第4話


 今日は久々に会う高校の同級生と居酒屋に来ていた。同じ野球部でしごかれていた同志。たまに会って酒を飲むのが俺にとって数少ない楽しみの一つだ。

 しばらくビールを呑みながら話をしていた。結婚する同級生を二人でぐちぐち貶していたはずが、何故か矛先は俺の近況のことに変わっていく。

「お前も変わった生活してるよな」

「仕方ねえだろ」

「三十にもなって彼女もいない。彼女いないのに七歳の子持ち。なんだそれって話だよな」

「好きでこうなったわけじゃねえって。それに子供じゃない、妹。兄妹だぞ」

「二十三歳も年の差あったら親子だっつの。なに飲む?」

「んなこと言われても実際兄妹なんだから仕方ねえだろ。店員さん、生ください」

「ビールふたつで」

「俺だってよくわかんねえよ。大学出て、大阪の方でブラブラしてて、気づいたら妹が出来てたんだぞ。そんなの想像できるか?」

「無理だねぇ。そもそも、ハタチも過ぎてから妹が出来る人間なんていねえだろ。なに、お父さんがんばっちゃったの?」

「や、養子な」

「そんな言葉マンガでしか見たことねえけど」

「なんかあれじゃねえか。自分の子供で失敗したから、もっと立派な子供を育ててみたくなったんじゃねえかな」

「自分で自分を失敗とか言うなよ。すげえお袋さんだよな。うちの母ちゃんはもう二度と子育てなんてしたくないって絶対言うわ」

「まあな、俺が言うのもなんだけど、愛がありあまってるような人だったから」

「確かに、優しかったな」

「と、ビール様が来たぞ」

「ん、カンパイっと。そういや話変わるけど」

「なに?」

「その子供ちゃん、今日はどうしてんの」

「妹な。留守番してるよ」

「え、ご飯は?」

「さっき食べさせてきた。一応、手作りでがんばってんだぞ」

「そりゃ偉いけど。妹ちゃん七歳だよな、ひとりぼっちで留守番させてんのかよ、こんな時間に」

「居酒屋に連れてくるわけにはいかんだろ」

「いやいやいや、酒ぐらいどこでも飲めるから。まじでひとりぼっちなわけ? 親父さんとか誰か一緒にいるんじゃねえの?」

「親父は仕事でしか顔合わせねえよ」

「お前んとこの家庭事情、複雑すぎるだろ。ってことはマジで一人にしてんのかよ、おい。なにかあったらどうするんだ、お前心配じゃねえのかよ」

「心配つっても、ずっと一緒にいるわけでもないし。これぐらいは慣れてもらわないと俺が困る。俺にも俺の時間ぐらい欲しいんだっての」

「そーいうんじゃねえよ。いいから帰れ、とっとと帰れ」

「なんだよ急に。ビール飲ませろよ」

「早く帰って抱きしめてやんな」

「お前酔ってんだろ」

「勘定はツケにしといてやる」

「そこは奢ってくれよ」


 本当に店から追い出されて、仕方ないのでしぶしぶ家へ帰った。

 観子は居間でいつも通りカルタをいじっていた。つけっぱなしになったテレビを見ているのか見ていないのかもわからない。その視線はずっと手元を離れずに帰った俺の顔を見ようともしない。

「ただいま」

「……」

 観子は無言でこちらを見た。そこはおかえりとかそういう言葉が必要なんじゃないだろうか。そう思う、思うけれど口にしていいかがわからない。観子との距離感がわからない。

「風呂はもう入ったか?」

 そんなどうでもいい事を聞いて、その場を濁した。



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