第6話 忘れな草の一本道
「さぁアリス、そろそろ着きますよ。」
銀の森を進むとさっきまでの寂しい雰囲気は消え、入った時と同じ新緑の森に戻っていた。すっかり日は沈み、雪の代わりに銀に輝く無数の星々が美しく夜空を照らしていた。その森を奥へ、また奥へと進むと奇妙な光景があった。
「お茶飲むかい!?」
楽しそうな少年の声で誰かが言う。
「いらない?そーかぁー......じゃあケーキは!?」
「××××は寝ていますでしょう。聞いても返事は帰ってきませんよ。」
落ち着いた声で誰かが言う。
「聞こえるかもしれないじゃないか!そうだ、お砂糖入る!?」
深閑とした森に誰かの声が響く。姿は見えないが何処かにいるようだ。アリスは辺りを見回す。すると瞬きをしたその瞬間、無造作に生えていた木々が横に裂け一本の道を作り、道の両脇を色とりどりの花が咲き乱れる。
「キレイ……」
アリスがそういうと帽子は歩みを止める。そこでアリスは車椅子から身を乗り出し花をよく見る。けれどよく見るとそれは花ではなかった。いや、花なのかもしれないが先程まで美しかった花は急に美しさを失い、アリスが触った途端目が開き、口が開いた。人間のような顔で不気味だった。
「ああはっっはっはははははは!!」
突然その顔は目と口から血のようなものを噴き出し笑い出す。あまりの不気味さと驚きにアリスはそれを急いで放り出す。
「帽……子…さん…?」
「んん?どうしましたアリス??」
彼は今何もなかったように普通の声色で話す。それがアリスには逆に怖かった。このおかしな世界に暮らす人間にとっては普通なのだろうか。アリス自身が変なのかという錯覚に陥りそうになる。いつのまにか帽子は歩みを進めていた。
「見た……?」
「見た?………とは?」
「さっきの花…」
「あぁ!あれですか!!あれはですね、忘れな草といって、この森で起きたことを憶えているんですよ。さっきのは悲しい記憶?……ですかねぇ〜」
「そう……」
「アリスは本当に忘れちゃったんですねぇ〜」
呆然となった。アリスが知っている忘れな草はあんな花ではなく可憐な青い花をつけていたはずだった。ここでは何もかもがアリスの知らないもの出来ているようだった。それはアリスにとって怖くもあるが好奇心の対象でもある。それはこの新緑の森が好奇心を引き出す故かアリスの性格故なのかはアリスにさえ分からなかった。突然、恐怖や孤独を感じ、次には好奇心で心が満たされ目にとまる全てのものが気になる。それはこの森のせいなのか。アリスは自分の心がよく分からなくなっていた。心の急激な変動に頭は上手くついていけてないようだ。
そんなことを考えていると忘れな草の一本道は途絶え突如ひらけた場所に出る。そこには先程の声の主と思われるものの光景があった。
「えっ………」
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