〈1〉寝ても覚めても 1

「寝ても覚めてもって、言ったよねぇ。ホントにホントに、そんなに仕事のこと考えてるの? 実はちょっと盛ってました、とかさ……正直に言うなら、今のうちだよ?」


 いやにさばさばと、男は言い放った。

 机の上で重ねた両手に顎を乗せ、上目でササカワを見る。


 何が今のうち、だ。聞きたいのはこっちだ。

 ホントにホントに、あんたは占い師か。

 占い師ってのは、客の悩み自体を疑うものなのか。


「まぁとりあえず、昨日の話を聞かせてよ。朝から晩までのこと、かいつまんで頼むね」


「はぁ……ええと、まず朝は5時半に起きてテレビのニュースをつけて、新聞を流し読みしながらパンを食べ……」


 男は言うだけ言っておいて、カクッと顔を伏せた。


 真上からネオンに照らされて、他人の頭頂と猫背を見下ろしながら話す、というのはどうにも落ち着かない。そもそもこの男、こんな姿勢で人の話をちゃんと聞いているのだろうか?

 ササカワは、ピンと伸ばしていた背筋からさりげなく力を抜いた。自分だけ人前だと気を張っているのが、アホらしくなったのだ。


 ササカワは視線を占い師の頭上にさまよわせ、話を続けた。


「あ、新聞なんか『次の企画の裏付けになるか』とか、『今日の営業の話題作りに使えるかも』とか、そういう読み方なんですが。で、テレビが占いコーナーになったら消して、着替えて家を出て……」


「占いは見ないのかぁ」


「見ませんよ! 仕事の役に立ちませんから」


 こういう時だけぱっと顔を上げて悲しげに口を挟む男に、ササカワは忍耐心を試されているような気がしてきた。


「家を出たら、手帳で一日のスケジュールを確認しながら駅に向かい、電車に乗った頃にはto-doリストに今日の仕事の案件を書き込んでますね。会社に着いてパソコンを立ち上げたら、まず未読メールが40とか50件……」


「へぇ! 僕なんか1ヶ月あってもそんなに来ないなぁ!」


 ……もう、この胡散臭い男が聞いていようが聞いていまいが気にするものか。


「連休明けとか、ひどいときは三桁ですよ。これをひとつずつ返して、昼休みまで潰れたんです。午後は打ち合わせや会議が17時までガッチリ。最後の取引先が帰ったら、ようやくto-doリストを見て……」


「ちょい待ち」


 男はまたも口を挟んだ。

 顎の下敷きにしていた左手を抜き、何かリズムをとるように指で机をトントンと叩く。


「聞いてるだけで疲れてきた。で、残業して片付けたら一日終わり?」


「いえ……っていう夢を見て、という話で」

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