SURVIVER
熟内 貴葉
#1 一つの目的へ 前編
「お母さん!!!」
辺り一面火の海に呑まれる街の風景に、少女の声が響き渡る。
「お母さん!!ねぇ!どこ!」
涙を流しながら精一杯叫ぶが応答はなく、パチパチと焦がす音しか聞こえない。少女は包まれる。不安と孤独という炎に。逃げ惑う人々。入り混じる悲鳴。少女ができることは、お気に入りの小さな人形を力強く握り立ち
「君!大丈夫かい!」
一人の男性が少女に気付き、駆け足で傍に近寄り、しゃがんだ。
「ここに居たら危険だ。早く逃げなさい!」
「でも、お母さんが……」
少女が送る目線の先に燃えている瓦礫を見て、男性は何が起きたか察した。
「……大丈夫。お母さんはきっと大丈夫だよ」
「本当!?」
「ただ今は君の命が大切だ。すぐここを離れた方がいい」
「いや!一人ぼっちはいや!」
また
「大丈夫。きっと君を護ってくれる人が現れる」
「……?」
「解らなくてもいい。だが、今は逃げて。おじさんも後で追いかけるよ」
「……うん、わかった。約束だよ!」
やっと微笑んだ少女は男性の前で指切りをしようと言ってきた。男性は戸惑ったが、笑顔で応じた。少女は蜘蛛の子を散らす中に入り、脱出した。また会える。そう思いながら。
***
「こんにちは。RSFニュースのお時間です」
そびえるガラス張りのタワーに付く大画面TVに映る女性アナウンサーが昼を知らせた。ゾロゾロと蟻のように動く人々は見向きもせずに歩いている。一人の青年を除いては。
「次に。
灰色のパーカー、クリーム色のチノパンの格好で落書きだらけの高架下からニュースをじっくりと視ている。
この大都市
「本当なんだな?生存者がいるってのは」
青年は垂れ下がった白いイヤホンに付いている小型マイクに向かって喋った。向こうの人物と何度か会話をした後、イヤホンを外した。腹の虫が鳴いたのだ。
「そろそろお昼にするか。確か
縁石から立ち上がり、ビル群へと行こうとしてたとき後ろから叫び声が聞こえた。
「誰かそいつを捕まえてくれ!」
その声よりも猛スピードで此方に突っ込んでくる同い歳っぽい女子の姿が飛び込んできた。
「いってぇ~」
青年と女子はその場で倒れてしまったが相手はなにも言わずに立ち去ってしまい、声を掛けようとしていた手は宙を掴んだ。その後ろから、息切れしている被害者が近寄ってきた。
「君、黒い鞄持った、子、知らない、か」
「あぁ。さっき俺にぶつかって向こうにいったよ」
「参ったなぁ。店長に怒られちゃうよ。売上に響いちゃうしなぁ……」
被害者の男は肩を落としながら、来た道をトボトボと戻っていった。
「とんだ災難だな」
青年はその場から去ろうとしていたが、足に何かが当たりそれを拾い上げた。
「……あいつが落としていったのか」
***
暗く細長い路地を右へ左へを繰り返し、金網フェンスが破れたところから大きく
「遅かったじゃん」
瓦礫の山の頂上に、二人の手下を従えた耳ピアスの金髪青年は息が乱れる女子を見下ろしながら言った。
「うるさいわね。 でもちゃんとエモノはあるわ」
女子は大事に抱えていた黒い高級そうな鞄を得意げに掲げた。
スラムヤング。様々な理由で居場所も家族も失ってしまった若者が“
「へぇ、やるじゃん。じゃあボーナスを……」
「あのぉ、お取り込み中失礼しまーす」
そこにあの忘れ物を届けに来た青年が金網に苦戦しながら入ってきた。驚愕する女子。気配もなく、入り組んだ
「あ?誰だ、お前。勝手に俺のナワバリに入ってきて」
「いやぁ、落とし物を届けに来ただけだ。渡したらすぐ帰るさ」
「そう言うわけにもいかねぇな」
すると石像のように立っていた手下が下山して、二人に近づいてくる。
「ここは俺、
角崎が顎で指した瞬間、ビクッと反応した隣の女子。それを後退りしながら横目で青年は捉えていた。
「何で彼女も?」
「アイツはお前に盗みがバレた。挙句の果てにナワバリまで。もう生かすわけにはいかねぇな」
手下二人はすでにメリケンサックを装備している。こちらは無防備。明らかに不利である。
しかし青年は怖気ることなく、彼女の前に立った。
「でも、まず悪い事してんのそっちだし。それに俺は彼女に用がある。だから彼女に手ぇ出したら、容赦しないぞ」
両者、戦闘態勢。手下Aは青年に右ストレートを繰り出すが受け流され、そのまま地面にこかす。続けて手下Bがヒュっと素早く左右の拳を出す。紙一重にかわし、次に出た右の拳より先に動き、背負い投げを披露。まずは一人目。
「きゃああああ!!!!」
すぐ後ろで悲鳴が上がる。見ると手下Aが彼女の首元を力に任せて締め上げている。
「へ、すぐに楽にしてやるよ」
「それ……こっちのセリフだ……」
背後がら空きの手下Aの肩に手を置く。少しの怒りも添えて。手下Aの「しまった」と書いてある顔面に一発。即ノックダウンとなった。
「武器に頼りすぎだな、完全に」
その様子に角崎は不気味なほど落ち着いていた。まだ奥の手があるみたいに。
「ほぉ。珍しく強いのが現れたな。じゃあ俺も
角崎は革ジャンの胸ポケットから金縁の瑠璃色したコインを出した。次に驚いたのは青年の方だった。
「お前、なんでそれを」
「あるヤツから貰ったんだ。これがあれば誰にも負けないぜ!」
「止めろ!!」
制止も空しく、角崎は腰につけてあるキューブ状のデバイスが付属するベルトに装填する。
『Cost!
角崎の姿がみるみるうちに、筋骨隆々な異形なモノに変貌していく。それを見るなり青年は舌打ち一つ。
「ち、やっぱりアイツらの仕業か。じゃあ俺も本気出すか」
そう言うと懐から黒く機械的な意匠が目立つドライバーを出した。
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