第5話 四季折々の森

どんどん進んで行く。さっきまで街にいたはずが今は深い森の中にいる。


「あの……帽子…さん?…どこへ行くのかしら?」


「お茶会に決まっているだろう!ひらりふわり舞い踊る。のらりくらり逃げ踊る。はらりと落ちる赤い雫。誰が落としてった?それは女王。高貴で美しく残忍なお方。あぁ、私は貴方の為に身を焦がします。貴方は私達に愛を慈悲を!お迎えに上がりました。親愛なる貴方。」


「あ……………」


アリスは帽子の詩のようなものに何処か懐かしさを感じる。思わずその何かに触れようと思った。しかし、アリスが空に手を伸ばした途端何もかもが分からなくなる。アリスは自分がなにを言おうとしていたのか考えるが全く思い出せず、代わりに帽子に問いかけた。


「今のは何……?」


「忘れてしまったのですか?アリスは本当に忘れっぽいですねぇ〜よく女王が君に歌っていたじゃないですか〜僕たちと一緒にね。」


聞きたがりのアリスだがそれ以上はきけなかった。というよりもアリスの本能的な部分がアリスに“聞くな!”と言っているような気がしたのだ。そのせいか次には気の抜けたような声しか出せなかった。


「はぁ……」


「もうすぐ着きますよ〜きっとみんな楽しみにしてるでしょうねぇ〜君のご到着を!ずっーーと待っていたのですからね。猫に兎に......鼠?まあいい!トカゲはそのうち出てくるさ。」


そう言って帽子は鼻歌を歌いだす。アリスにはなんだかこの世界の全てが突然恐ろしいように思えてきて何も考えられなくなっていた。帽子は森の中をどんどん進む。森に入った当初は新緑香る美しい森だったのにやがて葉が色づき、葉が落ち、雪が降り、辺り一面銀世界に包まれている大きな森に立った。二人しかいないことがありありと身にしみて恐れよりも孤独感が襲ってきた。


「帽子さん…?」


「なんだねアリス?僕は君のそばにずっーーといますよ〜」


アリスが欲しかった言葉を帽子は心を読んだかのようにくれた。彼は不気味だが一気に孤独感に苛まれたアリスには“人がいる”それが確認できるだけで十分だった。車椅子が進んで行くから帽子が押していることは分かるが顔が見えないぶんたまに話さないと誰もいないかのような気分になる。


「寒いわね…」


「そうですか?アリスには寒いのかもしれませんねぇ〜」


そういって何処からか帽子はモーフを出しアリスにかける。そしてアリスがお礼を言うより先に帽子は話し始める。


「今は雪が降っていますからね〜雪は孤独を、新緑は発見を紅葉は高揚感を!枯れ木は恐怖を運んでくる。僕はちーーっとも発見も高揚も孤独も恐怖も感じないですけどねぇ〜流石アリス!」


褒められているのかなんなのかさっぱりアリスには理解できないがやっぱりここはおかしい。





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