉くらめ @kurame_yotsuba

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