第10話 美しい人 ①
パトロールを終えた炎は、基地へと戻ってきた。
「空将、総帥がお呼びです。」
「了解。すぐ向かうよ。」
帰って来た早々、父さんに呼び出されるなんて。
ついてないな……
炎はそんな事を思いながら、基地の中にある、指令室へと向かった。
指令室は、母船の一番真ん中にあり、母親を亡くした父は、指令室と自分の部屋の往復だけ。
一日中、この母船の中で、生活をしていた。
炎は、指令室へ来ると、ドアをノックした。
「入りなさい。」
「失礼します。」
炎は中へ入ると、父親の前まで進んだ。
「今日の様子は、どうだった?」
「特に、何事もありませんでした。」
「途中で消えたヤツが、ちゃんと監視できたのか?」
「バレてましたか。」
「炎!!」
父親が机を叩く音は、幼い頃から聞いてたせいか、もう慣れている。
「どうして消えた?」
「少し、休憩していました。」
「休憩?バカか!その間に何かあったら、どうするつもりだったんだ!」
「すぐに駆けつけますよ。僕が運動神経いいの、父さんも知ってるじゃないですか。」
「おまえと言うヤツは!そういうところが、周りから批判の的になっているのが……」
その時、後ろからクスクスという、笑い声が聞こえた。
「総帥、空将はいざという時は、おやりになる方です。ご安心ください。」
部屋へ入ってきたのは、空軍で大佐を務める、
「海雨はいいところに、現れるな。」
海雨は、源一郎の妹の子供で、炎とは同じ年の従兄弟だった。
「空将の運動神経の良さは、私も認めます。何せ、私が勝てなかった、唯一の相手ですから。」
「大佐がそういうのなら、そうかもな。」
源一郎は、少し笑みを浮かべた。
「俺の言うことよりも、海雨のことを信じるんですか?父さん。」
「大佐は、うちのバカ息子よりも、信頼できるからな。」
「そうですか。」
源一郎は自分の姪というだけで、海雨を大佐にしたわけではなかった。
彼女の心の強さを、買っていたからだ。
「ところで、総帥。空将だけではなく、私もここに呼ばれた理由は?」
「ああ。二人に、紹介したい者がいてね。」
源一郎は、ゆっくりと立ち上がった。
「なんだ。俺に説教するだけじゃなかったのか。」
「それも、ここに呼んだ理由の一つだ。炎。」
「……ですよね。」
それを聞いた海雨が、隣で笑っている。
「やはり、親子ですね。」
「残念な事にね。」
炎は、両手を上げた。
「炎、そこまでにしとけ。」
「はい。」
源一郎が、隣の会議室のドアを開けた。
会議室から出てきたのは、青い髪の青年だった。
「紹介しよう。
「氷川です。よろしくお願いします。」
同じくらいの年に見えるが、しっかりとした挨拶をした。
「氷川君の操縦テクニックは、目を見張るものがあってね。すぐに大佐として、来てもらった。」
「大佐に?…」
海雨は、一向ににこりともしない、この青い髪の青年の事が気になった。
そして紹介された炎は、早速質問攻めだ。
「歳はいくつ?」
「…24です。」
「一つ下か。月には、移住の時に?」
「はい。」
「地球では何をしてた?」
「大学に通っていました。」
「どこの?」
「国立大です。」
「国立?俺達と一緒か。」
炎は、終始フランクだ。
「炎。あまり聞くと、尋問みたいに聞こえるわよ。」
海雨は、一旦炎の質問を、止めさせた。
「ごめん、ごめん。父さんがわざわざ連れて来る人って、すごい人が多いから、つい。」
炎は一人で、温かな笑顔を浮かべていた。
「え?父さん?」
雪成は、源一郎と炎を、交互に見た。
「綾瀬空将は、総帥の息子さんよ。」
「ええ!!」
雪成は無表情で、驚いた。
「じゃあ、あなたが……あの、綾瀬炎!!」
今度は炎を、指差した。
「何か俺、有名な人?」
炎はハニカミながら、聞いた。
「はい!!綾瀬炎といえば、工学部を一年で卒業したっていう……」
「ふう~ん。それで有名なの?俺。」
炎自身は、他人事のようだ。
「ハハハッ!まあ、いい。どうだ。氷川君を、食事に連れて行ってやれ。」
「分かりました。」
「私も行っていい?」
海雨が手を上げた。
「いいさ。海雨も空軍の大佐だ。」
「やった~!!」
海雨は、大はしゃぎだ。
「よろしくね、ユッキー。」
「ゆ、ユッキ~?」
「雪成だから、ユッキー。」
「勘弁して下さい。」
だが本当は、炎と雪成を、二人きりにはさせたくないと思う海雨の、作戦だった。
Save the Earth Ⅰ 日下奈緒 @nao-kusaka
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