第2話 追いかけっこ
「んっ……はぁ〜」
どれほどアリスは寝てしまっていたのだろうか?まだ食べ始めたばかりのはずのお菓子がすべて食べられてしまっている。鳥に食べられたのだろうか?
アリスの着ているドレスはオーダーメイドではあるが派手過ぎなく、アリスの美しさを引き立てるアリスの為のアリスだけのドレスだった。今着ているそれは足のくるぶしあたりまでの淡いピンク色のドレスで所々に白いレースが美しくあしらわれている。胸元には大きく垂れ下がるリボンが着いている。少女らしいドレスだった。アリスには姉が3人いるが、姉たちはどれも普段から豪華なドレスを着て、頭には羽飾りをつけてみたり派手な衣装を着て夜会に多く参加していた。まぁ、姉たちは皆、サミュエルの2人目の妻 ミシェルの連れ子でアリスのような美しさを残念ながら持ち合わせていなかったために必死だったのだろう。しかし、この姉たちはお伽話の義姉と違いアリスに優しく接してくれた。もっとも、アリスに足があれば話は違っただろうが......そんな姉たちも今はもう嫁いでしまい、ミシェルは娘達を残して何処かへ消えてしまった。アリスもいづれは嫁ぐことになるだろうが、今のところサミュエルが全てお見合い話を即、断っている。そのためこの屋敷にはアリスとサミュエル、それに仲の良い数人の使用人がいるだけとなった。アリスはポケットに手を入れ懐中時計を取り出す。もう3時を少し過ぎている。2時間も寝てしまったことに驚く。あと1時間くらいしたら帰ろう。そう考える。そんな時……ふと、赤いうさぎが目の前を走ってというよりは飛んで横切る。
(何かしら……??)
好奇心旺盛なアリスはその兎がとっても気になって急いで車椅子に乗ろうとする。
すると………
ドサッ…………
「痛っ!………」
車椅子の高さに合わせて作られた椅子から落ちる。足のないアリスはなす術なく落ちてしまう。芝生の草が潰れる。そのおかげで幾らかは痛みが減ったことだろう。普通の人には分かりづらい痛みだろう。なんといっても普通は何かから降りるときには必ず足が先に出るのだから。どんなに高くても必ず足が出る。アリスは突然の痛みに兎のことなど一瞬忘れてしまう。しかし、その瞬間うさぎと目が合う。初めて見る兎の眼は赤でなく白かった……近づいて来る。
ードンドンドンー
うさぎは足を伸び縮みさせながら跳んでこちらに近づいてくる。普通のうさぎは前のめりだがどちらかというと人間に近い。少し猫背の人というような姿勢だ。そして近づいて来るとわかったが、アリスより大きいようだ。
怖いと感じる。しかも腕がない。アリスのように綺麗に丸くなっているわけでない。その手は血こそ出てないがまるで千切れたようにうさぎの皮がビリビリに裂けている。1歩、また1歩…確実にこっちに向かってきている。
来た。
うさぎは大きい。兎が歩いた後の花々は全て潰されて何故か少し赤みを帯びている。
「…………ミツケタ……………」
「……!!!」
声が出ない。この時間いつもアリスを覗きながら仕事を片付けるサミュエルの姿もない。
ーズリズリズリー
うさぎにアリスの長い金髪の美しい髪を掴まれ引きずられる。
「痛い!痛いわ!離して!!!」
やっと声が出た。うさぎの大きな手を掴むが力強い。全く動じない。どうすればいいか?そんなことを考えていると突然アリスの身体が宙を舞う。
「あっ………!」
うさぎを見つめる。
「……イッテラッシャイ……」
まただ、突然眠気のようなものに襲われる。
(こんな時なのに……)
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