第7話 兎と鼠と兎
一本の道を抜けた先、そこには摩訶不思議な光景があった。今までも不思議なことばかりでアリスは不思議なことにだんだん慣れてきたと思っていたがそれが思い違いであったことを知る。そこには少年らしいサスペンダーを着た右耳を失った白い兎、執事のような格好で丸い眼鏡をかけたの左耳を失った茶色い兎、そして貴婦人のようなドレスを纏った鼠がいた。3匹はどれも首から下は人間の風貌をしており、動物とも人とも形容し難い姿である。3匹は枯れた木に囲まれた暗い場所で長いロココ調の机に、これまたロココ調の猫脚の椅子に座ってお茶会をしている。さっき程までいた場所と打って変わり空は赤く色づき、恐怖がこみ上げる。
「また会えたね、アリス!!!」
「お待ちしておりました。アリス様。」
それぞれが思うように挨拶をする。またもやアリスは自分のことを知っているような2匹に驚いた。奇妙な真紅の空に、枯れた木に囲まれたこの薄暗い森が、不思議な風貌の3匹をより怪しく見せていた。
「えっと…………こんにちは……」
アリスはしどろもどろに挨拶する。
「もしや、私たちのことお忘れでしょうか?」
執事のような茶色の兎が言う。お忘れも何も会ったことが無いのだからアリスは返答に困る。
「……………………」
静寂に時が止まる。いくら枯れてるとはいえこんなに木があるにもかかわらず葉のかすれる音一切しない。空は赤く、何処かで誰かの悲鳴が聞こえたような気がした。“ここにいてはいけない”と思わせるような雰囲気を醸し出しいる。
「困ったね。まさか忘れられてるとは思わなかったよ......」
白い兎は先程までの元気な様子を忘れて俯く。アリスは少し申し訳ないようなそんな気持ちになった。
「女王陛下は……いらっしゃらないのですね。」
茶色い兎は寂しげに微笑む。
「…………」
忘れられたら悲しむほどに私のことを知っているらしい2匹を見ていると何故か恐怖は薄れて先まで恐ろしかった場所に何故だか親近感が溢れる。
「また寝てるのかよぉー。本当によく寝るなぁ鼠は。」
白い兎は隣に座る鼠の頬をつつく。アリスはその時気づいた。彼らの手は動物らしい腕だと言うのに先だけ人間のように枝分かれして指になっている。
「しょうがないじゃないですか。寝かせておきましょう。」
「むぅー、仕方ないな。」
白い兎は可愛らしく頬を膨らませる。
アリスは2人のやりとりを不思議と懐かしく微笑ましく見つめる。どうやら鼠の貴婦人は寝ているようだがどうにも寝てるようには思えない。何故ならその貴婦人は目を開けたまま姿勢良く自分の席に座っているのだ。どう眠っていると分かるのだろうかとアリスは思う。その目はアリスをここに連れて来た片腕の兎と同じく真っ白だった。
「あの……本当に寝ているんですの?」
「えっ?そりゃ勿論寝ているよ。」
白い兎は目をまんまるくして不思議そうに首を傾げる。
「どうやって分かりますの?」
「彼に聞いても無駄ですよ。大した答えは帰って来ないですし、私達自身何故分かるかなんて分からないのですから。」
茶色い兎が答える。
「今日は女王陛下とは御一緒じゃないのですね。」
不思議そうに茶色い兎がまたそう言うが、アリスには全く意味がわからない。そういえば、帽子にもアニスは一緒じゃないのかと聞かれたのを思い出す。帽子に確認を取ろうとする。
「帽子さ…………ん?………」
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