第二十三話 辺境の領主
ドラゴンを地上に落としてからは、安心して動けた。
こうなると怖いのは油断だけで、こんな場面で油断などする者はおらず、皆が皆自分の役割をこなし、危なげなくドラゴンを仕留めたのだ。
最後は、グズグズになった背中の傷にディアナが氷属性魔法で氷柱を突き立て、首の動きが怠慢になったのを見計らったエルフィが鼻っ柱に飛び乗り、勢い良くドラゴンの瞳にレイピアを突き刺し、得意の『風爆』で眼球を貫通して脳までふっ飛ばして終了となった。
いつも思うのだが、エルフィを神官にしておくのは勿体無い。そして、剣技や魔法を訓練する時間が少ない割に、常に予想以上の成長をしているので、我が姉ながら本当に凄いと思う。
「ねえディアナ」
「何かしら?」
恒例の素材剥ぎ取りが終わり、ドラゴン肉を食べながらの休憩中、俺はディアナに近付き小声で問うた。
「帰ったら、そろそろ氷属性魔法を教えてくれない?」
「あたくしは構わないのよ。ですが領主様は、村長に『まだ早いのじゃ』と言われているのでしょ?」
ディアナが最後に使った氷属性の魔法だが、最低でも炎・水・風の三属性に適性がなければ使えない魔法なのだ。
四大属性が使えるディアナは実際に使っているが、俺も使える可能性はある。しかし、それには炎・水・風の三属性を
俺は風属性と土属性はかなり使えるようになってきて、水属性もそれなりには使えるようになっているのだが、炎属性がいまいちで、師匠から氷属性はまだ早いと言われていたのである。
「ディアナが最後に使った魔法を見たら、俺も使ってみたくなっちゃったんだよね。だから、師匠には内緒でこっそり教えてくれない?」
「村長に内緒でできる気がしないのだけれど……」
いつでも自信満々のディアナが、珍しく苦笑いを浮かべている。
色っぽいディアナの苦笑いとか、滅多に見れない表情だな。これはこれでそそりますなぁ~。ぐへへへ。
「まぁ、戻ってからの話だから、一応覚えといて」
「わかったわ」
まだ完全に平定ができたと判明していないのに、あまり先の話をすると変なフラグが立ちそうなので、この話はここで終わりにしておく。
そんな俺達以外は、というと、ジェニーとフロリアンはエルフィに纏わり付いていた。
剣を使わない二人は、ドラゴンに止めを刺したエルフィの『風爆』が琴線に触れたようだ。
食事中は聖女の仮面が剥がれてしまうエルフィは、「食べ終わってからにしてよ!」と、鬱陶し気にあしらっていたが、それでもジェニーはお構いなしに絡んでいる。フロリアンは申し訳なさそうに佇んでいたが……。
その様子を見ていたモルトケは、『オレも練習してっみかな』などと言いながら剣を振っていた。
こうして仲間の戦う姿に影響を受け、更なる高みを目指す姿は見ていて気分がいい。
ドラゴンとの戦闘後、少し離れた場所にあった神殿を探索し、何だかわからない装置と魔石の結合装置らしき物、それと大きな充電装置……もとい充魔装置らしき物と、何れも巨大な措置を三種類発見した。
結合装置らしき物は、通常の魔石を魔鉱石化する装置と推測する。この装置があれば、魔鉱石がなくても魔導船を動かすための動力源が確保できるのであろう。
そして、シュヴァルツドラゴン討伐の連絡を入れておいたアルトゥールから、境界が消えて残党狩りに入ったとの連絡を受け、シェーンハイト達と合流し、一度整備工場へ向かった。
いよいよ数人が心待ちにしていた魔導船の飛行テストを行った結果、装置の解釈を間違っていたようだ。
どうやら魔導船は魔鉱石そのものでは飛行が不可……というか、魔鉱石がとにかく硬く、魔導船の炉に入る大きさに砕けないのだ。で、改めてマニュアル的な本を翻訳し直した。その結果――
まずは魔石結合装置で大きな魔石を作る。そして、出来上がった大きいだけで魔力の少ない巨大魔石に、充魔装置を使って魔鉱石から魔力を貯め、魔力の満たされた巨大魔石を作る。最後にそれを粉砕装置で小さく粉砕し、魔導船の炉のような場所に入れて動力源とすることが判明したのだ。
試しに、魔物から得た普通の魔石をどっさり投入してみたが、うんともすんとも動かなかった。
そのことから、高濃度の魔力が篭った魔石が必須であり、そのためには魔鉱石や入手した装置が必要だとわかった。
そして、魔導船を運用するのであれば、魔鉱石の採掘できるあの場所は、非常に重要な地であると結論付けた。
ちなみに、整備工場は魔鉱石を動力源に可動できたので、巨大な整備工場内を照らす照明魔道具や大きな扉の開閉が可能となる。このとき、魔導船も魔鉱石のまま運用できるように設計すれば良かったのに、と思ったが、そうできない理由があったのだろうと無理やり納得することにした。
また、試運転ではエドワルダやジェニーらが、非常に喜んでいたのが印象的であった。
エドワルダはいつのどおり無表情だったが、頬が赤く色付いていたので、きっと興奮していたに違いない。
その後の帰還だが、魔導船でいきなり王都に行くのは拙いだろう、ということで、予定通り残党狩りをしながら王都へ戻った。
残党狩りに関しては、冒険者が極力内部に入り込んで魔物を殲滅し、騎士団は漏れ出てくる魔物を倒すことで、約一月の殲滅戦を行なう。
というのも、過去最大級の伏魔殿の平定なので、完全に殲滅するのは難しく、魔物の自力消滅の最長期間だと言われる一ヶ月、その間に付近の町村へ被害が出ないことを優先した結果、やや消極的な策をとったようだ。
また、平定後の開拓に関しては、現状は各領地への経路と途中の宿場町を建設する程度で、その後に手の行き届かない場所が伏魔殿に戻るのも厭わない方針を打ち出した。
そして、魔導船の整備工場や魔鉱石の採掘場は、秘密裏に王国で管理するらしい。
そんなこんなで、色々と決まったことなどをアルトゥールに教わりながら、俺は叙爵式までの時間を王都で過ごしている。
通常、叙爵式は新年の儀で行なわれる年に一度の儀式なのだが、今回は北の伏魔殿を平定した
その叙爵式で、俺は初めて国王陛下と顔を合わせた。
何度も王宮に出入りしているが、それは全てアルトゥールとの遣り取りなので、在地騎士爵の三男が陛下と顔を合わせる機会はなかったのだ。
今回の叙爵式は急遽執り行なわれたので、謁見の間には大勢の貴族が集まることもなく、宮廷伯が見守っただけだった。
また、俺が賜る領地がブリッツフォルテであることから、北の伏魔殿を平定する前に既にドラゴンを倒して別の地を平定していることが告知され、宮廷伯の方々の度肝を抜いた。
なにせその他に、俺が父の指示でアインスドルフの隣りにある伏魔殿を平定していたことも知られており、更に言えばそのアインスドルフも俺が平定しているのだ、驚かない方がおかしいだろう。
それでも、レーツェル王国と繋がる渓谷があることはまだ秘匿されていたので、報奨となる地がそんな僻地では可哀想などと言う人、王都に近い北の伏魔殿跡地を賜らなかったことで安堵している人、とにかく不機嫌そうな人と反応は三通りであった。
不機嫌そうな人の中に、子豚色の髪の毛で醜く太ったオッサンがいたが、その人物こそがシュバインシュタイガー外務相だろう。
今となっては、シェーンハイトに何かしてくるようなことはないが、かつて王女誘拐事件で怪しかった人物だ。初めて当人を目にしても、特に何の感情も湧かなかったので、そのまま気にしないことにした。
こうして俺は辺境の領主、ブリッツェン・フォン・ヴインター男爵となった。
アルトゥールも、流石に叙爵式と同時に俺の養子入を済ませるようなことはせず、俺はまだライツェントシルトを名乗れない。なので、一時的に王国南西部にヴインター家が二つとなったが、父はまだ昇爵していないのでヴィンター騎士爵であり、俺がヴインター男爵だ。現状は紛らわしくない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやー、何だか自分の家って実感があまりないけど、ブリッツフォルテに帰ってきて、自分の館のリビングにいるだけでも落ち着くなぁ~」
「お兄様、わたくしもここは落ち着きます」
「……シェーンハイト様、そのお兄様と呼ぶのはどうにかなりませんか?」
「お兄様はライツェントシルト家の者なのですから、わたくしがお兄様と呼ぶのは当然ではありませんか。それより、
王都を発つ前、俺はライツェントシルト公爵家の養子となった。
そのことを一切知らなかったシェーンハイトは、すっかり義妹モードになって俺にべったりだ。俺としては、どうにもしっくりこないので、未だに距離感が掴めていない。
「徐々に慣れていきます……」
「一日も早く、お兄様がアンゲラお姉様やエルフィお姉様に接するよう、わたくしにも接して欲しいのです」
「あっ、はい、頑張ります……」
シェーンハイト様が義妹になるだけでもこれなのに、嫁になったらどうなるのやら……。
日本人時代には全く縁のなかった美少女が、こうして義妹になったことで、将来の結婚も現実味を帯びてきており、既に俺は緊張モードだ。
他人と関わらず、目標も無く惰性で生きていた日本人時代。それが異世界にやってきて、全てが納得のいくことばかりではなかったが、格段に幸福を得ている。
これからは、領主として多くの住人を守っていくという、未知の道を歩まなければならない。
それは険しい道かもしれないが、今の俺は一人ではないのだ。
最高の家族と多くの仲間がいる。
だったら何も心配など要らない。
『ワン・フォー・オール オール・フォー・ワン』だっけか?
『一人はみんなのために みんなは一人のために』だったよな?
俺が困ったら助けてくれる人がいて、俺も力の限り守っていく。そうして俺は、この世界で第二の人生をこれからも謳歌するんだ。
謳歌できる人生がどれ程の期間なのかわからないけど、この人生が終わるまで、俺は精一杯楽しみながら生きる。むしろ楽しまないと損だね!
そう考えると、シェーンハイト様が義妹になったくらいでビビっていてはいけないよな。
「シェーンハイトさ……シェーンハイト」
「はい、お兄様」
「これからも宜しくね」
「こちらこそ宜しくお願いいたしますね。お兄様」
もう二年したら、俺はこの義妹と夫婦になる。そしたら、念願の童貞卒業だ。
なに、二年なんてあっという間だ。領地の発展に尽力していれば、気が付いたらもう結婚ってな具合だろう。
小柄な俺に相応しい小柄で可憐なシェーンハイト。胸はそれほど主張していないが、手のひらサイズの美乳に違いない(妄想)。
穢れを知らぬ白い肌が、羞恥で赤く染まる様を想像するだけで……堪らんですな!
ゲスな目標だけど、童貞卒業目指して頑張るぞー!
横掛のソファーで、嬉しそうに俺の肩に頭を乗せるシェーンハイトは、義兄がそんな不埒な目標を心に誓っているなど微塵も感じることなく、とても幸せそうな表情を浮かべていたのであった。
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これにて、『魔法の廃れた魔術の世界 ~魔法使いの俺は無事に生きられるのだろうか?~』は終了となります。
処女作であるこの物語は、素人が手探りで一生懸命考えて形にしていたのですが、理想(プロット)と現実(投稿された話)がかけ離れてしまい、現在の私の能力では以降の話が書けません。
なので、いつか『魔法の廃れた魔術の世界』を完全な作品に仕上げるために、今はここで終了することを選びました。
完全版が書けるようになるのが何年後かわかりませんが、必ず書きたいと思います。
それまでは、勉強の為に完結できる短い話を書いてみるつもりです。
今はネタも浮かばず何も書いていませんが……。
最後に、グダグダになってしまい申し訳ございませんでした。
それでも、最後まで『魔法の廃れた魔術の世界』を読んでくださり、本当にありがとうございました。
雨露霜雪を見かけましたら、その際はよろしくお願い申し上げます。
魔法の廃れた魔術の世界 ~魔法使いの俺は無事に生きられるのだろうか?~ 雨露霜雪 @ametsuyushimoyuki
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