掌編・短編集

まみすけ

アイスクリーム

灼熱の太陽の下、買ったばかりのアイスクリームが溶けていく。私は、名前のない女の子。ちょっとおしゃれして、繁華街まで出てきたのにはちゃんとした理由がある。私は、物心ついた時からずっと、お母さんを探している。私を捨てて行ったお母さんを。

お母さんの事で覚えていることと言ったら、喚き声と、強引に引っ張る冷たい、手。

あの日お母さんは、私を捨てた。警察官に連れられて、私の事なんか見向きもせず、どんどんと歩いて行って、私はずっと追いかけたのに、叫んだのに振り返ってもくれなかった。

3歳だった私はおばあちゃんと暮らしはじめた。それからというもの、私は家を抜け出しては当てもなくお母さんを探した。おばあちゃんは心配してくれたけど、怒ってはくれなかった。だから、私はいつまで経ってもお母さんを探した。15になった夏、おばあちゃんが言った。お母さんは、刑務所から出てきたきり、音沙汰もなくどこか遠くで暮らしているから、もう探すのはやめなさい、きっとあの人はあんたの事なんて気にもしていないんだよ、と。私は、それでもお母さんを探すことをやめなかった。

私は、かわいそうな子になって、大人の女の人の同情を買う。お母さんが欲しい、お母さんに抱きしめてほしい、お母さんに抱っこされたい、お母さんに認められたい。私の悲しみを、たいていの優しい女の人は受け入れてくれて、私を抱っこしてくれたり、一緒に泣いてくれたりした。でも、本当に愛してくれる人はいなかった。無償の愛をくれる人んていなかった。ちょっと経ってくると、みんな家庭に戻っていく。ひどい人だと、私はあんたのお母さんにはなれない、なんて怒鳴り散らす。それでもよかった。私はそれ以上に愛情に飢えていたし、温もりが欲しくて、怒鳴ってくれる人間が愛しかった。

キミコさんは、他の人とは違った。優しかったし、一緒にお母さんを探そうか、って言ってくれた。手もつないでくれたし、抱きしめてくれた。キミコさんに抱きしめられて、一緒に泣いた。キミコさんは46歳で、私は16歳だった。キミコさんは結婚してなくて、一人暮らしするアパートに私はのこのこ転がり込んだ。キミコさんは、仕事のできる女の人で、忙しい中に私との時間を見つけてくれて、私は安心してキミコさんに頼りっぱなしだった。キミコさんは、料理も出来たし、おしゃれだったし、私のお母さんもキミコさんみたいだったらなあ、なんて思ったりした。キミコさんは、お母さんを忘れさせてくれるただ一人の存在だった。

その次の年の春、キミコさんは私を置いて死んだ。

ねえ、なんで私がこんな目に合わなくちゃいけないの?私が何をしたっていうの?なんで、私の欲しいものは私の周りからいなくなってしまうの?私の進む場所には永遠の悲しみ。

お母さんはまだ見つからない。キミコさんの温もりは色あせてしまう。おばあちゃんはボケてしまった。

ポケットに入っていた200円で私はアイスクリームを買った。今日も繁華街で、女の人に片っ端から声をかけて、私は悲しみを満たす。

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