〈2〉占われた一日・午前 2

 意識が飛んだようにパソコンに齧りついていたササカワが時計を見ると、正午をだいぶ過ぎていた。

 同じ部署の連中はさっさと外に出たらしく、普段30人ほどが働くフロアは閑散としている。


 今日も昼飯抜きか。ま、死ぬ訳じゃあるまいし。


 誰にともなく言い訳をしながら、ササカワは意味もなく回転椅子でぐるりと一回りし、伸びかけの髪をかき上げて、再びパソコンの画面に向かった。

 その時、背の高い書棚の向こうから、声がした。


「ササカワくん、君、昼飯まだかね」


 部長だ。


「はい、まだです。いやぁ、うっかり出そびれまして」


「そうか。新しいそば屋ができたらしいんだが、そこでいいな? おおいツカダくん、場所わかるか」


 同僚のツカダも出そびれたらしく、どうやら三人で外食という流れのようだ。

 ササカワは、打ち終わったメールを急いで送信すると、財布をポケットに突っ込んでフロアを出た。


 軽く逆転打か。奇跡的に昼飯にありつける。




 外に出ると、夏の息詰まるような日差しが顔に張りついた。

 道の白線に目が眩んだ脳裏に、ちらちらと映る、物。


 シシトウの、てんぷら!


 交差点の天丼屋は遠ざかっていく。だが、構うものか! ラッキーアイテムだかなんだか知らないが、あんな適当な一言に惑わされるのも癪だ。


 オフィスから数分歩くと、見慣れないそば屋が出来ていた。とは言え、そこに前は何の店があったかササカワは覚えていない。

 部長の幅の広い背中の二歩後ろから、ササカワはそば屋の暖簾をくぐった。


「おうい、日替わりそばセットひとつ。お前たちどうする」


 即決の部長を追うように、ツカダが何か答えている。

 ササカワは、とっさに目にしたメニューを口走った。


「僕、てんぷらそばで」


 やってしまった!


 いつもなら絶対に頼まない。シンプルにざるか、日替わりにするだろう。

 てんぷらそばならシシトウもついてくるのではないか……と、一瞬でも思ってしまった。それが我ながら恨めしい。

 何だかんだで、あのインチキ占いに振り回されているような気がする。


 部長とツカダに悟られぬよう、心の中で舌を連打していると、そばが運ばれてきた。

 立派なエビ天が二匹乗った、そば。


 ササカワは天を仰いだ。

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