第7話 泥の山
【1】
息を整え、覚悟を決め、警戒を怠らず、強い気持ちを持って、
そっと玄関の扉を開いた筈だった。
だが、杉崎は庭に「それ」を見つけると、
握力を失い、通勤カバンを取り落としてしまった。
そのまま外に一歩も足を踏み出すことが出来ず、
開きかけたドアを盾に見立てて、身を隠した。
膝が震え、腰の力が抜けそうになる。
なんとか壁に寄りかかり、
わずかに開いた扉の隙間からおそるおそる覗き直してみるが、
やはり「それ」は断固として、同じ場所に居座っていた。
それなりに年齢を重ねて、落ち着いた中年男性である杉崎を
ここまで脅かす「それ」とは、実は何の変哲もない泥の山だった。
サイズはハンドボールより少し小さいくらいで、
まったく他愛もない。
杉崎はそんなただの土くれを苦渋に満ちた表情で睨み付けながら、
内心では間違いなく恐怖していた。
もはや出勤どころか外出する勇気すら失い、
できるだけ音を立てないように慎重に扉を閉めると
確実に施錠をした。
カバンは捨て置いたまま、乱雑に革靴を脱ぎ、
妻の芳江に心の準備をさせるため、
敢えて足音を立てて薄暗い廊下を歩いた。
夫婦の寝室の前に立ち、ドアを二回ノックする。
反応はないが、寝ているわけがなかった。
「……あったよ」
杉崎が閉じられた扉越しにした報告はたった一言だった。
だが、妻にはそれで十二分に伝わる筈だった。
耳が痛くなるほどの静寂の後、部屋の中から
なにかボソボソと人の声がした。
芳江が返事をしたらしいが、か細すぎてまったく内容を聞き取れない。
「すまん、よく聞こえない」
『……ったの』
「なんだって?」
『今度は、ドコだったの!!』
突然のヒステリックな叫びに、空気が震えた。
ツヤの消えてしまった髪を振り乱し、寝不足で腫れた目を充血させて
口の端から泡を飛ばす彼女の狂態が、容易に想像できた。
杉崎は言葉を返すどころか、もはや立っているのも億劫で、
ネクタイを緩めながら、力無くその場にへたり込んだ。
壁に背を預け、目の前のドアを眺めていると、
寝室の中から慟哭の声が聞こえてくる。
それを別に慰めに行くでもなく、
ただその場でぼんやりと座っていた。
暫くそうしているうちに、ふと先程の絶叫を思い出して、
何故か喉奥から笑いが込み上げてきた。
湿度の無い干からびた、スカスカな笑い方だった。
ーー『今度は、ドコだったの』だと?
確かめろと言うのか、俺に。
あの泥の山に近づく気力など、とうの昔に失せている。
見ただけでこのザマなんだ。
自分の手で崩して確認するなんてこと、できる筈が無い。
くぐもった妻の泣き声をBGMにしながら、
杉崎は押入れに閉じ込められた子供のように、膝を抱えて顔を埋めた。
ーー……無理だよ。
絶対無理だ。
確かめられる筈が無い。
今度はあの泥の中に、
母さんの、どの部分が入っているのかなんて。
初めてそれを見つけたのは、芳江だった。
庭の隅においてある簡易物置の前に、
こんもりと小さな泥の山が積まれていた。
その時、芳江はそれを、近所の子供の悪戯だと思った。
彼女は頭の中で、やんちゃな容疑者を何人かピックアップしながら、
持っていた竹ぼうきで土塊を払いのけた。
少し湿り気を帯びた黒い土はあっけなく崩れ、
中から木の枝が転がり出てきた。
特に気にせず庭の隅まで掃こうとして、
芳江はそれが木の枝では無いことに、ようやく気がついた。
節くれだった、二本の人間の指だった。
左手の薬指と小指で、根元はちゃんと繋がっていた。
だから正しくは、指というより手の一部だった。
芳江はほうきを投げ出し、家に逃げ込むと
夫が帰宅するまでリビングで震えていた。
その夜、確認を終えて、暗い庭から戻ってきた杉崎に、
芳江は駆け寄った。
「どうだった?」
「玩具じゃない。本物だ」
杉崎の顔は、目に見えて青ざめていた。
チキンのように引き裂かれた、
泥まみれの人間の手の一部が、何故か庭に転がっている。
だが杉崎を強く動揺させた理由は、それだけではなかった。
「それに……」
「それに?」
「それに多分、あれは年寄りの手だ」
「ちょっと、アナタ。まさか……!」
芳江は夫の言わんとすることを理解して、口を覆った。
言葉を失った彼女の顔を見つめ、杉崎が頷いた。
杉崎達は丁度一週間前、徘徊癖のある母、富子の
捜索願を警察に提出したばかりだった。
それから四日後、再び杉崎の家の敷地内に泥の山は現れた。
二回目は車庫の奥だった。
杉崎が妻に頼まれ、恐る恐るそれを崩すと
中から金タワシみたいな毛玉が出てきた。
棒を使って雑に広げてみると、
頭皮ごと毟り取った髪の毛だと分かった。
蹲ってえずく妻の声を聞きながら、
杉崎は呆然としていた。
泥に絡みついた赤茶けた髪は、この家から居なくなる前の
母のものとそっくりだった。
「間違いない……」
捜索願を出した母の、体の一部が、今、ここにある。
そこから当然導き出される結論に、
杉崎の目の前は真っ暗になった。
そのさらに三日後、勝手口のすぐ前に盛られた土を
芳江が気づかずに出会いがしら蹴っ飛ばして、
撒き散らかした。
「あっ、あああ……!」
飛び散る泥の中に
だいぶ歯の本数が足りない人間の下あごが混ざっていて、
芳江はとうとう家から一歩も外に出なくなった。
【2】
兎に角、犯人の意図が分からないのが不気味だった。
手紙なり電話なり、何の意思表示もしてこない。
杉崎は頭を抱えた。
金目当てにしても他に目的があるにしても、
そいつが自分達に尋常ならざる悪意を抱いている事は疑いようが無い。
富子の命がないことはもはや分かっていたが、
死体の一部を少しずつ解体して、泥に包んで届けるなど
完全に常軌を逸している。
自分と全く関係のない第三者が、こんな手段を使うだろうか。
そうでない方が自然だ。
だから、そんな異常者が身近に潜んでいることに杉崎は怯えた。
会社でなんとか仕事をこなしている間も、疑心暗鬼にとらわれていた。
一度厳しく叱責した部下。
酒の席で口論になった同僚。
杉崎にすれば些細なことだが、相手もそうであるとは限らない。
そばに他人がいる限り、杉崎の神経は磨耗し続けた。
バスからマイカー通勤に切り替えていた杉崎は会社帰り、
商店街の入口にあるコンビニエンスストアに車をとめた。
うつろな目で二人分の弁当をみつくろっていると、
突然背後から名前を呼ばれた。
「あれ? 杉崎さん?」
「!」
驚いて振り向くと、同じように驚いた顔をした女の子が立っていた。
制服姿で、おそらく学校指定の、小さなボストンバックを肩にかけている。
きょとんとして杉崎と見詰め合っていた彼女が、
突然堪えきれないように噴き出した。
「ぷふっ、す、すみません」
「え? な、なんだい?」
「いえ、だって、呼んでみただけなのに、
杉崎さんものすごい勢いでこっち向くんだもの。
裏拳きめられるのかと思っちゃった」
女の子はそれから一転して、悲しそうな顔をすると、
杉崎にニ歩近づいてから、小声でヒソヒソと囁いた。
『あの、ズラ、ずれてますよ』
「あのね、何度も言うが、これはズレないんだよ。地毛だからね」
「冗談です」
再び身を離すと、女の子は悪気の無い笑顔に戻った。
杉崎は彼女と顔見知りだった。
杉崎家のはす向かいに構える借家に住む、近藤という娘だ。
両親の元を離れ、弟と二人で暮らしていて、
妙に明るい性格の女の子だと芳江が言っていた。
杉崎は顔を合わせるたびにこの娘から、
何故かいわれの無いズラいじりを受けていたが、
その朗らかさには好感を抱いていた。
「あれえ、今日はお弁当ですか?」
近藤姉が杉崎の買い物カゴを不思議そうに覗き込んでくる。
そこでようやく杉崎は、
彼女の少し後ろに立っている、男の子に気がついた。
こちらはツメ襟のついた、近所の中学校の制服を着ている。
勿論、彼の事も知っていた。
近藤姉を見かけるときは弟の彼と、
今日は居ないが大柄で派手な女の子がセットになっていることが多い。
ただ、正直弟の方はこの姉の身内にしては覇気の無い
あまりに平凡な少年という印象だった。
目が合うと、こんにちはと挨拶をされたので、
杉崎も口角を上げて会釈した。
「ちょっと、妻の調子が悪くてね。
最近はコンビニ飯ってやつなんだよ」
「あー、そっかー。やっぱり今、大変ですもんね」
「うん?」
「ほら、おばあちゃんの事」
近藤姉の無邪気な微笑みを見て、杉崎の身がすくんだ。
母が混ぜ込まれた泥の山が、フラッシュバックする。
何故、この娘が知ってーー
「心配ですよね、居なくなっちゃうなんて」
「え、」
かなり間の抜けた「え」がこぼれた。
その後、数秒遅れて杉崎は思い当たった。
そうだ、捜索願を出した後、母を見かけたら保護して欲しいと、
回覧板を回してもらったんだ。
当然、彼女が話しているのは、
母の蒸発のことであって、泥の山の件ではない。
そんな当たり前の思考にすら至れない程、
自分の精神が衰弱している事を、杉崎は改めて自覚した。
近藤姉は神妙な面持ちをしている。
先程、気遣うようなことを言いながら顔は笑っていたのも、
きっと気のせいだと思い直した。
「まだ見つかってないんですよね? おばあちゃん」
「……ああ、そうだね。
うちのはその心労もあって、風邪をこじらせているみた」
「あの、」
それまで黙って二人のやり取りを見ていた近藤弟が、急に口を開いた。
杉崎は話を止めて、意外な物でも見るように、そちらに視線を移した。
杉崎の記憶にある限り、少年から挨拶以外の声をかけられたことは
一度たりともなかった筈だった。
近藤弟は表情を変えぬまま、言葉を続けた。
「おばあさん。ちゃんと、帰ってくるといいですね」
機械で合成したみたいに、抑揚の無い声だった。
人の心を限界までそぎ落としたようなその喋り方が、
あまりに気味悪くて、杉崎は咄嗟に返事が出来なかった。
眠たそうな瞳が、凍り付いた杉崎の顔を
虫の標本でも観察するように見つめている。
「帰ってきますよ。きっと」
少年の励ましの台詞は、とても温情からのものとは思えなかった。
むしろ不吉な呪いのように、杉崎の脳髄に染み込んでくる。
言葉の裏に、もっと別のどす黒い真意を孕んでいるような気がしてならなかった。
近藤弟はそれっきり口を閉ざした。
杉崎は、喉に詰め物をしたような息苦しさの中で、
「ありがとう」と絞り出すのが精一杯だった。
「……さて、そろそろ、帰るかな」
それ以上目を合わせていられなくて、強引に踵を返した。
レジにかごを置いて、弁当の温めを断り会計を済ませると、
さり気なさを装って振り向いた。
マネキンのように、近藤姉弟は同じ場所に立っていた。
「さようなら」
姉が笑顔で手を振った。
杉崎もかろうじて平静を装い微笑んで、
軽く手を上げると、足早に店の外へ出た。
彼女ほど上手く笑えている自信はなかった。
後ろで自動ドアが閉まる音を確認してから、もう一度だけ振り返った。
瞬間、背筋に虫が這うような寒気が走った。
二人はまだ動かずに、ガラスの向こうからこちらを見ていた。
・
・
・
・
・
「おにぎり、温めどうされますか?」
「えっ、おにぎりって温められるんですか?」
「姉さん。姉さんが選んだやつは温めた方が美味しいんだよ」
「そうなの? 初めて買ったから知らなかった。
じゃあ、せっかくだしお願いします」
「はい」
「わー、凄い。ほんとにレンジに入れちゃった。
杉崎さんもお弁当温めてもらえばよかったのにね」
「家のレンジを使った方が冷めなくていいと思うよ」
「そりゃそうか」
「うん」
「それはそうとさ、修ちゃん」
「ん?」
「結構頑張るよね。杉崎さん」
【3】
ひざを抱えたまま、ここ数日の出来事を回想していた杉崎は、
ゆっくりと顔を上げた。
いつの間にか、妻の泣き声が止んでいる。
腕時計を確認すると、まださほど針は動いていない。
緩慢な動作で腰をあげ、寝室のドアを再びノックした。
返答はなかったが、一方的に言葉を告げた。
「会社に、行ってくる」
少しの間の後、中からドアノブが回り、
軋んだ音をたてて十センチほど扉が開いた。
闇の中、その隙間からぎらつく瞳が杉崎を覗いている。
乱れ垂れた髪の下で、目蓋が小刻みに痙攣していた。
「こんな時に……何……考えてるの……」
杉崎は呆けたようにしてそれを見つめた。
俺の妻はこんなしわがれた声をして、
こんな鶏がらみたいな顔をしていただろうか。
いつまでも霧がかかったように冴えない頭では、
もうそれすら疑わしかった。
熱いアスファルトの上で揺れる陽炎のように頼りなく
彼はゆらゆらと背を向けた。
「……わかるだろう。いつも通り。普段通りやるんだ」
無言のまま、寝室の扉は再び閉ざされた。
直後に内側から、怒りに任せて何かを叩きつける打撃音が
何度も何度も聞こえてくる。
杉崎はそれを無視して、一歩ずつのろのろと歩を進めた。
「いつも通りにやるしかないんだ……。普段通りに……」
玄関にたどり着くと、先程脱ぎ散らかした革靴を履きなおして、
埃のついたカバンを拾った。
鍵を開けて、できるだけ庭の方を見ないようにしながら外に出る。
四つ目の泥山をそのままにして、杉崎は車庫に向かった。
「もう、そうするしかないんだ……」
自分に言い聞かせる声は、細長い煙のように浮かび
空気に溶け込んで消えた。
「お義母さんが息してないの」
富子の捜索願を出す前日、杉崎が帰宅すると
芳江からいきなりそう報告された。
「ごはんを食べさせようとしたら、
それひっくり返しちゃってね、片付けようとしたら、
まだ食べてないのに何でもって行くんだってわめき散らすの」
その後、あまりに自分を罵る声が酷かったので、
少しだけ静かにして貰おうと思って
顔に枕を押し付けていたらそのまま動かなくなったという。
淡々と語る芳江は、昨日見た夢の話でもしているようだった。
杉崎が冨子の部屋に入ると、確かに母は苦悶の表情で事切れていた。
ぶちまけられた粥は固まり、布団や畳に糊のようにこびりついている。
紙おむつ越しにする排泄物の臭いが、ほのかに漂っていた。
杉崎は妻が母の介護に疲れを見せていることを知りながら、
悠長に何の手も打たなかったことを今になって、激しく後悔していた。
「ねえ、アナタ」
だがもう全て、遅かった。
杉崎が振り向くと、妻が首を傾げた。
「どうなるのかしら、私」
杉崎は選ばなくてはならなかった。
杉崎は車の助手席に鞄を放り込み、
シートに身を沈めると、額に手を当てて目を瞑った。
当然、細心の注意を払いつくした筈だった。
だが、自分たちがあの森に母を埋めるシーンを、
誰かに見られていたのだろう。
そして何故かその誰かは、杉崎達の素性も知っている。
泥山の中の欠片が、母のパーツだと確信したときの衝撃を思い出すと
今でも動悸が激しくなる。
自分たちは脅迫されていて、
その脅迫者は、頭の線が何本か切れた異常者だと思った。
それなのに、警察に届けて、
そいつを逮捕してもらうわけにはいかない。
母の殺害と、死体遺棄の件も芋づる式に明るみに出てしまう。
ーーしかし、
先程の妻の様子を想起するに、もう彼女は限界だ。
性格どころか見た目まで、
知らない女に変貌してしまったような気がする。
杉崎は大きく呼吸を整えると、まぶたを開き、
フロントミラーを自分の方に傾けた。
光の無い老いぼれた目が映っていた。
ーーあれ、俺、こんな顔だったっけ。
目頭を揉み解して時間を確認すると、
いよいよデッドラインが近い。
違和感をそのままに、鏡の角度を直し、
ブレーキを踏みこむと、エンジンキーを回した。
車庫から車が左折しながら滑り出し、走り去っていく。
修一と小百合は近藤家の二階から、それを眺めていた。
「杉崎さん、普通に出勤しちゃったね」
「普通にじゃないよ。
いつもより遅かったし、泥の山を崩さなかったみたいだ」
「そっか。
じゃあ、私たちも学校行こうか。
早くしないと遅刻しちゃう」
「うん」
夕方、杉崎はいつもより二時間程早く、帰宅した。
自分から申し出た早退ではなかった。
紙のような顔色をして、同じようなミスを繰り返す杉崎を見かねた
上司の指示だった。
先日、近藤姉弟の居たコンビニと違うロゴが入った買い物袋と、
カバンを両手に提げて車庫を出る。
のそのそと背中を丸めて歩道を歩き、
自宅の庭に入ろうとして杉崎は足を止めた。
「……はっ」
顔が勝手に泣き笑いに歪み、涙が滲むのを感じる。
膝から崩れ落ちると、庭を凝視したまま
だだを捏ねるように首を振った。
今朝は一つだけだったのに。
「は、ははは、……なんだよ、なんだよ、それ……」
庭一面にぽつぽつと盛られた、泥の山、山、山。
今朝は一つだけだった泥の山が今や、
緑の芝を侵す皮膚病のように庭中に蔓延している。
これは墓場だ。
あの中に金魚くらいの、母さんが一つずつ、一つずつ――
「こんなの無理だよ……無理……」
杉崎は、膝を抱えてうずくまると、
もう自分の力で立ち上がることができなかった。
その夜、報道陣や警察で賑わう杉崎家を
修一の部屋の窓から眺めながら、かすみは呟いた。
「それで自首しちまったのか」
「うん。私たちが今朝、沢山置いといたのは、
ただの泥山だったんだけどね」
「全部中身入りだと勘違いしたら、そりゃショックだわ」
かすみは、アメリカ人のように両手を上げるジェスチャーをする。
「しかし、まさか自分達を脅してたのが婆さん本人の仕業だなんて、
あいつら想像もできないだろうな」
かすみが言うと、
ベッドに浅く腰かけている修一が、手元の単行本から顔を上げた。
「違うよかすみさん。お婆さんは二人を脅迫するつもりなんて
最初からなかったんだよ」
「家に帰りたいけど、一度には持っていけないからね。
ちょっとずつ帰るんだって言ってたよね」
かすみは取り敢えず頷いて、それはそうとと目を半眼に細めた。
「にしても、ちょっとえげつなかったんじゃねえの。
おっさん、小便漏らしてたんだろ?」
「だって、杉崎さん意外と根性あるんだもん」
「杉崎さんが我慢し続けたら、どうしようもなかったんだよ。
何十時間もかけて自分の死体まで歩くお婆さんを
ずっと追跡するわけにもいかなかったし」
修一の後ろでうつ伏せていた小百合が足をばたつかせながら
続けた。
「でも、これでもう、私も修ちゃんも一安心」
「婆さんの幽霊がうろつかなくなってか?」
「ううん」
小百合は太陽のように破顔した。
「近所に人殺しが住んでるなんて物騒でしょうがないでしょ」
泥の山 終
怪異を拾う @ezobafununi
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