#1 一つの目的へ 後編

 青年が懐から取り出した謎の黒いドライバー。それを腰にあてると両側からシュッとベルトが巻き付き、腕時計から金縁の銀色したコインを抜き出した。


「なに?!お前もコインを」

「生憎、お前だけが持っている訳じゃないんでな」


 右手でコインを天高く弾き、目線丁度に落ちて来るのを見事キャッチ。そして掛け声と共に、ドライバー中央に投入。


変身チェンジ!!」


『Bet!SURVIVER!!』


 白いオーラのようなものが青年の身体を包み込む。

 やがて怪物の前に現れたのは、紺色のサイバー風のラインが入ったボディスーツが纏われ、銀色の胸部のアーマー、頭部には草書体の「一」を曲げたようなオレンジ色のスコープレンズがついたメットを被っている戦士だった。


「一体、何者なんだお前は」

「SURVIVER、そう覚えとけ。さて……お前、何を賭けて戦う」

「誰だろうと力で捩じ伏せてやらぁ!!」


 互いにぶつかり、衝撃が走る。怪物はガッチリとした太い左右の腕を思いっきり振るうが、SURVIVERはひらりとけられ、連続技が繰り出し、怪物を後方に飛ばした。


「図体でかいだけで動きは遅いな」

「うるせぇ!!力があれば頂点てっぺんに立てるんだ!!」


 起き上がった怪物は、瓦礫の山の中から太く錆び付いた鉄骨を軽々と持ち上げた。流石のSURVIVERもスコープ越しで瞠目した。


「くたばれぇぇぇ!!!!」


 そのまま、さっきの拳とは比べられものにならない速度で横に振り、SURVIVERはゴム毬のように弾き飛ばされてしまった。


「くっ、これはヤベーイ感じだ」


 腹部を押えながら起きあがり、メットの左側に手を当てて何処かと通信をとった。


、剣をこっちに」


 すると、いきなり空間からメカニカルな剣が出現した。傍観者は手品みたいな光景に開いた口が塞がらない。


「それがどうしたぁぁぁ!!!」


 ただ、怪物は猪のようにまっすぐ向かい、勢いよく鉄骨を振り下ろす。

 その刹那。鉄骨が丸太のように真っ二つに割れてしまい、怪物は状況が飲み込めず後退りしてしまう。


「俺の能力アビリティは“鋭利エッジ”。刃物の切れ味を増幅することが可能だ。鉄骨ぐらい容易さ」


 朗々と語る相手をみた怪物の脳裏には「敗北」の二文字が浮かび上がる。その文字を払拭するかのように首を横に振った。


「認めない。俺が敗ける事など絶対に認めない!!!」


 雄叫びを挙げ、拳を構えながら全力疾走でSURVIVERに向かう。SURVIVERは柄の根元のソケットに新たに乳白色のコイン二枚投入し、レバーを上部へと倒した。


『Count!two!!great charge!!』

「俺もだ。ここで敗けてなんか居られない。を……倒す為に」


 自分にだけ聞こえる声でぼやき、迫ってくる怪物に白く光る機刀で水平斬りを炸裂させた。怪物の容貌すがたは消え、元の姿角崎がその場で崩れる。SURVIVERは敗者へとゆっくり近づき、キューブ状のベルトからコインを取り出した。


「力で動く者は、いずれ自分を越える力で動けなくなる。今のお前みたいにな」


 残念無念な表情を滲ます角崎をよそに、変身を解いた青年は傍観者へと近寄った。


「やっとお前に渡せるな。ほい」

「こ、これって……」


 青年が取り出したのは、少し焦げてボロい熊のストラップだった。彼女は受けとると少し脹らみのある胸元で力強く握った。


「ありがとう。これは母さんの形見だから命の次に大事なの……」

「そうだな。そのストラップからも感じたよ」


 青年は少し照れながら彼女の方を見た。潤んだ瞳に思わずドキッとしてしまい、わざと視線を逸らし、咳払いを一つする。


「さて、ここを出るとするか。お前も来てくれ」

「え?どうして……」

「お前が10年前に助けてくれた人物の捜索、そして俺の目的の行き着く場所は


「10年前」という言葉フレーズに彼女は引っ掛かった。彼女以外にも10年前の出来事を知る人物に会ったことが全くなかったからだ。


「あなたは一体何者なの?」

「俺の名は切島きりしま 友一ゆういち。全ての怪物ビョーマを撲滅させるヒーロー……かな」

「ヒーロー……」


 彼女の記憶からあの10年前に助けてくれた男性の声が再生される。


『大丈夫。きっと君を護ってくれる人が現れるよ』


「……分かったわ。行きましょう友一」

「よし。それじゃあ……」

「それと、“お前”じゃなくて前橋まえばし 一実かずみっていう名前があるわよ」

「……わかった、一実。お互いよろしくな」


 そう言うと友一と一実は握手を交わし、裏路地を後にした。

 その一部始終を遠い所から眺める影も追うように消え去っていった。


 ***


 夜の戒都は昼の活気とは違う雰囲気が漂っている。ビルの森は星空よりも輝き、シンボルのタワーは月よりも照らす。そんな中、ヒールがコツコツと音をたて、ピシッとしたスーツにタイトスカート、 はち切れんばかりの胸元を微かに揺らし歩く女性が、一軒のバーに入店していった。既に先客がいる。


「お疲れ様です。春宮殿

「その言い方、止めてください。全くいつもそうやって……」

「まぁまぁ、いいじゃないか。ちゃんと依頼は達成したんだし」

「それとこれとは別問題です」


 春宮はムスッとした表情かおで小鉢に入った胡桃を口に運んだ。謎の男性は僅かな量の焼酎ロックをちびちびと呑んでいる。


「で?どうだ。そっちの方は」

「まだまだ十分なものが揃っていないです。長期戦は不可避でしょう」

「……やはり、そうすぐに足はつかないか」


 春宮はバーテンダーに注文を入れ、謎の男と春宮は暫く沈黙が続いた。


「でも確実にアラが出るはずだ。必ず奴らを潰さなければ、また尊い命が遊ばれる」


 濡れているグラスを強く握りしめ、残りをぐいっと流し込んだ。春宮はただそれを眺めてるだけにとどまった。


「また情報が入り次第、連絡頼むよ。それじゃ」

「分かりました。引続きご協力願います」


 謎の男性はバーテンダーに勘定を払い、春宮に軽く肩を叩いて店を後にした。一人になった春宮は頼んだ大ジョッキのビールをグイグイと喉に流し込み、小鉢のアーモンドを奥歯で噛み締めた。


 ***


「悪いな、相部屋で」


 ビルの隙間に構える小さな店に入った友一は、一実に暖かいミルクを淹れた。一実はこれまでの経緯を簡単に説明した。


「でもありがとう。あそこから出してくれて」

「いやぁ、店長に言われてさ」

「店長?」

「その説明はまた明日だ。今日はしっかりと寝たほうがいい」


 そう言うと何故か一人の部屋なのに二段ベッドがあり、上の方に寝かせてもらった。そして解放感からかすぐに眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る