幽冥に移ろう世界――運命に抗う戦士たちは、闇を照らす篝火となるか

そこが終末を迎える世界であるならば、人々は手を取り合い、生き残りの道を模索する。そうあって欲しいというのが、大平の世を生きる我々の人情であるが――希望的観測という誤謬だろう。
本作では、逼迫した状況でありながら、人間同士の争いが絶えない世界観が描かれている。『凶星』『黒い霧』『魔物』――人類が対処すべき問題を前に、国を動乱に陥れる策謀が蠢き、一触即発の事態が延々と続いている。
そんな鬱屈とした世界を舞台に、主人公アラケアを筆頭にしたアールダン王国の面々は、明日への希望を求め戦いを続けている。

『退廃的世界感』『ダークファンタジー』を銘打つだけあり、グロテスクな描写や、不気味な魔物、陰惨な展開などが多く登場するものの、それ以上に私は本作から『熱い』ものを感じた。それを語るにはまずシステマチックな部分に切り込まなければいけない。
 特徴的なものとして、テキストが非常に読みやすいことが上げられる。これは字の文から、セリフ文に至るまで意図的に揃えられたものであると感じた。これは読者に『勢い』をつかせることに成功している――と同時に、一人称でありながら、場面場面の描写が非常に巧みだ。それは登場人物たちの脈動感ある動きを想像させるのに一役買っている。ゆえに、明日を切り開くために戦い続ける彼らの姿に『熱い』ものを感じた――というわけである。

長々と書いてしまったが、非常に現代読者に向いた、良質なファンタジー小説であると私は思う。ダークな世界感が苦手な方も、是非一読して欲しい作品だ。

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