5-2

 伴侶を得るのであれば、父と母のような関係を築きたいとアリアは望んでいる。


 だが長兄ファンダルような気性の人物と、アリアは折り合いをつける自信が無い。


 オライン伯は初めて心惹かれた殿方だ。


 父の幕閣として、そして魔術の師として近い立場での交流し、垣間見た彼の見識と知性、その立ち振る舞いや性格はアリアにとって好ましかった。魔導の極みを目指す自分をこれからも導いてくれる存在。アリア自身が心ならずも「成長すれば彼と釣り合いが取れる」と思っていた。

 だがオライン伯が蛇女を捕らえて監禁し、生態を調べた件を口にした時からだろうか、時折アリアは彼の振る舞いの端々に何処か「恐ろしさ」を感じるようになった。

 そして気のせいかもしれないが、自分を見る伯の視線が、何かを推し量るようであり、また値踏みをしているように感じる時がある。


 アリアはその視線に辱めを受けるような居心地の悪さ、恥じらいを感じる事があった。


 そんな中、彼はアリアの前に現れた。


 マリシアス、、、彼を見た時のに浮かんだ「無垢の存在」と言う言葉、胸に感じた表現できない感覚。


 それは初めて出会った同年代の異性と言う事があるからかもしれない。


 力を無暗に振りかざさず、虚勢を張らず、物事を理性的に判断するが情の深い所がある。亜人社会で覇者として大きな成功は望めそうにないが、「機甲具」を見せた時の彼の気性と振る舞いを、アリアは好ましいと思った。

 その彼が口から発しった「欲」と「野心」と言う言葉は、「竜の血筋」であり牙を持っているのと認識なければ、コーボルトがシアを完成させると言っているに等しと思えるほど似合わない。


 ただの大ほら吹きか?それとも強かな策士なのか?どちらかと言えば前者かもしれない、だがあの時に彼が瞳に湛えた火を、アリアは笑い飛ばすことは出来なかった。マリシアスには目的と、やり遂げようとする意志がある。

 自身のこれからに思い悩やんでいたアリアにとって、彼がすでに己の道を定めて進んでいると言うコトが以外だった。


 気が付けば心には彼に対する嫉妬、そして羨望が沸き上がたっていた。


 だがそれも主従として、同じ郎党に属する者として、彼から学ぶ機会がこの先いくらでもあり、また彼がそれを実現しうるか確かめる事も出来る。アリアは宴の前までそう思っていた。


 そんな折に告げられた「婚約」と言う言葉。


 アリアにとって絶対的な強者に思われた長兄ファンダルですら、父の決めた事に逆らう事は出来なかった。父はまだ何も言わないが、母から告げられ、兄達まで知る事実。ならばマリシアスが夫となる事はもはや決定事項だ。

 住み慣れた場所を離れドサーン伯が治める「東の辺境」と呼ばれるレゼルタールに嫁ぐことになるのだろうか?それともマリシアスと共に「頂城」で暮らす事に成るのだろうか?


 御しやすそうな相手


 思わずムキなって言い返したが、実際ファンダルの言う通りなのかも知れない、成功者たる父と母の言うコトに身を任せれば何も問題は無い、牙も使えない子供の身で、将来について考えるなど愚かな事だったのだろうか?

 目まぐるしい変化に思考が追い付いて行かない。思えば昨日出会って以来、思考の大半がマリシアス、そして婚約の事で埋め尽くされている。アリアは疲労感を覚える。

 

 「どうしたの?疲れてるみたいだね。」


 気が付けば傍らに心配そうに見守るマリシアスが立っていた。「機甲具」を説明する際、彼は言葉遣いや表現に苦労していた。だからアリアは特別に二人の間だけでの堅苦しいやり取りを緩和する許可を与ていた。

 遺跡から出土した魔法の品かなにかだろうか、アリアには解らに装備を身に着けている。狩りが趣味なのか?まとった革鎧は新品という訳では無いが使い込まれ、丁寧な手入れがなされている。狩り支度をしたマリシアスは初めて会った時、宴の席、それとは違う凛々しさが感じられた。


 アリアはその姿を暫く見詰め、口を開こうとした。


 「、、、、」


 だがマリシアスが先に口を開いた。


 「食べ過ぎてお腹の具合でも悪いの?消化を助ける薬があるけど、飲むかい?」


 昨夜の出来事を思い出したアリアは、赤面して直情的にマリシアスの頬に平手を喰らわせようとした。だがその時、ラッパの音が鳴り響く。


 宿泊地に次兄リカオンが、続いて長兄ファンダルやって来る。マリシアス達は元より、アリアとその臣下も礼を取って上位者の二人を迎える。

 二人は馬から降りると、ゆっくりと歩きながら一様に宿泊地に並ぶ「機甲具」を見渡していた。アリアがそうで在ったように、次兄リカオンは物珍しそうに、長兄は憮然とした眼差しで大型の「機甲具」を見つめていた。


 「凄いね、コレ」


 リカオンは「機甲具」の威容を素直に称賛した。しかしファンダルは皮肉を交えて言い放つ。


 「これは動くのか?車輪は在るようだが、馬で引いて来たのら大きなだけで荷馬車と変わらん。」


 あからさまな挑発だった。だがアリアも思った、動くとは聞かされたが実際どうなのか?


 「せっかくですから皆様方、コレに乗車してみませんか?」


 マリシアスは気分を害した風もなく、にこやかに城主の子息、息女を誘った。

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ブライド プレパレーション(Bride Preparations) 蒼月狼 @aotukiookami

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