#4 四百四病の内 前編

 春宮と深目は目の前の状況を素直に飲み込めなかった。なぜなら先程まで話していた相手が、異形の怪物へと変身していくのだからだ。


「Cost!伸縮ストレッチ

「佐野さん!そんな!」

「一体……どういうこと……」


 戸惑っている間にも、佐野ものは蛸のような容姿へと変わっていく。ゆらりと腕をくねらせながら、何故かじっとしている。チャンスだと思い春宮は指示をだす。


「深目、すぐに応援を!」

「了解!」


 それを合図に相手の攻撃が始まった。鞭のように腕を、素早く深目の腹部めがけて叩きつけた。


「ぐはっ!」


 トビラごと飛ばされた深目は、痛みで立つこともままならない。春宮も思わず部下の安全を確かめた。


「深目!」

「春宮さんっ!前っ!」


 悶える声に反応するが早いか、相手の腕が春宮の首に巻き付き、強く絞め付けてきた。


「ぐっ……」


 ギリギリとゆっくり春宮の体が浮き、次の瞬間には衝撃で破壊された窓から放り出されていた。5階から真っ逆さまに落ちていき、叫び声と共に死を覚悟したその時だった。

 激突寸前で、誰かが身体をキャッチした。薄っすら目を開けると、見憶えのあるフルフェイスのメットを被った人物。


「お前は……あのときの……」

「間に合って良かったぜ」


 ふわりと地面に着地すると、木陰のそばに春宮を座らせた。


「ここからは俺の出番だ。後は応援でもかけておくんだな」


 そう言うとSURVIVERは急いで、追いかけてきたビョーマに臨戦態勢を構える。


「さぁ……お前、何をかけて戦う」


 唸っているだけで、此方への返答が全く無いことにいささか疑問に感じるSURVIVER。


「何だあいつ、まるで人形みたいだな……」


 しかし、ビョーマであることには変わりない。早速、攻撃を仕掛けようとしたとき。相手が素早く触手をしならせた。紙一重でかわすが、次々と畳みかけてくる。


「こいつ、素早いのに的確に攻撃してくるな。誰かが見て操っている感j」


 冷静に分析していると、片方の足首に腕が巻き付いていた。


「しまっ……」


 そう思ったときには、SURVIVERの身体は壁や地面に叩きつけられていた。激痛が走るのを耐えながら通信を行う。


ZET-Uゼツ!剣を!」


 直ぐさま剣が転送されてきたが、ビョーマに弾かれて飛ばされてしまい反対側に落ちてしまう。SURVIVERもようやく猛攻から抜け出す。剣と自分の間には、唸っているビョーマが行く手を塞ぎ、正面突破は困難極まりない。策を練っていると、腰の左側につけてあるホルダーからチャリンと音がした。開けてみると、銀朱色のコインが入っていた。


「……使って見るか」


 一か八か、ベルトの中央にコインをセットしてみる。


『Bet!SEPARATE!』


 SURVIVERの身体が、コインの色に発光した。しかしそれ以上の変化は何も起きない。


「今ので終わりか?」


 期待を裏切るような結果に呆気に取られていると、出方を待っていたビョーマもついに痺れを切らし、くねらせた腕を一直線にしなる。身体に直撃すると思った瞬間、腰から真っ二つに


「何が起きたんだ?」


 思いもよらない出来事に、ビョーマは勿論SURVIVERですら驚いていた。だがSURVIVERはこの能力を理解し、ある作戦を思いついた。


「なるほど、大体わかった」


 分裂した身体と再び合体すると、そのままビョーマの方へと全力疾走する。ビョーマは二本の腕を連続で振り、渾身の一撃を与えようとした。SURVIVERは最初の攻撃を避れたが、次々と肩や身体に当たり転倒してしまった。ビョーマはそのままSURVIVERの足首を再び捕らえたが、当の本人は余裕の表情でいた。


「甘いな、同じ手に引っかかるバカじゃないぜ」


 そう言うと後方から、弾き飛ばされていたはずの剣が巻かれた腕を断ち切った。剣の柄には分裂した手が握りしめていた。


「こいつは、身体の一部をパズルのピースのように切り離したりできるのか。まぁその間は別の部分はできない仕様らしいな」


 浄化したコインに関心を寄せているSURVIVERだが、斬られた

腕が再生したビョーマは尚も攻撃を仕掛けようとする。


「さて、そろそろ締めに入るか」


 剣のソケットに2枚、乳白色のコインをセットする。


『Count!two!great charge!!』


 白く迸る剣を握りしめ、最後の怒涛を始めたビョーマに向かい、文字通り、切り開いて前進する。そして懐に入ると勢いよく逆袈裟斬りをお見舞いさせた。爆発と共に破損したキューブと気を失った佐野が現れた。SURVIVERはキューブからコインを回収し、佐野を方を見た。


「進むことも大事。だが停まることも大事だ。今はそんときだろうな」


 腰のホルダーにコインをしまうと、遠くの方から複数のサイレンの音が聞こえてくる。誰が呼んだのかすぐに察しがついた。


「後は、お巡りさんに任せるか」


 変身を解いた切島は、マシンハシローダーに跨がりその場を去った。


 * * *


「ツルギさん、ミッションは失敗しました」


 戦いの一部始終を陰から見ていた男性が路地裏でツルギに状況報告した。


「わかった。お前はディアと連絡をしろ。後処理は此方でやる」

「了解です」


 受話器を置いたツルギは、着物の袖から一枚の写真を取り出し一言ぼやいた。


「いつまで悪あがきできるか、しかと見ておこう、SURVIVER……」


 男性が電話を切ると、直ぐさまディアに電話をかけた。


「私です、ボス」

「電話が来たということは、しくっちゃったって事だね」

「……はい。申し訳ありません」

「気にしない、気にしない。だってまだ沢山いるじゃん、人形たちがさ。

これからもそので頼んだよいや

「了解しました、ボス」


 やり取りを終えた富田という男は、菱形模様のネクタイを締め直し「佐野 亜樹」と書かれたリストにチェックをつけた。そしてまた別のミッションがあるらしく、背中に夕陽を受けながら歩みを進めた。

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