第7話
その後、約束通りに買い物に行く時間になって呼びに行くと、観子は何事もなかったような顔で部屋から出てきた。スーパーへの道すがら何を食べたいかと聞いてもいつものように返事はない。おやつコーナーでいつものように悩んでいた。
帰り道に少しだけ寄り道をした。商店街の隅にある神社だ。何かを考えたわけではなく、単なる思い付きだったけれど、観子と一緒に参拝をしたくなったのだ。
石造りの鳥居をくぐる。手を洗う場所はあるが水は出ていない。そのまま石の敷かれた参道を歩く。観子はきょろきょろとあたりを見ている。
「来たことなかった?」
聞くと、観子はぶんぶん、と首を振った。
とすると、お袋と来たことがあるのだろう。昔の俺を俺と同じように。
「用事なんてないのに神社に来るのが好きってのはお袋に似たのかもしれないな。観子も神社、好きか?」
観子は考えた事もなかったらしく、一度瞬きをして小首をかしげた。それからこくん、と頷いた。
拝殿への階段を上る。適当な小銭を観子に渡して、二人で賽銭を放り投げた。横に並んで鈴を鳴らし、手を合わせた。横目で見ると観子は真剣に願い事をしているようだった。改めて前を向き、俺もしっかりと眼を閉じた。
財布から百円玉を二枚取り出し、顔を上げた観子に一枚を渡した。
「さあ、運試しだ」
賽銭箱の隣には百円のおみくじの箱が無造作に置いてある。百円玉を一枚、おみくじの横の賽銭箱に入れて、俺はおみくじを引いた。観子がおみくじを引くのを待ってから拝殿を離れる。そして二人で境内に向けて一礼をして境内を出た。
神社のすぐ向かいの和菓子屋の真っ赤ベンチに座る。観子も同じように座った。メニューを指さすと、観子も黙ってうなずいた。俺はあん団子を二つ注文した。
全部、お袋がしてくれたことだった。
観子も知っているのだろう。何も言わなくてもよかった。
同じ思い出を持った俺たちはきっと家族なのだろう。
夕飯は観子にあわせて甘めのカレーにした。お袋がいつもしていたように適当なルー二つを買ってきて適当に混ぜて作る。もしかするとお袋はちゃんと計算した上で作っていたのかもしれないけれど、それはもうわからない。
適当に作ってもカレーは美味い。観子も嬉しそうに食べてくれた。
こうやって思い出の断片を受け継いで、つなぎ合わせて、俺たちという家族を作り上げていく。まだまだ不完全だけれど、なんとかなるような気がしてきた。
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