#3 第三の眼 後編
「お前に会いたかったぜ、
古そうなアパートの扉を開けた、黄緑色の生地に白ボーダーのTシャツ、丸眼鏡でロン毛の男に向かって言った。当然、面識のない志島は不気味に笑っている友一に顔をしかめた。
「な、何なんだお前は?」
「通りすがりの鳴見ファン……かな?」
ますます眉を寄せる志島をよそに、友一はパーカーのポケットからスマホを出し、例の写真を本人に見せた。
「この写真に見覚えないか?」
「なんだよ、これ僕のフィギュアの紹介の……」
「そこじゃない、ここ」
指差すところに目線をやった時、先程とは打って変わって目が明らかに泳いでいた。差した先には、小さくコイン状のものと黒いキューブが写っていたからだろう。
「ちゃんと個人情報は管理しないとな」
わなわなと震え青ざめた顔のまま、志島は奥の部屋へと逃げるように移動する。その後を友一は悠々と追う。
「観念しな。彼女は何処だ?」
「お、教えるか!あいつと約束してるからな!」
「あいつ?」
『Cost!
腰のキューブに
「鳴見ちゃんは誰にも渡さなぁぁい!!」
片手に小さなアルバムを持つと、いきなり眩い光を放ち窓から飛び降りる。不意打ちを食らった友一はやっと視界が回復し逃げたことに気づいた。
「くっそぉ!あの盗撮魔野郎!」
舌打ちをしながら急いでその場を離れた。その様子を遠目から確認したスーツ姿の男性も移動を始めた。
***
「なに!ビョーマだと?」
理恵は席を外していた深目にビョーマ出現の情報を聞かされ、佐野に失礼して後ろを向いた。
「場所は?」
「ここから2キロ先にあるアパート付近からだそうです」
「う~ん、今回の誘拐事件と何か関係があるのか……」
一方、話に集中している二人を見て佐野はスーツのポケットから小さな箱を取り出していた。
数日前のこと。スケジュール等の打ち合わせで長丁場となり、帰りが遅くなってしまい、佐野は思わずため息を漏らす。
「はぁ、ちょっと休みたいなぁ」
とぼとぼと、足取りを重くして帰路につこうとしていた矢先、誰かの肩にぶつかり相手を転倒させてしまった。慌てて倒れた人物の側へと駆け寄る。
「あ、すいません!だ、大丈夫ですか?」
「あ、いえバランス崩しただけで……あれ?佐野ちゃん?」
倒れた男性から急に自分の名前を呼ばれ、一瞬たじろいだが、珍しくすぐ名前がでてきた。
「あぁ~田中君?久しぶりだね」
それからは、倒してしまったお詫びとして近くのファミレスに寄りサイドメニューを注文しながら昔の出来事や今の状況などをかなりの時間喋っていた。
「あ、そうだ。佐野ちゃんに是非お勧めしたいものがあってね」
そう言って傍らに置いていたビジネスバッグから、箱のようなものと綺麗な
「何それ」
「これは音で癒してくれる物で、腕に巻いて、箱の中に落とせば水琴窟のような音が出るんだ。知る人ぞ知る品だよ」
「へぇ~そうなの」
「これを君にあげたくてさ」
佐野は二つを手に取ると、お礼を言おうと彼の真正面を見た。ふと目と目が合うと、だんだん意識が薄くなり、ついにはバタリと倒れ込んだ。
「これで、準備は整った」
この後の記憶ははっきりとしていなく、どうやって家に帰ったか分からない。ただ佐野の手には黒い箱とコインはしっかりと握っていた。
そして今使わないといけないと、どこからか沸き上がってくる謎の使命感に迫られる。それから、またあのときのように急な眠気に襲われた。
(なんでだろう、意識が……)
朦朧としている最中、佐野は黒い箱を手首にセットする。と同時に持っていたコインをその中へと投入した。
***
「やっと追い付いた」
バイクを走らせ、ようやく目視できる距離まで詰め一気にビョーマの前方に回り、後輪をビョーマの脚部にぶつけ、こかした。
「さぁ、下手な真似をせずにその写真を渡せ」
「嫌だ!だったら……お前も写真の中に閉じ込めてy」
その瞬間、突如ビョーマの動きが止まりバタッと倒れ、そのまま元の姿へと戻った。目の前に起きた出来事に友一はすぐには理解できなかった。
「何が起きたんだ……」
「それは、俺の仕業さ」
後ろの声に振り向くと、その表情は険しくなった。
胸にスペードのマークが施された
「お前は、的居……」
「……久しいな、切島」
お互い、無言で睨み合う。ピリピリする空気が頬を撫でる。が、的居はすぐに志島の側へと寄っていった。
「今回はお前に用は無い。ただこいつのコインと例の物を回収しにきただけだ」
腰に着いたままの破損したキューブから、コインと落ちていた写真を回収して立ち上がると的居はそのまま立ち去ろうとしていた。
「まさか、こいつをビョーマにさせたのはお前か」
「さぁな、ただ俺は職務を全うしただけだ」
友一の質問に肩を
「いつでも、俺たちは見ている。お前らのことをな」
その言葉に眉を
そのときポケットに入っているスマホのバイブレーションが鳴った。連絡は店長、神林からだった。
「店長?」
「大変だ、ジッカイ事務所からビョーマの反応が!」
「何!?」
思わず大声を上げる。一日の間に2体ものビョーマが発生することは無かった。その様子を隣で顎を撫でながら、聞いて呟いた。
「やっぱり、そろそろアレが始まるのかな」
「それはどういう……」
「ま、今は分からなくてもいつかその時が来る」
意味深長な言葉を残して的居は去っていった。友一はそのことに後ろ髪を引かれるも、件の事務所へと行くため、またバイクに跨り、フルスロットルで走らせた。
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