架空ではあるが非常に現実的な世界で、戦争という残酷な時間を体験した――元陸軍兵士・青年グリュン。喫茶店の主人から仕事の斡旋を受け、彼が向かった先は、とても『不思議』なもうひとつのシスル公国だった。
なんといっても、注目すべきはその描写力である。
情報量をこれでもか、と詰め込んだ文章から広がる世界は、まざまざと鮮烈な光景が目に浮かんでくる。そんな明瞭な世界で描かれる人々の活気、はたまた目を背けたくなるような泥臭い人間の醜さまで――今後、グリュンを基点としてどのような物語が紡がれていくのか、期待したいところである。