過保護な研究所
彼女が初めて木になったのは幼少期
近所の犬に吠えられて
樹齢はわずか3年の細い木になった
その後、犬におしっこをかけられた木は
犬がどこかに行くとまた女の子に戻った
しかし、道路のアスファルトには、
木の根が力強く突き破った穴が確かに残っていた
まこの両親は医者に見せた
それから大きな病院行き、
またそこから研究所へやってくる事になった
そして、しばらくそこで過ごす
研究所の検査・調査が一段落した頃
まこは普通に学校に通いだした
それが小学校2年生の時
心配する人も多かったが、すぐに学校に馴染んだ
学校の活動では運動が得意だった
高学年の頃には
彼女は活発、聡明な女の子に成長し
みんなをまとめる存在になっていた
学芸会の時には、その情熱をもってリーダーシップを発揮した
「みんなセリフ覚えてきてないし、話しの流れも覚えてきてない」
学芸会の練習でまこは怒っていた
クラスの輪を抜け、教室のすみにある鉢の上に立つと
彼女は自ら木になってしまった
たまに抗議する目的で木になる時がある
でも、みんな彼女の事が好きだった
クラスメイト達は木に集まり、ごめんと言った
樫の木の樹齢は10年
教室の天井に届く高さ
彼女はすぐに女の子姿に戻り、みんなに言った
「みんな、たかが学芸会かもしれない
だけど、ちょっとだけ無理をしてみよう」
笑顔で輪の中に入っていった
先生からは、あまり木にならないでねとお願いされた
クラスメイトが奮起した甲斐もあり学芸会は成功した
演技は他のものより良かった
父兄のひと際大きい拍手に、先生は涙しハンカチが離せなかった
クラスの中には一体感が生まれていた
まこも見事な木の役をやりきった
木になる力は使っていない
ダンボールで作った枝をもって、
「木の気持ちは一番分かっている」
と言っている
彼女のクラスメイト・父兄は彼女の性質について、
よく知り協力してくれていた
これは、研究所の人の調整があったためだ
学校に通うようになってからも
研究所には検査をするため定期的に通っていたが
できるだけ彼女が普通に生活できるように配慮されていた
中年の男性研究者が話した
『定例会を始めます』
『現状に影響を与えるような大きな問題点はありません
まこの健康状態についてもいつも通りです』
『彼女の習っている少林寺拳法について
上達が早く、本人も楽しんでいます
この前、上級生の男の子をやっつけたようです
彼女はクラスの男の子が泣かされたからと言っています』
『習い事は彼女にいい方向に導いています
学友も増えました
上級生の件もあり、彼女はみんなから慕われる存在です』
若い女性研究者が言った
『しかし
授業中に先生の問題に答えられなくて
木になってしまったようです
コントロールする方法は必要です』
『いじめっ子をやっつけた話ですが
相手を拳で殴っています
感情面のコントロールが必要です』
『現状問題がないのは
周りの人の多大な理解と、協力があるためです』
『少し、研究所で過ごした方がいいのでは
彼女のためでもありますし
木になる性質の調査は、
人類の科学技術の発展のためでもあると考えます』
中年の男性研究者が答える
『彼女は、幼少期、十分私達の研究に協力してくれた
小さいのに大変な試験もよく我慢してくれた
結果、今の科学技術では何も分からなかった
また繰り返すだけだ
それより、普通の子供同じ経験をさせてあげたい』
『今の彼女は幸せそうだ
あなたもいつか分かる』
年配の研究者が答えた
『私も、今の状態が理想的です
彼女についてできる調査・研究はすべて完了している
周りの関係者の協力には感謝しながら、続けていきましょう
『それから、彼女の性質が町の外の知られればどうなるか分からない
強引な考えの人間も世の中にはいます
この点については注意していきましょう
少林寺拳法は彼女にとっていい習い事だと思います』
女性研究者にとって、他の所員はまこに過保護であると感じられた
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