誰もが最愛の誰かの為にならば、《ヒーロー》になれるのだ

ヒーローに憧れていた頃があった。ヒーローになれると思っていた頃があった。ヒーローが助けてくれると信じていた頃があった。
そんなあどけない夢が終わったのはいつだろうか。
ヒーローなんていないのだと、誰もヒーローになんてなれないのだと諦めて、現実だけを直視するようになったのはなぜだっただろうか。

これは、そんな現実を生きるひとりの男が、異世界からの来訪者により「正義のヒーロー」に変身させられる話です。

物語はよどみなく、時には軽快に、時には爽快に続いていきますが、正義の為にはなにをしてもいいのか。愛するひとと正義のどちらが重いのか、という問い掛けが常に物語の影に隠されているような気が致しました。

そうしてこの物語には複数の人物が登場するのですが、幼馴染、喫茶店の常連、怪人どれも個性豊かで、それぞれがそれぞれの人生を生きているのが伝わって参ります。これほど丁寧に、複数の人物を書き分けられるのは、ほんとうに凄いことだと思います。なお、私は堤さんが好きでした。とても品がよく、淋しさをこらえて家族を待ち続ける姿が胸に迫ります。

読み終わったときの清々しいきもちはしばらく、余韻として続くと思います。そうして、なにか大事なものを護りたいときにこの物語を思い出すのでしょう。
誰もが最愛の誰かを護る為にはヒーローになれるのだと、勇気をもらえるような小説でございました。