昭和の時代、実戦至上主義を謳い政財界にも強い影響を持つ日本最大の武術団体があった。その名は叢雨流――その総帥である叢雨辰次郎はある時テレビ局に大きな圧力をかける。
特撮番組の放送をやめてもらいたいというのだ。曰く、特撮番組は格闘技でありながら、それでいて〝うそごと〟である。格闘技を実戦としてやっている自分たちにとってそんなものが子供たちに見られるのは迷惑だというのだ。
めちゃくちゃなクレームだ。しかしこのクレーマーにはそのめちゃくちゃを押し通す武力と権力があった。これに対しテレビ局局員の橘川はさらなるめちゃくちゃなカウンターを放つ。
だったらフィクションではない真剣勝負の特撮を撮ってやろうではないか、と。かくして作られたのが異色の特撮番組『宇宙拳人コズマ』である。その内容はコズマ役に抜擢された青年・風祭と、怪人役として送り込まれる叢雨流の刺客がルール無用で真剣勝負を繰り広げるというもの。
着ぐるみに隠されて一見わからないが、平気で流血はするし骨だって折れるという容赦ない格闘描写がたまらない。また週ごとに現れる叢雨流の刺客たちもただのやられ役ではなく、それぞれドラマを背負った魅力的な人物として描かれており、ファイトスタイルもボクシングをベースにした者から中国拳法の使い手やヨガの達人まで現れて実に多彩。
死闘で倒れたヒーローに代わって2号ヒーローが登場するなど特撮ものとしてのお約束もしっかり踏まえられており、格闘小説としても特撮ヒーローものとしても極上の一作に仕上がっている。
(「拳で道を切り開く! 特殊格闘技小説!」4選/文=柿崎憲)