衆道に耽る殿に十三歳の頃から寵愛を享け、後に棄てられた白皙の藩士 丙七郎は、殿にたいする愛増を日毎に募らせていた。しかしながらそれはやり場のないものだ。殿はすでに他の美少年たちをはべらせている。殿の寵愛は遠い過去のものとなり、殿に刻まれた傷だけがいま、丙七郎を苛めていた。
そんなとき、彼は奇妙な南蛮陶物を扱う裏店に誘われる。
殿が傾倒しているのは衆道と「焼物」――移ろいゆくひとの身と、不変なる静物。そのふたつが交錯するとき、彼の愛憎は情念の火となって燃えあがる。
女の情念とは昔からよく云います。
ですが男の情念と云わないのは何故でしょうか。男にも愛があり、憎があるかぎり、情念があらぬはずもないというのに。
著者さまの雅趣に富んだ筆致で描きだされた男の情念。実に凄絶で美しく、悲しい。確とこの瞳に焼きつけさせていただきました。