第二章 大胆は無知と卑劣の子であって、他の資格よりもはるかに劣る⑦

 ホールデン、メグ、ティアはりようもどるために、〝風の住処すみか〟に向かっていた。その道すがら聞き覚えのある声が聞こえて来る。


「ずーるっ♫ずーるっ♫ずーるっ♫」


「こ、この声は……」


 その声がする方に視線を向けるホールデン。


「女の子はべらせて、これから何をキモチイイ事しようとしてるのかしら? オネーさんも混ぜてほしいわね~」


「ホールデンちゃんモテモテデスね。女の子の方面では心配いらなさそうですネ」


 そこにいたのはヴィシャスまいであった。

 気づくと同時にホールデンの首にメアリーの大かまがかけられる。


「ち、違うって! 仕事のいつかんでライブに来てて、決してサボってなんか……」


言い訳早漏なんてみっともな・い・わ・よ♥」


 エミリーはそうついの鎌をホールデンの体にわせると、かんで止める。


「ホールデンからはなれなさい!」


 メグはけんを構え、2人に警告する。ティアも履歴書ウォークオブライフけんげんし、せんとう態勢に入る。


「邪魔するなら、いくら王様娘社長の娘でもようしやしないデスよ」


 大鎌は変わらずホールデンの首にかけたまま、視線だけメグとティアに移す。


「……ホールデンを傷つけるのはようにんしない」


「アナタ達一体何者なの?」


 メグが油断なく問いただす。


「クートヴァス・インク さいけん回収課所属エミリー・ヴィシャスよ処女ちゃんお嬢ちやん達」


「はいデス 債権回収課所属のメアリー・ヴィシャスちゃんですヨ」


『債権回収課』という単語を聞いて、メグとティアはけいかいを解く。


「あっ、こいつが悪いんで好きにしちゃってください」


「……ホールデン、私とけつこんすればすぐにそんな金額返せるのに」


 メグはごく冷たい対応でティアは相変わらずの反応だった。


「お、お前ら……俺の命がどうなってもいいのかよ!」


 ホールデンは情けない顔になり、2人にさけぶ。


「借金を返さなかったのはごう自得でしょ? 男なら自分の事は自分でなんとかしなさい」


「……ホールデン、ここにサインするだけで、このじようきようから抜け出せるよ」


 メグはあきれた表情になり、ティアはこんいんとどけをホールデンの眼前に差し出す。


「いやいや、こんな状況で、何で結婚を決められると思ってたんだよティアは!」


 ティアは残念そうに用紙を引っ込めて後ろに下がる。


「私たちの邪魔はしないと受け取っていいのねぇ~?」


 エミリーはメグとティアに敵対の意思がない事を確認すると、警戒を解く。


「ホールデンちゃん、どうしたデスか? 顔色良くないですヨ」


 メアリーはじやな顔で心配してくるが、手の大鎌はホールデンのけいどうみやくでている。


(お前の大鎌のせいだよ!)


「それじゃホールデン君、今日の分タマつてるモノはもう用意できているかな?」


 エミリーはホールデンに近づき、手をホールデンの股間にやると、耳元に熱いいききかける。


「うえっ! な、何を!!」


「「なっ!」」


 その行動を見たメグとティアはいきり立つ。


「ちょ、ちょっと! アンタ何してるのよ!」


「……ホールデンのソコにさわっていいのは私だけ」


 そんなメグとティアの様子を楽しそうに見るエミリー。


「あら、お嬢ちゃん達。女の嫉妬発情はみっともないわよ」


 エミリーはおのれの豊満な胸をホールデンのうでに押し当てる。ホールデンはその暴力的なまでのだんりよくに意識をり取られ、《》が発動してしまう。


「フゥ……僕のためにれんねこちゃんたちが争うのは見るにえない。心配しないで! 僕はみんなのモノだからさ!」


(あああ! なんでこんな状況なのに反応しちまうんだよ俺は!)


 メグとティアはジゴロ・ホールデンに冷ややかな視線をやる。


「ホールデンちゃん、メアリー心配デスよ? 主に頭の方が……」


 メアリーはホールデンを見る。


「それが報告にあった《》……顔つきがセクシーになってお姉さんの好みになったわね」


 ジゴロ・ホールデンはエミリーのほおに手をえる。


「君みたいなセクシーな女性に言い寄られて僕は世界一の果報者さ」


「あら~私を口説きたいのかしらねぇ私とシタいのかしらねえ~


 エミリーは目をあやしく細めると、再度リトルホールデンへと手をばす。


「あはは。子猫ちゃん? こんなところで、おっぱじめちゃうなんてずいぶん積極的だ……」


 ジゴロ・ホールデンの言葉はそこでれてしまう。なぜならエミリーがリトルホールデンをしたたかに鎌のの部分でおうしたからだ。


「ほんぎゃああああああああああああああああ!!」


 情けない叫び声をあげ、通常のホールデンに戻る。


「あらあらあら。男の子のクセにイチモツが付いているのにそんなみっともない声あげちゃダメよ」


 エミリーは変わらない調子で、ホールデンの耳元でささやく。


「ホールデンちゃん、大丈夫デスか? もう、おねーちゃん男性のソコはたたいちゃメッ! デスよ」


 メアリーはそう言いながらも、大鎌をホールデンの首けてりかぶっている。そんなやり取りを見ていたメグとティアは長距離移動技術ポータルの方に歩き去って行ってしまう。


「あの! メグさんティアさん、どちらへ??」


 2人はホールデンの言葉に振り向かず、返答する。


「そのままずっとそのスケベな女とイチャイチャしてれば?」


「……ホールデンのバカ」


 そう言うと、2人はスタスタとその場から去る。


「ホールデンちゃん、これでゆっくり話ができますネ」


 メアリーは大鎌をホールデンの首にかける。行動はどう見ても話し合いではない。


「それで? ホールデンくん今日の分タマつてるモノはもうあるのよねぇ?」


 エミリーもようえんみをかべつつ、双対の鎌をちらつかせる。

 ホールデンは全力で土下座をかました。


「スンマセン! 今日の24時までには必ずおわたしできると思いますんでもう少々お待ち下さい!!」


 エミリーとメアリーは鎌を引っ込める。


「ホールデンちゃん? やさしい私でもおくれたら……」


 メアリーはその小さな体のどこにそんな力があるのかわからないが、大鎌を目に見えない速度で振り回す。せつの後、周りにあった太い木々が派手にたおれ、すさまじい音がひびく。


おこっちゃいますヨ!」


 メアリーは謝罪を木に向かって口にするが、そのすぐ後上げんで鎌をこすりながら去る。


「ずーるっ♫ずーるっ♫ずーるっ♫」


「ふふふ。それじゃ、また後でね」


 エミリーは去りぎわにホールデンのにキスをしていく。しかし、周りのさんじようがひどすぎて、数時間後に金を用意できなければリトルホールデンが同じ道を辿たどると思うとなんにも感じなかった。

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オール・ジョブ・ザ・ワールド/百瀬祐一郎 イラスト:ヤスダスズヒト ファンタジア文庫 @fantasia

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