海とけむり
律くんと夜をたいらげたあと、律くんの寝ている間にあたしはベッドをするりと抜けだした。
どうしてもしなければならないことがあった。まだ夜の明けていない街を歩き、あたしは駅へと歩いた。始発の新幹線に乗って、おんぼろ電車に乗って、海へでかけた。途中のコンビニで、100円ライターと、むかし草太が吸っていた銘柄の煙草を買った。
車椅子をひいてでも連れて行ってくれると彼が言ってくれた、淀んだ、あの海へ、たったのひとりで向かった。
「好き、だったよ」
慣れない手つきで100円ライターの火をつけた。草太とは3回恋をした。そして4度さよならを告げた。草太が大好きだと言ってくれたこの海で、さよならを告げるのはいつも冬だった。
5度目の冬の海で、あたしは吸えやしない煙草をふかした。草太が吸っていた煙草を無理矢理奪って、口付けてみせる。草太の驚いたような、嬉しそうな顔を見るのが好きだった。だけどやっぱりむせて、それはまるであの時と同じだった。あたしはなぜだか嬉しくなり、だけど隣に草太がいないことに気付いて、自分がここに何をしに来たのかを思い出しては寂しく笑った。
吐き出した白が、あの日々のようにきらきらと映って、そしてふわり、形になりきれず、静かな海に溶けて消えていった。
海とけむり 春川もここ @mococo25
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