第4話 帽子屋

そこはアリスの行ってみたいと思った場所を融合させたかのような場所だった。国も文化も違う街並み。なのに何故かここは全ての家々が調和し異国の文化をより美しく見せていた。真ん中にはトレヴィの泉のような大きな噴水。そこからまっすぐ黄色いレンガの道があり、両脇には家やお店。右手前にはインド風の家屋、隣はフランス風のパン屋、向かいは日本風の家屋に茶屋。全てがアリスを魅了した。だが、そこには誰もいなかった……


「ここ綺麗でしょ〜」


突如アリスの上から声がする。女の人にしては低いが男の人にしては高いような声。アリスはその声の主を探して辺りを見回す。ドアの向こうにもドアの中にもいない。


「ようこそ!アリス。」


今度はドアの中から声がした。アリスは目覚めた時の倍以上にもなってしまった部屋を見回す。しかし誰もいない。が、アリスがドアの外の街並みに再び目をやった瞬間、それは姿を現した。


「ようこそ。アリス…」


声の主はアリスと目が合うとさっきより丁寧に、執事のように胸に手を当て片足を一歩後ろに引いてお辞儀をする。その者はどうやら男性のようだった。生成りのような色のシャツに茶と緑のストライプに金の金具やボタンがついたベスト。上衣はジャケットのような生地だがコートのように長いトレンチコートの形をしていて深い緑色に金で蔦のような縁取りがされている洒落たコート。そして長めの茶色いブーツ。アリスの足のない小さな体では顔はよく見えないがシルクハットをかぶっている。そのシルクハットもまた同じような色使いに見えた。小さい体でも確認できるほどシルクハットに巻かれたリボンは長く宙を漂っている。そして黒と紫という全く違う色使いのベネチアンマスクをしている。しかしそのマスクには目を出すはずの穴がなく、それがあるべき場所には黒で縦長に猫のような目が書かれている。何処と無く不気味な男だった。


「あなたは誰なの?」


アリスは恐る恐る聞く。


「忘れちゃったのかい?アリス。そういえば……今日はアニスは一緒でないんだね〜まぁいいや!!では改めましてご紹介!私はしがない帽子!!アリス!サァ、これにお乗りくださいませ!!」


明るくテンポのいい口調でその男は喋り出す。アリスは何が何だかわからなくなってくる。


(アニス?忘れた?帽子??)

「私、あなたが何を言っているのかよく分からないわ。アニス?って誰なの?それに私はここにきたことはないですし、貴方は帽子ではなく人でしょ?そもそもなんで私のこと知っているのかしら?」


アリスは全てを一度に聞く。疑問に思ったら‘‘調べる、聞く’’がアリスの信条だった。


「まぁまぁアリス。君は混乱している!1つずつだ!!2回は言わないからね?よーく聞くんだよ。ここは君達だけの世界!!!そして僕は帽子さっ!

「なんの答えにもなってないわ。」


アリスは不思議な顔で話す。


「しょうがないですね〜〜!まぁいいじゃないですか!!サァサァ、行きますよ〜行きますよ〜ほーら!」

「何処に…………?」

「何処って……うーん……取り敢えず、あっち!」

「あっちって……あっちには何もないじゃないの…」

「あっ!しまった……」


そういうと男はジャケットの内側を大きく広げそこに手を入れる。するとまるでマジシャンのように何もなかったとこからヒョイと杖を出す。杖の柄は金で帽子の形をしている。なんとも持ちづらそうなデザインだが杖の木や柄をよく見ると凝ったデザインが施されていて高価そうなものだった。


ートントンー


男が杖で地面を2度叩く。すると突然、車椅子が現れたかと思うと私は既にその車椅子に乗っていた。それは生成りの生地で車輪や手の部分には花やツタが絡みつき、まるで妖精のように美しい車椅子だった。


「サァーテ!では、行きましょうか。アリス!!しゅっぱぁーつ。」



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