月と大樹


長く生きていると

必ず大きな災害を経験する事になる





それは、冬の日

お昼前の事



大きく地面が揺れた

今回の地震は大きいと感じた直後


それ以上の大きさで激しく地面が揺れた

それはしばらく続いた


根の周りの土地が半分崩れたところで

揺れは緩やかになりようやく収った


静かになった



しかし、町の方から煙があがっているのに気付いた

まこは丘を降りる事を決めた


途中で丘に登ってくる人がいた

町に大きな津波が来るのだと言う



住宅地に入ると丘へ向かう人が一気に増える

それに逆行し、川までいくと海までよく見通せた

確かに潮が立っているように見える


樫の木になると川そばの住宅地が見渡せた

確かに巨大な津波がこちらに向かっていのが見える



川沿いを海に向かって走る

みんなに丘に逃げるように声をかけながら



これ以上海に近付く事は危険であったが

彼女は、木になれた


みんなに避難を呼びかけ続けた




逃げ遅れた女性がいる

燃える自宅を眺めている

そばに、子供がいた



『もうすぐ津波が来る

 私は木になれる、子供を連れて登れ

 他に助かる方法はない』

そう言って、まこは巨大な樫の木になった

樹齢は100年近かった


母親は目の前に現れた木に登り始める



他の逃げ遅れた付近の住人も何人か

大きな大木を目指して集まり

そして登った



津波が見えてくると、その大きさに

みんなさらに木の上へ上へと昇って行った

津波の音も彼らを怯えさせた



一瞬で津波は住宅街を上からのみ込んでいった

樫の木の上半分は、泥水の流れの上にあった

みんな無事だ



津波の流れは激しいが樫の木は持ちこたえた



そこから数時間、彼らは木に掴まって過ごす



ようやく救助ヘリが彼らを引き上げ始めたとき

もう一度大きく揺れたため

救助は急がれた


彼らがみな助けられた頃に

津波の流れが、また一段大きくなった


大きな漁船が勢いよく流れて来ているのが見えたため

救助ヘリは高度を上げていった


漁船は大きな樫の木に勢いよくぶつかり止まったが、

木が大きくたわんだ




次の瞬間に木は消えてしまった





津波が引いた後

研究所の所員たちは探し周った


そして、小さな端末を見ながら

泥を掘り返し始めた


彼女の付けていた時計が泥の底から見つけられた

時間は70年前の時間を示している

本来の持主であるまこの姿はなかった





まこは津波に飲まれて死んでしまったのか






まこは、丘の上に設置された仮設の避難所にいた

泥だらけになった70年前の服を着替えていた



まこは、津波の中で人戻った

危険な状態でしばらく流されてしまった


しかし、津波の中で、もう一度木になった

根は浅くその場所にとどまる力はなかったが、

根も含めてそのまま流されたため助かる事になった



まこは、避難所の仮設テントで少し休養を取ってから出ていった



そこからの、彼女の消息は分からない



彼らは、研究所で待つしか他にない





彼女は山の奥で木になった


彼女は、人でいる時間より、木でいる時間を長く過ごしてきた


知る人間のいないこの世の中より

変わらない山々の形や自然の風景の方が

彼女にとっては、心を通わせる対象になっていた


どこかで、静かに月の明るさを感じている





―— 終わり ―—

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木になる女(あらすじ) おむすびゴンタ @nobson50000

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