〈3〉占われた一日・午後 1
午後1時20分。
半ば自棄になってそばを掻き込んだササカワがオフィスに戻ると、企画会議の時間が迫っていた。
昨晩、資料のプリントアウトまで済ませておけてよかったと思いつつ、大量の紙をばさばさと束ね、足早に会議室へと向かう。
今日はこれから四つの打ち合わせが続く。しかも、扱う議題は一件一件がヘビーだ。
重役の決断が下ってささっとコールド・ゲームか、ぐだぐだと延長戦か。どちらにせよ極端だろうな、とササカワは予想した。
もちろん、叶うことなら早く終わる方に流れて欲しい。時間が空けば、残りのメールも片付くし、明日の会議の下調べもできる。さらに運が良ければ、延び延びになっている面倒な取引先への電話も、済ませられるかもしれない。
会議さえ早く終われば、終わってくれれば!
ラッキーな展開を期待しつつ、そんな時に限って厄介事が持ち上がるものだということを、ササカワは薄々感じていた。
会議室の見かけばかり重厚な扉を、勢いよく開ける。
……ラッキー、か。
希望的観測がふり払いきれなかった頭を、オフホワイトの紙と角張った癖字が横切っていった。
数十分の後、会議は予想通りの残念な展開になった。
視界の端では、ササカワが発見したプロジェクトに関する問題点について、おエラいさんたちがエキサイトしている。
さっさと担当分の報告を終えたササカワは、ノートパソコンを抱えて末席に下がり、こっそりとため息をついた。
ああ、早く自分のデスクに戻りたい。
メールの残り、明日のチームミーティング用企画書、それに期限が迫っている営業リストにも手をつけたい。
ササカワは、空調の風で不規則に揺れるライトグレーのカーテンを眺めた。
ひらひら。
ひらひら。
何だか、妙に腹が立ってくる。
ひらひら……。
闇の中から振られる、手。
何が幸せだ、何がラッキーアイテムだ、ラッキーなことなど昼食にありつけた事ぐらいで、むしろ今日は厄介ごとばかりだぞ。差し引きマイナスだ。
こうなったら、あのイイカゲン占い師に文句のひとつも言ってやらなければ気がすまない。
ササカワは、開いたままのノートパソコンの検索窓に『シシトウのてんぷら』と打ち、エンターキーを押した。
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