幾千の箭が飛び、豪雨の如く砲弾が降り注ごうとも、彼らは退かない。

襄陽、と聞いて知らぬふりはできなかった。
金庸武侠迷であればきっと誰しも同じだろう。もっとも、本作の舞台は北侠の活躍よりももっと前であるが。

閑話休題。

上記の理由でまずは「【漢文超訳】襄陽守城録」を先に読み始めたが、コンテスト参加作と聞きこちらをまず追うことにした。

時は南宋、朝廷の間抜け官僚が金国へちょっかいをかけたばっかりに、金はブチギレて南征侵攻を開始する。国境の要所・襄陽を任されたのは趙家軍。援軍も望めぬ苦境の中で智謀と気力を駆使して徹底抗戦する。

敵を退け打ち倒すだけが戦争ではない。まずは内憂を取り除き、全軍の意思を一つにしなければならない。進撃の準備を進める敵に奇襲を仕掛けて排除しなければならない。そして時には、講和を持ち掛けて懐柔も図る。
序盤はこうした腹の探り合い、少人数での戦闘、そして各人の思いや葛藤が描かれる。

そしてちょうど読了した第六章。状況は風雲急を告げて激変し、激しい攻城戦もとい守城戦が繰り広げられた。
これがまた読んでいるだけなのに壮大なBGMと耳を弄する破砕音が耳朶を打ち、爆ぜる火薬の閃光を見、その焦げ付く匂いまで感じるかのようなのだ。

一方で、戦争の影では争いを憂える者たちの葛藤がある。何とか争いを回避したい。敵を敵をしていがみ合うのではなく、手を取り友になれぬものかと心悩ませる若人たち。
だがそれも冷徹な将によって利用され、次第に憎しみの連鎖に歪められてゆく。

襄陽は落とされるのか、守られるのか。
誰が生き、誰が逝くのか。彼らに救いはあるのか。その行きつく先はどこか。
これからの展開も目が離せない。

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