完璧な幸せ
「大事な話っていうのは、つまり」
宝石みたいなデザートを食べ終えたあと、律くんは緊張した顔になって、あたしも緊張した。周囲で食事をしている人たちの、食器の擦れる音がやけに耳についた。律くんが口を開いた。
「僕と、結婚してください」
果てしない水平線の向こう側に、あたしの体ごと、心ごと、記憶ごと、全部連れ去って消えてくれたら良かった。あの日々は鮮やかに、寄せては返す波のように、あたしの中でただ静かに、繰り返しそこにあるだけだった。
だけど、迷いはなかった。あたしも、律くんのことが、きっと好きだ。
「もちろん」
律くんの顔がほころんで、少し瞳に涙を浮かべて笑った。その後ですぐに、凛とした顔で律くんは言った。
「必ず、幸せにする」
「うん」
「僕は君のことが好きだよ」
「うん。私も。私も、好きだよ」
幸せだった。どちらの日々も、狂おしいぐらいに愛しかった。だけどもう随分と月日は流れて、あの頃のあたしはもうここにはいない。
かかとの高いヒールをはいていて、綺麗に化粧をして、輝くドレスを身にまとい、髪も伸びた。完璧な律くんの隣にいても恥ずかしくないように、あたしは頑張った。
こんなに綺麗になったんだねって、驚くかな。きっと街ですれ違ったって、もう草太はあたしに気付かないだろう。あたしはもう変わってしまった。これでよかった。草太と一緒にいても幸せになれないことは分かりきっていた。だから、これで、よかったんだ。
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