設定編(戎装騎士)

戎装騎士ストラティオテス

全ての騎士に共通するメカニック設定。


0.概説

戎装騎士は人間への擬態能力を備えた人型ロボット(アンドロイド)である。

高度な自己再生能力をもち、全身に張り巡らされた循環システムを用いて絶えまなく自分自身をメンテナンスすることによって、破壊されないかぎり半永久的に稼働する。こうした仕組みは人間や動植物といった生命体と同様であり、彼らは一種の機械生命体と言えるだろう。加齢に伴う遺伝情報のエラーから逃れられない動物と違って、彼らの身体はどれほど自己複製を繰り返してもプログラムが劣化することはなく、したがって寿命の概念が存在しないというだけのことだ。

いつ、誰が、何のために彼らを創り出したかは謎に包まれている。当の騎士たちも、自分の出自については不自然なほど記憶が欠落している。分かっているのは、彼らが戎狄バルバロイとの戦いに前後して出現し、人間の側について戎狄と戦ったということだけである。

言うまでもないが、本編の舞台となる時代(現実で言う16世紀)にはあきらかにそぐわない技術の塊である。

人類が戎装騎士に用いられているテクノロジーを解明するまでには、少なく見積もっても千年単位の時間と、数えきれないほどの技術革新を必要とする。とくに人間と全く同一のクオリアや感情をどのようにしてプログラム上に再現しているのかという点については、人類は永遠に解答に辿り着けない可能性すらある。その謎に明確な答えを出すことは、人間が創造主に成り代わることと同義なのだから。


1.基礎構造

1-1.骨格

戎装騎士には人間のような内骨格は存在しない。

より正確に言うなら、内骨格と外骨格のハイブリッドである。

人間体では体内に引き込んだ装甲が擬似内骨格として機能し、戎装体では体表に露出した装甲が外骨格として機能する。

戦闘形態である戎装体において身体の内部空間を最大限に利用するため、あえて人間とは異なる応力外皮モノコック構造を採用しているのである。

モノコック構造はフレーム構造に比べると外力に弱いとされるが、それはあくまで現代の技術水準でのこと。戎装騎士の身体に用いられているテクノロジーは、フル・モノコック構造でありながらフレーム構造をはるかに凌駕する強度と靭性を実現している。

人間における血管や筋肉、神経は装甲と一体化しており、それぞれの組織は有機的に結合している。既存の機械のように分解することは出来ず、分子レベルでの組織更新ターンオーバーを行うことで機体は最適な状態に保たれる。


1-2.脳

人間にとっての脳に相当する器官は、胸骨に相当する部分の裏に存在している。

胸郭を構成する装甲は全身で最も厚く、そして外部の環境の影響を受けにくい部位だからだ。動力源のように全身に分散して配置されていないのは、冗長性よりも確実な防護を優先した結果である。

頭部には五感に相当する各種センサーと、取り込んだ情報を処理する一次装置だけが搭載されている。そのため、戎装騎士はたとえ首を切断されても致命傷には至らない。頭部を失った状態でも装甲を振動させることでエコーロケーションによる位置把握が可能だが、戦闘能力は大幅に低下する。


2.動力源

戎装騎士の体内には主機関ジェネレーターに相当する器官は存在しない。

動力源は全身に分散されている。すなわち主要な関節に配置されたディスク状のパーツ(*1)と、疑似筋肉スード・マッスルである。

それら一つひとつが超小型のモーターであり、必要な部位に適宜エネルギーを提供している。また、疑似筋肉はそれ自体が電力を発生させるだけでなく、蓄電器キャパシタとしての機能も有している。蓄積したエネルギーを解放することで一時的に出力を向上させることが出来るが、その分機体にかかる負荷は増大する。(*2)

疑似筋肉の多寡は戎装騎士の出力に直結している。面積あたりの疑似筋肉が多いほど高出力を発揮できる。一例として、イセリアの疑似筋肉組織はアレクシオスの同じ部位と比較して約15倍ほどの密度があり、それが両者のパワーの差に繋がっている。疑似筋肉の総量はあらかじめ決まっており、鍛えても増大することはない。

動力源は各部に分散しているため、専用の冷却器を必要とするほどの熱を帯びることはめったにない。装甲それ自体が余剰エネルギー排出器を兼ねており、通常は体表からの放熱を行うことで冷却を行っている。戦闘時は生産されたエネルギーのほぼ全量が体内で消費されるため、激しく戦うほどに戎装騎士の装甲は冷えていくという一見矛盾した現象が生じる。

放熱システムの破損などにより、万が一熱暴走の危険を感知した場合には、後述する関節の強制冷却システムが作動する。疑似筋肉の冷却についてはかなりの冗長性が存在するため、まず使われることのない機能である。


3.関節構造

戎装騎士の全関節は油圧(*3)によって稼働する。

各関節では疑似筋肉と油圧システムが複雑に結合し、巨大なトルクを発生させる。

油圧システムは常に働いているため、人間の姿でも常人の数倍~数十倍の力を発揮することが出来る。

関節は厳重にシーリングされ、内部に充填された液体が漏れ出すことはない。(*4)

液体の温度は常に一定に保たれるように制御されている。限界を超えた稼働によって油温が異常上昇した場合は、関節が展開して強制冷却を行う。

強制冷却を作動させた場合、関節の気密性が失われるため(*5)、出力は一時的に低下する。


騎士は戎装によって人間体と比較して平均8~10cmほど身長が伸びる。これは関節のロックが外れるためである。それに伴って各関節の可動域も拡大し、四肢の末端までより強力なパワーを伝達できるようになる。

関節自体の位置も変わるため、戎装した騎士のプロポーションは人間とはかけ離れたものになる。とりわけ股関節・膝・足首といった下半身の関節の伸長は著しく、一方首や腰は可動よりも防御を優先して人間体よりも縮む傾向にあるため、多くの戎装騎士は胴短長足の独特の体型をもつ。


4.装甲

戎装騎士の装甲は三層から構成される。

すなわち微細多孔質ミクロポーラス素材によって構成される一次装甲、装甲の基礎となる二次装甲、実際の防御を担う三次装甲である。


4-1.一次プライマリー装甲・アーマー

一次装甲の役目は、主として疑似皮膚組織スード・スキン・ティシューの展開と収納である。人間体を形成する際には、細孔から疑似皮膚組織の滲出をおこなう。戎装時にはやはり細孔を用いて疑似皮膚組織を体内に吸収し、戦闘用装甲を形成するための下地を作る。多孔構造のため剛性には乏しく、装甲としての機能は最低限に留まる。人間における「皮下組織」に相当する。


4-2.二次セカンダリー装甲・アーマー

二次装甲は本格的な装甲形成のための基礎である。それ自体が微小な工作機械の集合体であり、また高精度の造形出力装置でもある。一次装甲を通していったん体内に取り込まれた疑似皮膚組織を再構築し、三次装甲として出力することが二次装甲の主な機能である。緩衝材としての性質を持つ一方、装甲自体の防御力はさほど高くない。また、この層に外的ダメージが及んだ場合、一時的に戎装を解除することが不可能になる場合がある。人間における「真皮」に相当する。


4-3.三次ターシャリー装甲・アーマー

三次装甲は最も外層に位置する装甲であり、外部から見える唯一の装甲である。

戎装騎士の三次装甲は、基本的にうっすらと透きとおっている。これは疑似皮膚組織がいったん体内に取り込まれたあと、格子欠陥や結晶粒界が存在しない非晶体アモルファス構造へと再構築される関係上、光が透過しやすくなるためだ。アレクシオスやオルフェウスの装甲が艶やかな光沢を帯びているのもそのためである。一方でイセリアのように装甲が何層にも積層しているため光を通さず、一見すると不透明(*6)にみえる騎士もいる。装甲が透き通っているかどうかは、その騎士の防御力を判断する簡易的な指標といえるだろう。人間における「表皮」に相当する。


5.感覚器

5-1.視覚

人間のような眼球と視神経に依存する視覚器は存在しない。

戎装騎士の眼とは、頭部に配置された超小型カメラの集合体を意味する。

構造的には昆虫の複眼によく似ている。数千万個もの光学センサーは広大な視野角をカバーしており、超高倍率の電子顕微鏡と同等かそれ以上の分解能をもつ。

各センサーが捕捉した光の波長スペクトルはいったん帯域ごとに分解されたあと、頭部に搭載された一次処理装置がそれらを自動的に合成、映像データとして処理される。

戎装体では視覚センサーの可視領域が大幅に拡大し、人間には見ることの出来ない不可視光線(*7)もはっきりと捉えることが可能になる。戎装していなくても、意識を集中させれば紫外線や赤外線の流れをうっすらと「視る」こと自体は不可能ではない。常に不可視光線を視認してしまうと世界そのものが人間とはまるで違って見えてしまうため、人間として自然にふるまう(擬態する)ことを考慮してこのような仕様になっているのだろう。(*8)

高性能を誇る一方できわめて繊細な構造ゆえの弱点も抱えており、多量の光を浴びたことでセンサーが焼け付いた例もある。それも夜間に受光感度を限界まで引き上げていたためであり、通常の感度であればそのようなことはまず起こりえない。もしセンサーが破損した場合も自己再生能力によってただちに復旧するが、戦闘中には命取りとなる可能性もある。


5-2.聴覚

人間態でも一般的な人間より広い可聴域をもつ。

これは危険を察知するうえで聴覚が視覚よりも優先するためである。

戎装態ではセンサー領域の拡大により、超低周波音や超音波音を「聴く」ことも可能になる。


5-3.その他

触覚や味覚、嗅覚といったさまざまな感覚も、戎装騎士は人間と同じように感じることが出来る。騎士は燃え盛る炎のなかでも火傷を負うことはなく、極寒の海に飛び込んでも凍死することはないが、快・不快はそうした身体の頑丈さとはあまり関係なく感じるようだ。暑さや寒さに対して自然な反応を取ることも、人間らしくふるまうための重要な条件だからである。


6.擬態能力

(加筆予定)


7.分類

7-1.戦闘型

最も戦闘に適したタイプである。

イセリアとアグライア、タレイアが該当する。高い攻撃力を特徴とする。

このタイプに属する戎装騎士は、いずれも単体で戎狄を撃破できるだけの戦闘能力を備えている。それは同じ戎装騎士との戦いでも優位に立てることを意味している。


7-2.支援型

戎装騎士のなかでも他の騎士の支援に主眼を置いたタイプである。

アレクシオスは支援型に該当する。具体的には偵察・斥候型であり、俊敏な機動性と自衛用の武装を備えた軽量型の戎装騎士である。支援型の例に漏れず、単体で戎狄と戦うだけの能力は持ち合わせていない。装甲も攻撃力も戦闘型に比べると低い水準に留まっており、戦闘においては劣勢を強いられることになる。

アレクシオスは戦闘型ではないにもかかわらず、戦役を通して八体もの戎狄を倒しているのだから、まさしくド根性の賜物である。本人は目立った戦果を上げられなかったことを今なお気に病んでいるが、本来の用途から考えれば破格の成績なのだ。

エウフロシュネーもこのタイプに属している。


7-3.駆逐型

現時点ではオルフェウスただひとりが該当する。

駆逐型の名が示す通り、戎狄と戎装騎士に対して無類の強さを発揮する。

オルフェウスに関して言えば、装甲は脆弱であり、力はあらゆる騎士のなかで最も弱く、継戦能力はきわめて乏しい。それは戎狄と戎装騎士を殺す上で不要な機能をことごとく捨て去った結果である。あらゆる戎狄と戎装騎士を一撃で殺すことが出来る彼女にとって、分厚い装甲も、強力な腕力も、長時間戦闘を継続する体力も必要ないのだ。単目的に特化した極端にピーキーなバランスの上に成立しているのが駆逐型戎装騎士の特徴と言えるだろう。

戎狄が滅びた今、その類まれな戦闘能力は戎装騎士を殺すためのものにほかならない。


【注釈】

*1 関節を動かすのは後述する油圧システムであり、この器官は純粋にエネルギー生産のみを担う。肘・膝・肩・手首・足首・大腿部の付け根に存在する。


*2 辺境編第13話でオルフェウスがアレクシオスを抑え込んだのはこの機能を用いたため。戎装騎士の中では最も非力な部類に入るオルフェウスだが、疑似筋肉の出力を向上させることで多少のパワー差なら覆すことが出来るという例である。


*3 便宜上「油」と呼ぶのであって、実際に所謂機械油(鉱物油)を用いて関節を動かしている訳ではない。戎装騎士の関節を満たすのは詳細不明の液体である。


*4 もちろん外力によって関節が破損した場合は別である。


*5 前近代の欧米で盛んに行われていた瀉血に近い。すなわち身体にわざと傷をつけ、血を抜くことで解熱を図ろうというのだ。


*6 近くでよく見れば半透明であることが分かる。積層した装甲板はそれぞれ異なる方向に噛み合うように配置されているため、曲げやねじりといった外力に対して強い剛性をもつ。


*7 見えることと回避可能かはむろん別の問題である。


*8 通常の視界もそのままではクリアに見えすぎるため、映像を合成する過程でわざとノイズと歪みを付加している。人間の角膜は大なり小なり歪んでおり、脳が認識する映像もそうした歪みに基づいたものだからだ。ここまで人間の感覚を再現しようとしているのは偏執狂的ですらある。

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戎甲のストラティオテスAppendiX ささはらゆき @ijwuaslwmqexd2vqr5th

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