第二章 大胆は無知と卑劣の子であって、他の資格よりもはるかに劣る⑥

ステージが終わり、いん冷めやらぬまま3人はベイビーメイカーの楽屋に挨拶に来ていた。

 楽屋の中は関係者数十人がベイビーメイカーのメンバーと談笑していた。

 3人はじやにならないように、楽屋のはしに立つ。

 すると、3人に気がついたノーマンが近づいてきた。


「本日はありがとうございました」


「ものすごい熱量で終始見入ってしまいましたよ」


 メグはノーマンに素直な感想を言う。

 ホールデンとティアもそれには同意だったので、後ろでうなずく。


「そう言っていただけて光栄です。ぜひメンバーにも伝えてください」


 ノーマンはそう言うと、順番に空いているメンバーを3人に紹介していく。

 どの女の子も美少女なのだがぼつせいで、ホールデンにはほとんど同じように見えてしまい、覚えられなかった。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん達よろしくです! 私、レイラ・コリンズっていいます!」


 と、聞き覚えがある名前の子が挨拶してきた。


「どうも。ラロケット・インクのホールデン・ドハーティす」


「ホールデンお兄ちゃんだね☆ うん、覚えたっ!」


 ニパっと愛くるしいみをかべるレイラ。そこでホールデンは思い出した。


「あっ、ブライアンさんが好きって言ってた子か」


 ホールデンが思わずつぶやくと、レイラは近づき、ホールデンの手をにぎる。


「嬉しいな! お兄ちゃんの友達、私のこと好きなんだ!」


 レイラに手を握られ、ホールデンはドギマギした。

 その様子を見たメグとティアの表情は冷ややかである。


「え……お、お兄ちゃん……?」


 ホールデンはこんわくした。


(確かこの子26歳で俺より年上だよな……なんでそれでお兄ちゃんなの! いや、まぁ確かにすげー可愛いけどさ……しかもすげーいい匂いが……)


 レイラはチェルシー以外のメンバーとちがい、すさまじい個性があった。見た目はどう見てもローティーンだし、このしやべり方だしで、他のメンバーとは一線を画していた。その筋のしゆの男ならどストライクでハマるのも頷ける。しかし、ホールデンにその手の趣味はなかったので、可愛いとは思うも、ドキドキはしなかった。なので、《》は発動しない。


「私はみんなの妹だから、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ!」


 目の前でクネクネと愛らしく動くレイラ。

 3人はレイラの言葉に苦笑する。


「レイラ! 紹介したい人がいるからこっちに来い!」


 と、奥の方から社長であるジェフがレイラを呼ぶ声が聞こえる。

 その声を聞いたレイラはホールデン達に可愛く一礼すると、そちらの方に甘い声を出しながら向かっていく。どこぞのお偉いさん方にまたキャピキャピしていた。レイラはチェルシーとはまた別ベクトルできわめているアイドルなんだと、ホールデンは感じる。


「チェルシーが空きましたので、ぜひご挨拶させてください」


 ノーマンが今度はチェルシーを連れてきた。


「わぁ! みなさんいらっしゃってくれたんですね!」


 先日見せたチェルシーの態度から想像できないアイドルスマイルで3人に挨拶してくる。

 周りには関係のある会社インクのお偉いさん方がいるので、チェルシーの態度は当然だった。

 チェルシーは手を後ろに組み、下から覗くようにホールデンを見る。


「ホールデンさん、今日の私は可愛かったですか?」


 ほんしようを知ってなお、今のチェルシーの可愛さは反則であった。

 ホールデンの顔は赤くなる。そして心音も増大したが、おのれに『この女は性悪』と頭の中で言い続け、なんとか《》の発動をおさえる。

 メグはそんな様子のホールデンを後ろに引っ張り、自分がチェルシーの前に立つ。


「チェルシーさん、今日のライブすごく良かったです。こういったライブは初めて観ましたが、これだけ大勢の人々を魅了する理由が少しわかった気がします」


「……バカにしてたけど、素直にすごいと思った」


 メグとティアは仕事の延長上なので、いつたんこの間のことは忘れに意見を言った。


「ふふふ。ありがとうございます」


 チェルシーも今日はけんを売るつもりはないらしい。


「これは、これは! メグさんにティアさん。ようこそ我が社のライブに」


 ジェフはホールデンなんかいないものとして2人に挨拶する。


「いや~! この間も思ったけど、2人共めちゃくちゃ可愛いし、スタイルもばつぐんだからぜひうちでアイドルとしてデビューしない?」


 ジェフはえんりよな視線をメグとティアに浴びせる。下からめ回すような視線は2人を不快にさせた。言葉づかいも非常にけいちようふはくだ。


「君たちなら売れること間違いなしだって! 今なら破格の条件でせききんはらうよ」


 ジェフはいやらしい笑みを浮かべ、2人を引きこうとする。

 らいをお願いしている会社インクの社員を引き抜こうなんて失礼にもほどがある。ティアは無表情だが、げんそうなオーラを放つ。メグはさすがというべきか、大人の対応をする。


「申し訳ございません。ありがたいお話ですが、私は入社したばかりですので、どこの会社インクにもまだせきするつもりはありません」


 意志の強いひとみで、ジェフに告げる。ティアもそれについずいする形で頷く。


「あー残念だなぁ! けど俺はまだあきらめない! またさそわせてもらうよー」


 ジェフはいつさいりた感じは見せず、そんなことを言うと別の客のところに行ってしまう。

 その後ろ姿をチェルシーはいまいましい視線でにらんでいた。


(なんかあのチャラい社長とあんのか……?)


「社長が失礼いたしました……」


 ホールデンがかんぐっていると、横からノーマンが謝罪の言葉を言う。


「芸能系会社インクの社長は軽いところが多いのですが、ウチの社長は特にひどくて……」


「いえ、あれくらい全然だいじようぶですよ」


 メグは気をつかうように言った。


「そう言っていただけると助かります。それでは本日の夜のさつえいよろしくお願いしますね」


 3人はしゆこうすると、その場を去る。

 去りぎわにホールデンはチェルシーを再度見たが、その顔はどこか浮かない表情であった。

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