木になる警官


もう恋愛をしなくなった訳ではない


コントロールするために試行錯誤した時期がある

不安定な作業を重ね、普通の付き合い方ができるようになった


彼女にとって恋愛を進めていく事は、色々本当に大変だった




警察官の仕事は

休みの日が平日になる事がよくある

普段混雑する場所に参加する必要がないのでいい


ただ、一緒に遊びに行く相手は、どうしても同じ業務シフトの警察官が多くなる

これは、男女を問わない



恋愛もすれば、まこは旅行にも行く

そのために、電車を使う事もある

飛行機だって利用している


今、普通の生活を楽しんでいる




彼女はもう保護の元にあるわけではない




警察所で課長より連絡があった


管轄での事件ではないが、強盗殺人事件の犯人の目星がついた

ただ犯人が今どこにいるのか分かっていない

犯人は管轄地域に土地勘があるので潜伏する可能性がある

顔写真が配られた


彼女の部署には、特に業務への大きな影響はなかったが

巡回時に時折、顔写真を確認するようになった

2人暮らしの母親と中学生の息子を殺した男の顔は憎い



まこは、休みの日に同僚と出かける予定をやめて、

町を散歩することにした


山の方へ足をのばしたり

普段、用のない隣の町まで行ったり

頭の中に焼き付けている犯人の顔を思い浮かべながら




犯人を見つけたのは

パトカーで巡回している職務中の事だった


対向車の助手席にそれらしい男が乗っていた

気付かせたのは彼女の執念



車のナンバーを照合数すると

車の持主が、犯人の関係者リストに該当する人物であったため

署に応援を要請をした


パトカーで犯人の車を少し追跡してから

一旦停止不十分として、犯人の乗る軽自動車を停止させた



後輩の巡査をパトカーに残し

まこは車に近づく

その間、助手席の犯人は無表情であった

顔写真そのまま


窓を開けさせ、一旦停止の話をすると

犯人は助手席から、すみませんと言った


もうすぐ応援がくる


まこは今回は見逃すが、免許書を確認すると告げた

運転手を車から降ろし、免許書を出させた

この警戒心のまったくない運転手は共犯者だろうか、

それとも何も知らないのだろうかと、まこは考えた


対して、この一連の様子に犯人の男の顔が硬くなったことが分かった


まこは、これは良くないと感じた



そこに、応援のパトカーがやって来た

犯人は気が付いた


応援のパトカーから警官が下りた瞬間

助手席に座っていた犯人は、運転手を外に残して車を急発進させた




しかし次の瞬間

ドンっという大きな音


犯人の車は大きな樫の木にぶつかって停止した



道路の真ん中に急に生えた樫の木

樹齢は今年30年になる


犯人の車は前方が歪み、フロントガラスは赤い血がついていた

犯人は強く頭を打ち、気を失っている



後輩の巡査はパトカーから出て救急車んだ

そして、突然現れた大きな樫の木を眺めた


配属された時に説明されていたが、見るのは初めて



応援のパトカーがサイレンを鳴らしながら

1台2台と増えていく


後輩巡査は道路に散らばったどんぐりを避けながら

応援に駆け付けた上司に状況を説明した





中年の女性研究者が話始めた

『定例会を始めさせていただきます』


『今日、まこが木になりました

 約7年ぶりになります』


『殺人犯を捕まえるためだったようです

 木の状態で時速40kmの軽自動車を受け止めました

 5分ほどで元に戻っています

 彼女に外傷は全くありません、身に着けていたものも木になる前のままです

 本人は足のスネあたりに少しぶつけたような感覚が残ると言っています』



年配の男性研究者が訪ねる

『今回の彼女の判断について危険はなかったんでしょうか』



『軽自動車程度であったため良かったという事が言えます

 木が折れるような衝撃になれば問題があったかもしれません

 木でなくなり元に戻ってしまいます

 しかし、それでも幾らか痛みのような感覚が残る程度です』


『彼女は自分の性質の事もよく解っていますし、正しい判断ができます

 今の彼女に任せておいて大丈夫です』




中年の女性研究は話を続けた

『私はもっと重要な問題があると考えています

 それは、結婚と出産です

 例えば、彼女の性質は妊娠に支障はないのでしょうか

 さらに言えば、彼女の子供に彼女の性質は受け継がれるんでしょうか』


『今だ、現在の科学技術では彼女の事を理解するには至りません

 その場合、彼女の性質を後世に残す事こそが、我々の使命と考えます』



年配の研究者が答えた

『これは彼女個人の問題で、彼女の選択する生き方を尊重させてあげたい』



定例会は終わった

女性研究者は埋まらない違和感を感じた

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