1.時は満ちた


 さぁ。力は存分に蓄えた。

 あの日、あの夜の出来事は一生忘れない。

 いや、忘れることなんて出来ない。


 俺はこれから奴らに復讐を開始する。

 故郷を奪い、仲間を殺し、幼馴染を殺し、初恋の想い人を目の前で犯した糞野郎共に。


 それを、その全てを──。いや、それ以上に酷いやり方で苦しめ、侮辱し、殺してやる。奴らにやられた者の気持ちを身をもって味わわせてやる。


 俺にはそれが出来る。それだけの力を得た。


 ルシフェルに助け出されてからもう4年か。



 あの日──祭りの翌日は俺の人生で最低最悪な一日だった。朝、老衰で冷たくなっていたじっちゃんを見つけ、感傷に浸る間もなく鳴り響いた爆音と悲鳴。やって来た王国軍はアリス家だけでなく、全ての村の女性を片っ端から犯し、殺戮を始めやがった。


 ──異端者狩りを名目とした殺戮。その理不尽極まりない所業の真の目的をルシフェルに教えて貰った時は、あまりにバカバカしくて俺は大声で笑った。


 そしてその時決めたんだ。

 あいつらの野望を打ち砕き、復讐を果たすためなら鬼だろうが悪魔だろうが、手を結んでやると。


『なぁ、ルシファー。俺はどこへ向かえばいい?』


『うーん。その質問をどう捉えるべきかな? 次に取るべき行動の事? それともキミの生き方についての事かい?』


 何度も繰り返してきたルシフェルとの念話。

 もはや顔を見ずとも声色を見れば・・・感情が読み取れる。そんな事せずとも彼女の声は弾んでいた。


『分かりきった事だろう前者に決まってる』


 魔族領から出られないルシフェルにとって俺は貴重な駒だ。ここで俺を失うことは彼女の人生を奪うことに等しい。と、同時に俺が復讐を果たすまで一蓮托生である事もまた明白だ。


 だからこそ敢えて聞いてきたんだ。


 ──覚悟はあるのかと。


『そうかい。じゃあ西の都へ向かうべきだね。2日後、そこでキミは王国の信頼を得るチャンスを迎えるはずだ。2日後までに西の都だよ? 分かった? リピートアフターミー?』


俺に、俺自身に行動を取捨選択させることで手駒にしている意識を薄れさせるためだ。

 そしていつも何気なく復唱させる。気付かぬ時からさせられていたので習慣づけられたが──これもマインドコントロールの手法の一つ。まぁ、看破してるから効果はないのだが。


『……分かった。2日後、西の都だな』


『ちぇ。ノリが悪いなぁ』


 彼女は具体的な事は話さない。

 理由はそこで何が起こるかは未確定な訳で、プランが詳細過ぎるとイレギュラーに対応しづらくなるからと。しかし、それは建前だ。


『なぁ、その前に真偽をこの目で確かめたい。そのくらいの時間はあるだろ?』


『えっ、言う通りにしないの?』


 これからの動きについてはどうするかルシファーに聞く前から決まっていた。

 魔族領を出たらまず先にアリスの安否を。そして奴らの素性をこの目で確認することを。

 それが俺の中では当たり前すぎて、その次の行動が知りたいとわざわざ言うのを失念しただけなのだが。


『なーにぃ? あたいの事信じてないの?』

 声に乗せた不安と苛立ちが伝わる。


『いや。そういう訳じゃない。ただ、はやりこの目で見ておきたいんだ』

俺のこの4年間の苦痛と努力が無駄でなかったことを。そして復讐の炎をより確実な強いものにしたい。


『……ふぅん。でもさ、それってやっぱりあたいの事信じてないのと同義じゃん? てかさ、あたいが見せたものがぜーんぶ嘘だったらどーすんの? あたいを見捨てる? それともトドメさしにきちゃう?』


 きゃー。怖い怖いと続け、おちゃらけてはいるが彼女は不安なんだ。また一人ぼっちになることを。だからこそ俺を縛っておきたい。その為のマインドコントロール。まぁ、見え見えだしバレてちゃ意味がない。俺にとっちゃ可愛げがあるってもんなんだが。


『お前は嘘ついてないよ。俺には分かる』

 いや、マジで。


『な、何それ。何度か身体を合わせただけなのに彼氏みたいな事言っちゃってさ。ほ、本命がいる癖に……』


 彼氏か。会話の中にそれとなく盛り込むとか。


 気を引きたくて必死だな。おい。

 まぁ、俺も満更でもないだが。


 何しろルシファーの身体は今まで重ねたどの身体よりも、てか最高に心地よかった。


 獣人のように激しくもあり、エルフのようにしなやかでもあったし、吸血姫のように俺を喜ばせるテクニックもあった。尻尾をさすった時なんか怒りながらも目に涙を浮かべて絶頂を迎えてたもんな。かと思えばメデューサのような初々しさも時折感じさせる。


 ルシファーの所にいた時はこれ以上やっても強くなる訳じゃないってお互いわかってた癖に何度も何度も致したからなぁ。


 それはさて置き、

『ルシフェル。お前さ、嘘つく時声に癖が出るって気づいてる?』


 普段は愛称のルシファーって呼んでいる所を敢えてルシフェルと正しく言ってやった。


『へっ? う、嘘? 言ってないよ。今回は……あ、でも。えっ? どんな癖さ! 今後の信頼関係にヒビが入るぞー』


 慌てたルシファーはわざわざ魔力を使って


『いーえ、言ーえ! いーえ!』


 と大音量でこだまさせる。しかも声質を変えて、タイミングをずらし、何人ものルシファーが近くにいるようだ。


 ちょっとウザイ。


『はは。やっぱり嘘ついてないじゃんか』

 久しぶりに笑った。


『うぐぅ。アルのいじわる……ウソツキ!』


『安心しろ。お前の願いは俺の目的でもあるんだ。それに……あの時助け出してくれたことを今でも感謝してる。だから全部嘘だったとしたら、その時は』


『その時は?』


『復讐はすっぱり諦めて、暇つぶしにお前の願いを叶えてやるよ。そんで寂しがり屋の月の精霊様・・・・・と一緒に暮らしてやるさ』


『ばか……それにあたいは月の精霊の名は捨てたって言ったでしょ! 今は魔王様だ! だーっはっはっは!』


『はいはい。魔王様。じゃ、ちょっくら王都へ行ってくる』


『ほーい。いってら』


 まるで近くの店に買い物をしに行くようなやり取りの後、遥か遠い3000キロ離れた王都へと飛び立った。


 やはり俺も機嫌がいいらしい。


 転移ではなく敢えて時間がかかる飛行を選んだのだから。


 ────夜空を一人の青年が光速で流れ去る。復讐を果たせる喜びの余韻に浸りながら。


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Re.Setter ~人格操作で蹂躙する~ スライム緑タロウ @masiro-yuuga

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