Re.Setter ~人格操作で蹂躙する~
スライム緑タロウ
プロローグ~奪われた幸せ~
プロローグ~奪われた幸せ~
「いやっ、やめ……」
僅かに残った力を振り絞り、必死に逃れようとしている
だが、相手は未亡人の子持ち。ましてや幼馴染の母親ときた。年の差から考えて、ひっそりと想いを寄せているだけで満足だった。
そんな彼女──リサさんは、身体を無理やり抑え込まれ、組伏せられて勢いよく倒れこんだ。
ゴンッと鈍い音が部屋に響き、後頭部を思い切り床に打ち付け、そのまま意識を失った。
「ははっ、気ぃ失ったか。こりゃ都合がいいぜ」
服の上からでも分かる抜群のプロポーション。すれ違う男は誰もが振り返っていた。
それを覆っていた服を乱暴にひん剥くと雪のように真っ白な肌と下着が露になる。
「……つっ!思ったよりでかいな。どれどれ」
醜い欲望に駆られた手は容赦なく下着も引き破る。
見てみたいと思い続けていたが、叶うはずもなく、妄想の世界でしか拝めなかったモノが目に入る。
綺麗な桜色の突起が付いた二つの巨丘が柔らかそうに揺れた。
こりゃ堪らんと、いよいよ我慢の限界を超え、一心不乱にむしゃぶりつき、執拗に全身を舐め始める──。
「……やめろ」
俺のすぐ近くにはリサさんの一人娘──幼馴染のアリスが倒れている。
微動だにせず、生きているのか死んでいるのか分からない。
「……たのむ、やめてくれ」
絞るように出した声は蚊の鳴くようにしか出せず、身体も指を動かすのがやっとだ。
俺の初恋の相手、リサさんが目の前で犯され始めた。
くそっ! くそっ! くそぉっ!!!
王国の軍服を被った醜い野獣。
見るからに屈強な男をぶっ殺したい衝動と、非力な自分を悔いる思い。さらに、どうしてこんな状況になったのか突然の出来事に情報が整理出来ず困惑し、感情がごちゃごちゃに絡み合う。
吐きそうだ。
何より目の前で繰り広げられている光景に目を背けられず、興奮している己の不甲斐なさに嫌悪する。
───何故こういう時に呼びかけに答えないんだ。
思い切り頭部を殴られ、頬は流れた血によってベッタリと床に張り付いている。
目を瞑りたいがそうすれば意識を失うだろうと、生存本能が瞑ることを許さない。
そして、死を感じた本能が種を残そうと股間を膨れ上げさせる。
───力が、力が出ない。今までずっと抑え続けていたせいなのか
男の動きに合わせてギシギシと床が鳴り、その音と振動に合わせてズキズキと頭痛に襲われる。
くそっ!
くそっ! くそっ!
くそぉっ!!!!!!
───こんな事ならアイツの言うことなんて信じなければ良かった
──前日──
首都から遠く離れた、国の最北部にある小さな村。
ここより先、北にも大地は続いているが、そこは集団での生命活動維持限界領域に当たるため
年中寒く、大鹿の放牧とチーズの生産が主な収入であり、ほぼ自給自足で暮らしている。
そこが僕の産まれた場所。
外は寒いけど、防寒着を着ればどうってことないし、その分家の中は暖かくなるよう造られている。
「おーい。もう上がっていいぞー!」
風上にいる誰かの大声が微かに聞こえた。見ればレオの親父さんが手を振って伝えてくれた。目だけは村の誰よりもいい。
いつもより2時間も早い。僕に気を使っての事だろう。
「ありがとー!」
聞こえるか分からないけど、ありったけの声を上げて手を振り、頭を下げた。
手早く荷物を纏めて走っていく様をレオが訝しげに見送っている。
「……ったく、レオのやつやっぱり聞いてなかったな」
ふんっ。と鼻を鳴らして僕は駆け出した。
普段なら鹿の放牧の仕事を終えて、一刻も早く帰路につく。
『余計な刺激は避けるべきです。何がトリガーになるか分からないのですから』
彼女曰く、僕にはポテンシャルがあるとの事。来るべき厄災に備えておくようにと言われている。
でも、今日は家とは反対方向の森へと足を運んだ。アリスが欲しがってたシルバーの指輪を渡す時の演出に
といっても、地中の
「これでレオのプレゼントと差が付くぞ」
なんで言いつけを曲げてまでこんなことしてるかって言うと、今日はアリスの2回目の生誕祭の日だ。7つの節目毎に3回。子供の健やかな成長を祈って行われる伝統行事だ。
移民する前は家族単位で執り行われていたみたいだけど、子供の数も減った今では村をあげてお祝いする。
今、村にいる21歳以下の子供は僕を含めて5人。今日14歳になるアリスと、16歳のレオ。あと3歳のナタリーに、先月産まれたばかりのミリア。それに13歳の僕。アルことアルトリア。他の地方では15で成人だって言うのに大人になるにはまだ8年も先だ。
徐々に速度を落とし、途中からとぼとぼと歩きながら、プレゼントを渡す時の様子を思い浮かべた。
「きゃー! ステキッ!」
「アル君はは乙女心をわかってるわね」
喜ぶアリスに、感心するアリスの母親であるリサさん。そしてプレゼントに差をつけられて呆然とするレオ。
ふふふ。どうだ! シナリオは完璧だ。
最近、レオはアリスの話ばっかりするようになってて、遊んでいてもぼーっとしてる事が多い。
プレゼントは共にシルバーアクセサリーと決めた後でどう渡すかの相談も向こうからしてきたのに、こっちがアイデアを出しても上の空でほとんど聞いていなかった。
いい気味だ。男の友情を軽んじた奴のいい薬になるだろう。
無性に腹が立ったから、レオが聴き逃した光茸のサプライズは僕だけでやってやる。
「……でも、レオのやつにはショックが強すぎるかな」
腹が立ったとは言え、共に母親が居ないもの同士、気が合う友達だ。
なんてことを色々思い浮かべていると気がつけば森の奥まで進んでいた。
森の中はしんと静まりかえっていて僕の足音しか聞こえない。
雪質も水分を含まないサラサラな為、ドサリと塊が落ちてくることもない。
「ふぅ。汗かいたな」
僕はおもむろに防寒着を脱ぎ捨てた。
この気候に合わせて独自に進化した木々の葉は光の透過性が高くなるように半透明。おまけに枝は効率よく雪を落とすためにしなっており、重なり合った枝が天然のドームを作り出している。
その為この辺まで来ると地面に雪はなく、湿気と降り注ぐ太陽光によって蒸し返している。
「おっと、この辺りだったよな」
腰を屈めて、星樹の根元の落ち葉を掻き分ける。
生えている葉と違い、微生物によって発酵を促された落ち葉は熱を帯び、湿っていて幾分重い。何度か休憩しながら目当ての茸を探した。
日が暮れればすぐに見つかるけど、この明るさではなかなか見つからない。
茸はとても小さいので5つは必要だ。
「ようやく4個か。もうこの位でいいかもな。箱を小さくすれば……」
水筒の水を飲み、額の汗を拭っては探しを繰り返していたが、いよいよ葉の重みと暑さに挫折し、妥協しかけた。
リュックからおやつ用のクコの実を取り出し、コリコリと食べる。
「いやいや、じっちゃんに叱られる」
じっちゃんは僕の祖父。別に幾つ集めるとは伝えてないけど、何事も手を抜くと激しく怒る。
「男は一度決めたら終いまでやりとおせ」
それが口癖だ。滅多なことでは怒らない。というか、あまり干渉してこないけど、手を抜くと烈火のごとく叱られる。
小さい時、レオと喧嘩して負けて泣いて帰ったら余計な詮索はせず、優しく手当してくれた。でも、
「じっちゃん、レオは歳上なんだよ。だからじっちゃんがやり返してよ」
なんて言ったら、レオにやられた傷の数倍痛いゲンコツを喰らった。
「てめぇが喧嘩するって決めて挑んだんだろ!? それを投げ出して誰かに仕返ししてもらおうなんざ……他力本願も甚だしい。許さんぞっ! 一度決めたことは終いまでやれっ!」
って言って、追い出されたこともあったな。
あの時は本当にビビった。烈火のごとくというのは例えじゃなくて、本当に釜戸から火が吹いたからだ。
今考えれば、じっちゃんの大声で油でも落ちたんだと思うけど、あれは今でもトラウマだな。
そんなじっちゃんは僕の育ての親でもある。物心ついた時には既に両親が他界してたから寂しいと思うことは無いけど、やっぱり他の子が少し羨ましい。
特にアリスのお母さんは美人だし、優しいし、料理も美味い。
じっちゃんのゴツゴツの手も好きだけど、リサさんの柔らかい手で撫でられると飛び切り嬉しくなる。
「……やっぱり、レオの分も採って帰ろ」
それでレオも喜ぶし、リサさんの笑顔も見れる。
そうやって、思いの外時間がかかったが、ようやく10個目を採ることが出来た。
気づけば夕暮れが近づいている。
「やべっ! 急がなきゃ」
ガザッ。
立ち上がろうとした時、森の奥で何かが動いた。
腰をかがめたまま動きを止め、呼吸も止めて慎重に辺りを見回す。
「何も無い……。 気のせいか」
すくっと立ち上がった時、ここから遠く離れたところを常人の目には留まらぬ速さで過ぎ去る生き物を僕は見た。
それは黄金に輝く大きな猫だった。
『貴方は選ばれし存在。力を磨いたり蓄えたりするのではなくひたすらに忍びなさい。目をつけられることの無いように。そうです。この太陽神の祝福を賜りし者よ』
───────────────────
アリスの生誕祭は無事執り行われ、皆が三々五々家に帰っていく。
サプライズ付きのプレゼントにはアリスも喜んだし、何よりレオに陰で感謝されまくった。
飲めや歌えの大騒ぎで、随分と酔ったレオの親父さんは、アリスに
「レオを貰ってくれぇ」
と喚いていたが、その後コテンと寝落ちし、何度揺すっても全く起きなかったため、レオが背負って連れて帰る始末だった。
楽しい時間があの猫の事を記憶の片隅へと追いやっていた。僕は何かの見間違いだと思う事にしてたんだ。
「アル、今日はありがとう」
「ん? あ、あぁ。どういたしまして」
親父さんを背負って帰るレオを玄関先で苦笑いしながら見送ってると、家の中からアリスが出てきた。
「あのサプライズ考えたのアルなんでしょ?」
「えっ? いや、レオと二人で考えたんだよ」
アイデアくらい自分で出したと言えばいいし、嘘をつく必要も無いのに咄嗟にそう答えてしまった。
「……やっぱり。アルは嘘つくとすぐに顔に出るよね」
なに!? そうなのか?
「は? 僕、なんか癖があるの?」
「ふふふ。やっぱり嘘だったんだー」
ケラケラと笑うアリスはご機嫌だ。
一本取られた。
「ちぇ。確かにアイデアは僕だけど、でもレオはここの所ずっーとアリスの為にって考えてたんだよ」
僕が話しかけても上の空だったり、しきりにアリスの事ばかり話すことを伝えた。
話せばアリスも喜ぶだろうし、レオだって感謝してくれるはずだ。
「ふーん」
あれ? なんか機嫌損ねたか? 何となくだけど雰囲気が変わった。なんて言うのか、膨らんだご機嫌の風船が少し萎んだ様な。
なにかいけないことでも口走ったかな?
「……あ、僕そろそろ帰らなきゃ。あまり遅くなるとじっちゃんに叱られる」
バツが悪いのでそう切り出した。
「あっ! そ、そうだった」
すると何かを思い出したようにパッといつものご機嫌アリスに戻り、告げる。
「途中まで見送るわ」
満面の笑みだ。こうなると首を縦に振る以外テコでも動かない。
「一人で大丈夫だけど……」
そこまで言っても笑顔を崩さない。つまり聞こえていないという主張だ。
するとリサさんか玄関の扉から出てきた。
「あ、リサさん」
「二人ともなかなか戻らないから……」
リサさんは僕らを見て事情を察した。
「はぁ。こうなってはダメね。アル君、アリスの我儘をきいてあげて」
困ったような笑みにドキッとする。最近はドキッとすることが特に多い。
「……でも」
リサさんの目を見てると、好意が見透かされる様な気がして、視線を少し下げる。僕はまだ子供だし、はぁ、早く大人になりたいな。
視線を落とすとそこはおっきな胸があるわけで。
「お願い。今日はアリスの誕生日だから大目に見てあげて」
リサさんが僕の両肩に手を置くと、二つの柔らかそうなリーサル・ウェポンが揺れるのが目に入る。
「う、うん。分かったよ」
ここはリサさんのおっぱ……、もとい顔に免じて従ってやろう。
「やった! さ、行こう」
パッと感情のある笑顔に戻ったアリスは、僕の手を取り引っ張っていこうとする。
二人で手を繋ぐなんて小さい子みたいでリサさんに見られたくないけど、今日はアリスの誕生日だ。素直に彼女に従おう。
別にアリスの事が嫌な訳では無い。アリスだって色白で可愛い。顔もリサさんに似てきたと思う。
でも、胸はぺちゃんこだ。
他の地方では来年で成人だぞ? そんなんでいいのかアリスの胸よ。
チラッとアリスの胸を見てから顔を見る。
いつかアリスもリサさんみたいにおっきくなるのかな。でも、アリスにはレオがいるし。
「な、なに?」
「ううん。何でもない。ほんと、途中までだよ」
あまり考えないようにしよう。まるでレオみたいで嫌だ。
はぁ。女の子に見送られるなんてカッコ悪いけど仕方ない。
「じゃあ、アルくん。宜しくね」
リサさんに見送られてアリスの家を出た。
アリスは満面の笑みで僕の手を繋いで離さない。
「分かったよ。途中までね。よろしくお願いします」
頼んでもないのに俺からお願いした形になった。
──────
アリスは華奢だけど、僕より
──地の精霊に愛されし者。
この世界の至る所に存在する
魔物と動物の違いも魔力があるかないか。
魔力保有者とは絶対的な力の差がある。
人もまた保有者と非保有者がいる。一生かかっても魔力を感じることが出来ない人と、魔力を感知できる者だ。さらに魔力を操ることが出来るの人間はごくごく稀少。
昔は、その絶対的な力の差は恐怖の対象だったらしい。
動物や魔物と違って人は理性や知性がある。
だから別に魔力持ちだとしても魔物みたいに獰猛になる訳じゃないのに、迫害を受けていた歴史がある。バカバカしい。
今でこそ価値が見いられ、強い魔力持ちは王国から直々に迎えが来るほどだ。
小さい時、野犬に襲われたのをアリスが追っ払ってくれて以来、しきりに
「私はアルより強いから」
って言うもんだから、こないだ僕は
「護りたいなんて言えるほどアリスが弱くないのは分かってる。けど僕だって大切な人を護りたいんだ」
って言ったら顔を真っ赤に染めてそれっきり言わなくなった。
なーんか勘違いさせたかもしれないけど、薮蛇だから黙っておく。
まぁ、何を言おうが僕がアリスより強くなる可能性は微塵もない。
「私ね、最近光の波長まで見えるようになったのよ。それとね……」
しばらく僕はアリスの話を延々と聞いてやった。アリスは他の人には魔力の話はしたがらないけど、何故か僕にだけは話してくる。
ふと空を見ると、遠くに王国軍の飛行船が飛んでいた。
こんな所まで来るのは珍しいなと思って話しかけようとしたが、アリスの話の腰をおるのも幅かれるので何も言わなかった。
父親のいないアリスと、母親のいないレオ、そして両親のいない僕の3人でこれからも仲良く過ごしていきたいという小さな夢。この小さな幸せが続けばいいななんて思っていた。
あの時見た王国軍の飛行船が村を目的地としていたとは露にもおもわずに。
──翌日、村は蜂の巣をつついたように騒がしく、忙しなく動いていた。
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